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【第一部完結】薄明のエンプレス~大宙帝国興亡記~  作者: おおがみ陣矢
第一部 「落華流帝」編
101/421

◆◆◆◆ 6-6 覚悟 ◆◆◆◆

【 ヨスガ 】

「薄々わかっていると思うが――もうすぐ、ここは戦場になる」


【 ホノカナ 】

「――えええっ!?」


 ホノカナがヨスガにそう告げられたのは、昨夜のことである。


【 ヨスガ 】

「……なんだ、その驚きようは。まさか、想像もしていなかったのではあるまいな」


【 ホノカナ 】

「い、いえ――その、国母さまの件で、なにか、よからぬことが起きるのかな、とは思っていましたけど……」


【 ヨスガ 】

「まぁ、起こるというか、起こすというか……いろいろとな」


【 ミズキ 】

「祈願祭の話は、前にしましたね。あれはつまり――十二佳仙が手勢を集め、宮城に入れる口実です」


【 ホノカナ 】

「そ、それって……襲ってくるってことですかっ? だったら、逃げなくちゃっ……」


【 ヨスガ 】

「無論、逃げることが大事な場合もある。しかし……」


 と、ヨスガは一息置いて。


【 ヨスガ 】

「……この場合は、そうもいかんのだ」


【 ホノカナ 】

「どうしてですかっ……?」


【 ヨスガ 】

「今回に限っては、まず、相手に仕掛けさせねばならぬ。できることなら、先んずれば人を制す――というやつで、こちらから動きたいところなのだがな」


【 ホノカナ 】

「…………っ?」


【 ミズキ 】

「大義名分が必要なのです」


 ミズキが話を継ぐ。


【 ミズキ 】

「たとえば今、ヨスガさまが『十二賊を討つべし!』と勅命ちょくめいを発したとしても、その効果は薄いでしょう」

 *勅命……天子の命令の意。


【 ホノカナ 】

「……っ? でも、天子さまの命令なのに……」


【 ヨスガ 】

「天子といっても、我はまだ半端者にすぎぬ。成人もしておらぬし、皇太后が摂政せっしょうを務めておるわけだからな」

 *摂政……天子に代わって政務を執行すること。


 現時点でヨスガが打倒十二佳仙をうたっても、その主張には正当性がなく、将兵を動かすことはできないであろう――というのが、現実的な見立てであった。


【 ミズキ 】

「……ですが、自衛のためならば、話が変わってきます。大逆非道をなさんとした賊から身を守るため、兵を動かした……ということになれば、名分が立つというわけです」


【 ヨスガ 】

「ゆえに、先手はあちらに譲らねばならぬ。そうなると、我という格好の餌をうかつに動かすわけにはいかぬのだ」


【 ホノカナ 】

「は、ははぁ……」


 理屈はわかるが……釈然としないホノカナだった。


【 ヨスガ 】

「できれば、もっと支度が整ってからにしたかったが……是非もない。万事、こちらの都合には合わせてくれぬものだ」


【 ホノカナ 】

「……っ、でも、逃げないってことは……ここで、戦うんですよね?」


【 ヨスガ 】

「そうなるだろうな。なるべく戦いたくはないが」


【 ホノカナ 】

「それって……そうなったら、女官のみんなは――」


【 ヨスガ 】

「…………」


【 ミズキ 】

「……相手の狙いは、ヨスガさまのみです。無駄な殺生をおこなうことはないでしょうが……」


【 ヨスガ 】

「だが、安全だとはいえぬ。巻き添えを食う恐れは否定できん」


【 ホノカナ 】

「…………っ」


【 ヨスガ 】

「……綺麗ごとを言う気はない。もし今、宮女たちをことごとく城から出せば、あちらは怪しんで手を出してこない可能性もある。よって――」




【 ホノカナ 】

「…………」


【 シキ 】

「……? ホノカナちゃん?」


【 ホノカナ 】

「あ……ご、ごめん」


 ついじっと見つめてしまっていたシキの顔から、目を逸らす。


【 ホノカナ 】

「あの……ね、シキちゃん」


【 シキ 】

「うん?」


【 ホノカナ 】

「……きっと、なんとかなるよ。うん……!」


 と、シキの手を握るホノカナ。


【 シキ 】

「う、うん……そうだね……!」


 お互いの手は、わずかに震えていた……

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