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軍師は何でも知っている  作者: タンバ
第四部 アルビオン編
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第三章 覚醒3

二話連続投稿です

 俺がいた場所は先ほどのグワイガンの一撃でめちゃくちゃになっていた。

 よくもまぁ、無事だったものだ。


「私はやることがある。あの“男”くらいなら、一人で十分だろう?」

「それは問題ない。けど、あの竜が問題だ」

「グワイガンと戦うときには加勢してやろう」


 そういって、レルファは姿を消した。

 まさに神出鬼没といったところか。

 さてと。

 ゆっくりと、ソフィアがいる城壁への道を探る。

 家が崩落している以上、最短距離が最速になるとは限らない。

 とはいえ、魔法が全開で発動しているせいか、その道を探るのはさほど難しくは無い。

 俺の脳内では、グワイガンに壊される直前の付近の映像が流れていた。

 それらはスローになり、どこの建物が壊れ、どこの道が無事かを俺に教えてくれる。

 簡単な過去視だ。

 過去を見ることで、アルビオンの現状を把握することができた。


「一番手っ取り早いのは……」


 呟きながら、俺は城壁のほうとは真逆に走りはじめた。

 理由は、グワイガンの一撃で、周辺の建物がほぼ倒壊していたからだ。

 城壁にいくには、回り道をする以外に手はない。

 地上を行くならば。

 俺の視線の先には大きな邸宅があった。

 その邸宅は、アイリーンの実家。つまりは、メイスフィールド家の館ということだ。

 その門の手前あたりに、巨大な白い鳥が倒れていた。

 アイリーンの相棒であるクロウだ。

 過去視で確認したときに、クロウは上空にいた。

 グワイガンが降下を開始したとき、それを阻止しようとして、地面にたたきつけられていたのだ。


「生きているか、クロウ?」

『……貴様は……』

「ユキト・クレイ。お前の味方だ。動けるか?」


 クロウを助け起こしながら、俺はそう尋ねた。

 傷の具合からいって、飛べなくはないといったところだろうか。


『なにをさせる気だ……?』

「俺を乗せて飛んでくれ」

『ふっ……この状況でまだなにかする気か……?』

「生きてるからな。なにかしなくちゃ、死んだ人たちに申し訳が立たない。それに……助けなきゃ駄目な人がいる」


 どうにか体を起こしたクロウは、目を瞑り、そして、メイスフィールドの館をみた。


『アイリーンを助ける気はあるか……?』

「もちろんだ。助けなきゃ駄目な人の中に、アイリーンもしっかり入ってる。

頼む。連れて行ってくれ!」


 多少、俺の身体能力が向上していたとしても、城壁まではかなりの距離がある。

 さらには回り道をしなければ、たどり着くこともできない。

 今、残されている手はクロウに乗って、空を行くことだけだ。


『途中で落ちても知らんぞ……』

「大丈夫だ。お前はもっとボロボロの状態のときに、アイリーンを乗せて、長い距離を飛んだことがあるだろう?」


 能力を制限できないせいで、クロウの過去が見えてしまった。

 山で魔獣に遭遇し、まだ小さなアイリーンを背に乗せて、重傷を負いながらも、懸命に飛び続けたクロウの姿が。


『……ふっ……アイリーンが喋ったのか?』

「いや、俺が何でも知ってるだけさ」


 そう俺がいうと、クロウが小さく笑って、大きな羽を広げた。




■■■




 上空。

 破壊された一部を除けば、アルビオンの被害はそこまででもないようだ。

 住民の避難もスムーズにいっているようだし、魔獣への対処もしっかりと取れている。

 上に竜がいたときは、恐慌状態に陥っていたが、ソフィアがアルビオンの外へとはじき出したことで、落ち着きを取り戻したか。

 それと、ソフィアが姿を現したというのも重要な要素の一つだろう。

 この調子なら、竜とだって戦える。

 まぁ、その前にソフィアがアルフレッドの手に落ちてしまえば、意味はないが。


「……捉えた!」


 俺の視線の先に、ソフィアとアイリーンがいた。

 ソフィアが何とかアイリーンを近づけないように突風を起こしているが、アイリーンはもう手が届くのではないかというところまで迫っている。

 アイリーンの後ろではアルフレッドがしたり顔で腕を組んでいる。

今回ばかりは、その余裕に感謝しなくちゃだな。

 おかげで間に合った。

 

