◆◆◆◆ 6-6 覚悟 ◆◆◆◆
【 ヨスガ 】
「薄々わかっていると思うが――もうすぐ、ここは戦場になる」
【 ホノカナ 】
「――えええっ!?」
ホノカナがヨスガにそう告げられたのは、昨夜のことである。
【 ヨスガ 】
「……なんだ、その驚きようは。まさか、想像もしていなかったのではあるまいな」
【 ホノカナ 】
「い、いえ――その、国母さまの件で、なにか、よからぬことが起きるのかな、とは思っていましたけど……」
【 ヨスガ 】
「まぁ、起こるというか、起こすというか……いろいろとな」
【 ミズキ 】
「祈願祭の話は、前にしましたね。あれはつまり――十二佳仙が手勢を集め、宮城に入れる口実です」
【 ホノカナ 】
「そ、それって……襲ってくるってことですかっ? だったら、逃げなくちゃっ……」
【 ヨスガ 】
「無論、逃げることが大事な場合もある。しかし……」
と、ヨスガは一息置いて。
【 ヨスガ 】
「……この場合は、そうもいかんのだ」
【 ホノカナ 】
「どうしてですかっ……?」
【 ヨスガ 】
「今回に限っては、まず、相手に仕掛けさせねばならぬ。できることなら、先んずれば人を制す――というやつで、こちらから動きたいところなのだがな」
【 ホノカナ 】
「…………っ?」
【 ミズキ 】
「大義名分が必要なのです」
ミズキが話を継ぐ。
【 ミズキ 】
「たとえば今、ヨスガさまが『十二賊を討つべし!』と勅命を発したとしても、その効果は薄いでしょう」
*勅命……天子の命令の意。
【 ホノカナ 】
「……っ? でも、天子さまの命令なのに……」
【 ヨスガ 】
「天子といっても、我はまだ半端者にすぎぬ。成人もしておらぬし、皇太后が摂政を務めておるわけだからな」
*摂政……天子に代わって政務を執行すること。
現時点でヨスガが打倒十二佳仙をうたっても、その主張には正当性がなく、将兵を動かすことはできないであろう――というのが、現実的な見立てであった。
【 ミズキ 】
「……ですが、自衛のためならば、話が変わってきます。大逆非道をなさんとした賊から身を守るため、兵を動かした……ということになれば、名分が立つというわけです」
【 ヨスガ 】
「ゆえに、先手はあちらに譲らねばならぬ。そうなると、我という格好の餌をうかつに動かすわけにはいかぬのだ」
【 ホノカナ 】
「は、ははぁ……」
理屈はわかるが……釈然としないホノカナだった。
【 ヨスガ 】
「できれば、もっと支度が整ってからにしたかったが……是非もない。万事、こちらの都合には合わせてくれぬものだ」
【 ホノカナ 】
「……っ、でも、逃げないってことは……ここで、戦うんですよね?」
【 ヨスガ 】
「そうなるだろうな。なるべく戦いたくはないが」
【 ホノカナ 】
「それって……そうなったら、女官のみんなは――」
【 ヨスガ 】
「…………」
【 ミズキ 】
「……相手の狙いは、ヨスガさまのみです。無駄な殺生をおこなうことはないでしょうが……」
【 ヨスガ 】
「だが、安全だとはいえぬ。巻き添えを食う恐れは否定できん」
【 ホノカナ 】
「…………っ」
【 ヨスガ 】
「……綺麗ごとを言う気はない。もし今、宮女たちをことごとく城から出せば、あちらは怪しんで手を出してこない可能性もある。よって――」
【 ホノカナ 】
「…………」
【 シキ 】
「……? ホノカナちゃん?」
【 ホノカナ 】
「あ……ご、ごめん」
ついじっと見つめてしまっていたシキの顔から、目を逸らす。
【 ホノカナ 】
「あの……ね、シキちゃん」
【 シキ 】
「うん?」
【 ホノカナ 】
「……きっと、なんとかなるよ。うん……!」
と、シキの手を握るホノカナ。
【 シキ 】
「う、うん……そうだね……!」
お互いの手は、わずかに震えていた……
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