「クロウ!」

『わかっている! 突っ込むぞ! 捕まっていろ!!』


 クロウがいきなり翼をはためかせ、速度をあげた。

 なんとか体勢を低くし、クロウにしがみつく様にして、その急激な変化に耐え切る。

 そして耐え切ったと思い、目を開けたときには、もうアイリーンとソフィアは目の前だった。

 咄嗟にクロウの体から手を離し、城壁へと飛び乗る。

 ちょうど、アイリーンとソフィアの間に割って入る形になった俺は、ソフィアが起こしている突風を背中に受けて、アイリーンと接触した。


「ちっ!」


 アイリーンをどうにか拘束しようとしたが、アイリーンは後ろへと飛び、ソフィアの突風に上手く乗ることで俺から距離をとった。

 さすがの反射神経だな。敵の攻撃を避けるにはどうしたらいいか、体が知っている。

 でも、考えるより体が先に動くから、今の俺には予想しやすい。

 今の俺には武器すらないけれど、ただの操り人形になっているアイリーンなら、武器はないほうがやりやすい。

 俺を確認したからか、ソフィアが生み出した突風が消え去った。

 後ろからの推進力を唐突に失った俺の体は、減速して体勢が崩れるが、どうにか転ばずに着地をした。

 目の前にいるのはアイリーンだ。転んだりすれば、速攻でやられるだろう。


「ユキト!?」

「無事なようでなによりだよ。ソフィア」


 後ろにいるソフィアに振り返らずに、言葉だけ送る。

 俺としては、今すぐ再会を喜びたいところだけど、目の前の相手がそれを許してはくれない。

 俺という乱入者に対して、一度は距離をとったアイリーンだが、ソフィアの突風が消えたとみるや、すぐに剣を構えて、間合いを詰めてきた。

 瞬時に詰めてこないのは、ソフィアを警戒してのことと、空を旋回しているクロウの出方を窺っているからだろう。


「ソフィア。クラルスを貸して」

「アイリーンと戦う気ですか!? その子は魔術師ですが、武芸の達人でもあります!

 ユキトでは相手になりません!」

「俺の評価低いなぁ。いいから貸して。大丈夫だから。信じて」

「……」


 じりじりと下がりつつ、苦笑を浮かべながら、俺はそうソフィアにいった。

 この眼がなければ、クロウに乗って、ソフィアと共に逃げることを真っ先に考えるが、今はこの目がある。

 それにこの期を逃せば、アイリーンを救う機会がなくなるかもしれない。

 俺は後ろの差し出した手に、何かが置かれるのを感じて、置かれた物をしっかりと掴んだ。


「絶対に……無理はしないでください」

「わかったよ。ソフィアはあの竜をお願い」


 不思議と手に馴染む感触が懐かしい。

 神扇・クラルス。エルフィンが製作した操作魔術に対する切り札。

 直接、肌に触れさせることさえできれば、どんな魔術でも解除することができる。

 これさえあれば、アイリーンも元に戻せる。直接肌にふれさせることができればだが。

 あのアイリーンの攻撃を掻い潜る必要がある。

 俺は懐に扇をしまい、呼吸を整えた。

 そして。


「まぁ、やるしかないか……!」


 呟くと同時に、俺は前に出た。

 今の俺の位置では、ソフィアに近すぎるというのもあったが、一番の理由は、アイリーンの行動を制限したかったからだ。

 城壁の上は、人が三人ほど並んで歩けるくらいの広さがある。

 この広さの中、アイリーンに攻撃の主導権を握られては、対処に困る。

 だから、自分から前に出たのだ。

 今のアイリーンは、おそらく、ヴェリス内乱時のカグヤ様の状態よりも更に酷い。

 与えられた命令をこなすだけの操り人形状態になっている。だが、そのせいで、考えて動くことが少なくなっているように思える。

 それは紛れもなく付け入る隙だ。

 アイリーンは足を止めて、俺を迎撃することを選択した。

 だが、既にそのときには、俺の脳内にはアイリーンの過去が再生されていた。

 メイスフィールドの館の庭で、修練に明け暮れるアイリーン。

 そして、練習しているのは突っ込んできた相手への対応技だ。

 アイリーンが使う剣術の中で、突っ込んできた相手への対応技は二つ。

 右下段に構えた状態からの左への切り上げか、右上段からの振り下ろしか。

【右下段からの左への切り上げ。約98パーセント】

 アイリーンが下段に構える動作を始めた瞬間に、俺の視界に画面が浮かび上がり、そう確率を表示した。

 同時に俺は体を右に倒して、右手を地面につく。

 俺の体に当たるか当たらないかの所を、アイリーンの剣が通っていった。

 一撃目はかわした。けれど、アイリーンの攻撃は必ずかわされたことを想定している。

 次に来るのは。

【上段からの振り下ろし。約89パーセント】

 迷わず、地面についた手に力を入れて、微かに横へと体をずらした。

 最後まで残っていた右手の爪の先に剣が掠った。けれど。


「二つ……!」


 考えないということは、体に染み付いた動きに従って動いているということだ。

 つまりは修練どおりの動きしかしない。

 これがしっかりと考えることができるならば、自分の動きが読まれていることに気づくだろうが、今のアイリーンの状態では、そういう柔軟さはありえない。

 俺は地面を蹴って、アイリーンに肉薄した。

 アイリーンが得意とする武器は、本来は大鎌だ。

 リーチの長い鎌での戦いに慣れたアイリーンは、敵に密着されることを苦手としている。

 本来なら、そんな至近距離に入る前に仕留められるはずだが、対処能力が落ちていたこと。

そして、鎌のように大振りな動きだったことで、俺の接近を許してしまった。

 この距離からアイリーンがする攻撃は。

【右薙ぎ。約97パーセント】

 右腕を小さく畳んで、接近してくる相手と自分の間にある僅かなスペースを使って放つ奥の手。

 それをしゃがんで避けた俺は、懐から取り出した扇をアイリーン目掛けて投擲した。

 手で掴めば、それでお終い。避けようにも、緊急手段の奥の手を放った体では満足には動けないだろう。

 しかし、アイリーンはその状況で、神がかり的な反応を見せて、剣を腕の力だけで引き戻して、扇を断ち切った。


「はっはっは!! 勝負あったな! ユキト・クレイ!」

「ああ。勝負あった」


 俺はそういいながら、左手で取り出したクラルスで、軽くアイリーンの首を叩いた。


「馬鹿な!?」

「皇国の職人が、俺が与えた情報だけで作った贋作だったんだが……よくできていただろう?」


 気を失い、力なく倒れこんできたアイリーンを受け止めながら、俺は離れた場所で愕然としているアルフレッドに向けていった。

 本来は、クラルスは俺が持っているという先入観念を利用した作戦のために用意したものだったが、最後の最後で意外な形で役に立った。

 当初の予定なら、俺が時間稼ぎをしている間に、ノックスを護衛としてやってきたソフィアに、アルビオンの混乱を収めてもらうつもりだった。

 その際に必ず出てくるだろうストラトスへの対策もかねて、ソフィアにクラルスが渡るようにしたのだけど、色々と予想外な事態なせいで、作戦は崩壊。

 クラルスはソフィアの護身具としては圧倒的な防御力は発揮しなかったけれど、ヴェリスの内乱と同じく、操作魔術の枷を解く鍵としては絶大な効果を発揮した。


「ありえない! ありえない!」

「あり得ているんだ。認めろ。もうお前の負けだ」

「ふ、ふ、ふっはっはははは!! もう勝った気か!? 未だにグワイガンは僕の意のままに動く! アイリーンを失ったところで、痛くも痒くもないさ!」


 そう高らかに宣言したアルフレッドを一瞥したあと、俺はアイリーンをそっと地面に寝せて、落ちているアイリーンの剣を拾った。


「お前が持っている宝玉が黒竜グワイガンを操っているんだろうが……竜を操るほどの強力な魔術具が存在するわけがない」

「なにをいっているんだい? 現にここにある!」

「言葉が悪かったな。竜はその巨大な体、力ゆえに長い休眠期と僅かな活動期を繰り返す。今、グワイガンは休眠期のはず。おそらく、その魔術具は休眠期のグワイガンを無理やり起こして、寝ぼけている間に操っているに過ぎない、と俺は推測している」

「……」


 アルフレッドは手に持っている宝玉をまじまじと見た。

 俺の魔法でもあの魔術具の名前や効果はわからない。それに、アルフレッドが誰から受け取った物なのかも過去視で見れない。

 魔法が通じないのは、同レベルの力が働いているからだろう。

 おそらくは、エルフィンがいっていたモルスが関わっているんだろう。


「まぁ、あくまで推測だが、お前に残された時間は少ないぞ? グワイガンが覚醒すれば、お前の命令なんか聞くわけないからな」


 そもそも、竜を意のままに操れるなら、当の昔に使っているはずだ。

 竜には古来種同士が結んだ制約は関係ないのだから、竜を使って、世界を滅ぼせばいい。

 使わないということは、何かしらのデメリットがあるということだ。


「……随分と余裕だね。その自信は、その金色の目のせいかな?」

「どうだろうな? 前から俺はこんなもんだぞ?」


 そういって、俺は剣をアルフレッドに向けた。


「さてと、お前の従兄妹に殴るっていってあったんだが……お前のせいで出来なくなった。

 だから……代わりにお前が殴られろ!」


 言うと同時に、俺はおもいっきり前に踏み込んだ。







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