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軍師は何でも知っている  作者: タンバ
第二部 王国再建編
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第四章 前進

 内乱が終わって早くも一月が過ぎた。

 ヴェリスはカグヤ様を新国王に据えて、着々と前王の暴虐と内乱による傷を癒しつつあった。

 新国王についてはディオ様を推す声もあったのだが、長くは生きれない事を理由にディオ様が辞退した。本当はうまくすれば後、三十年くらいは生きれるらしいけど、それを言うとまた国が分裂しかねない。俺はディオ様を推す人々を説得に回り、何とかカグヤ様に反対する声を抑えた。

 決め手は国王にディオ様と共に立ち向かった事だろう。これがなければかなり危うかった。まぁ国王の下に行ってないって事は未だにストラトスの術下って事だから、内乱は続行中だっただろう。そう思えば、俺はかなり決定的な働きをしたと言える。

 自画自賛したのは自分で自分を褒めないと誰も褒めてくれないからだ。

 俺に押し付け、もとい任されるのはカグヤ様、ディオ様の判断のいらない政務ばかりで、自分で判断しなければいけないものばかりだった。何故、押し付けられるのかといえば、俺以外に適任者が居ないからだ。

 前国王の下で働いていた文官で、今も王城で働いているのはごく僅かだ。それ以外はディオ様の公正な判断で裁かれている。賄賂やら脅迫やらとあげればキリがないほどの悪事を働いている者たちばかりだったから、公正さなんて必要はなかったけれど。ほぼ全員が死刑だ。

 問題はそれを引き継ぐ者が少ないと言う点だ。カグヤ様の補佐にはアンナが、ディオ様の補佐にはユーレン伯爵が付いている。その為、あの内乱で功績のあった者は、王城内では俺くらいしか居なかった。

 そのほかの優秀な者たちは国内各地に散っている。まだ国内が完全には安定していないからだ。余命が宣告されているディオ様が王城で仕事に携わっていられるのも、単純に人手不足だからだ。周りは療養を進めたが、ディオ様が納得しなかった。まぁ本人としてはまだ死ぬ事はないだろうっていう妙な自信を持っているから当たり前なんだが。

 とにかく、そんな理由で、新しく文官に任命された者たちは判断に困った案件を全て俺に持ってくる。

 つまり。


「過労死しそうだ……」

「何を言っているんですか。こういう地味な作業が組織を維持するには大事だと、ハルパー城で言ってたじゃないですか」

「あの時は必死だった。命が掛かってた。今は違う! 休みが欲しい! たっぷり寝た後に本を読みたい……」


 ミカーナが容赦なく俺の前に上質とは言い難い紙の束を置くので、俺は椅子の上で体育座りをして抗議する。


「あなたの補佐である私も休みなんてありません。文句はありますか?」

「……ないけどさ……」

「では、書類に目を通してください。そしてどう対処するかについて考えてください」


 ミカーナに促され、俺は渋々ながら紙に目を通す。

 寄せられる案件それぞれは大した事はない。内乱で一部山賊化した兵士たちの対処とか、内乱の主戦場になった国の中央部に住んでた人からの意見書とかだ。山賊の対処はアルス隊長の傭兵団に任せる事にしている。これまでに三つの山賊を討伐している。今回も任せて大丈夫だろう。意見書は読んで、内容を頭の隅に置いておけばいい。大事な事は俺の口からディオ様とカグヤ様に伝えるからだ。

 しかし、数は力だ。徐々に集中力がなくなってくると、対策が思い浮かばずに時間が掛かる。時間が掛かると睡眠時間が削られる。睡眠時間が削られると集中力がすぐに切れる。


「一番の案件は文官不足だよ……。まだあの人は城から出てこないの?」

「ベイド・ファーン様ですか? そうですね。いじけて出てこないのだとか」

「いじけてって一体、なんだよ……」


 カグヤ様の軍で補給を一手に引き受けていたベイド・ファーンと言う人物は、カグヤ様の要請を無視して、城に引きこもっている。

 どうにもカグヤ様が城に軟禁したのを根に持っているらしい。操られていた旨は伝えた筈だが、不信感は拭えないと言う事だろうか。


「気持ちはわかるかと。私がもしもユキト様にそれをやられたら」


 内乱が終わったら辺りからミカーナは俺の事をユキトと呼ぶようになってる。周りが全員ユキトと呼んでいるからつられてしまったようだ。本人も俺も違和感がないから敢えて、何か言う事はしてない。


「射りますね」

「殺すって意味かな? 何か理由があるかもしれないよ?」

「では刺す方向で。おそらく剣なら死なないかと」

「一層、死んだ方がマシな目に遭いそうだし、ミカーナをどこかへ移すってことはしないようにするよ」

「賢明な判断かと。しかし、そうですね。私もそろそろ休みが欲しいです。というかユキト様以外の人の顔を見たいです」


 さらっと傷つく一言を呟いたミカーナは、思い出したかのように俺に渡した紙の山の下の方にある紙を取り出す。


「カグヤ様からの嘆願書です」

「意味が分からないよ……」


 俺は首を左右に振りながらそれを受け取る。国王からの嘆願書ってだけでも意味不明なのに、それを一番下に置いておいたミカーナの行動も意味不明だ。


「なになに、ベイド・ファーンの説得に行くので同行をしてもらえないだろうか、か……俺の代わりを連れてくるのに俺が城を離れたら、この紙の山は誰が処理するんだろう」

「だから却下すると思って一番下に置いておいたんですが、カグヤ様が直接行っても、ファーン様は取り合わない気もします」

「あー、確かに。いや、カグヤ様なら強引に連れてくる可能性も有り得るぞ?」

「だから門を開かない可能性があります。ですから、ユキト様もついて行って、確実にファーン様を説得してきてください」


 ミカーナが疲れた表情でため息を吐く。憧れたカグヤ将軍も、蓋を開ければ完璧ではないと言う事がショックだったのか、それともただ単にカグヤ様の行動のフォローに疲れたのか。

 どっちもな気がする。カグヤ様は思い立ったらすぐに行動する。迷うとか、躊躇うとかって言う事と縁がないのだ。正しいか正しくないか、得か損か、そこらへんの計算も含めて、恐ろしいほど頭の回転が早いのだ。しかし、周りは迷うし躊躇う。そしてカグヤ様ほど頭の回転は早くない。

 だからカグヤ様について行くのは生半可な事じゃない。だからアンナだけじゃフォローの手が足りない時にはミカーナが駆り出される。

 この前、現地視察してくると言って、阿呆みたいな速度で馬を走らせ、日帰りで帰ってきた時は流石にアンナに同情を覚えた。一緒に連れて行かれ、疲れ果てて帰ってきたミカーナにもだけど。

 それを見て、ディオ様はずっと笑っているのだからタチが悪い。微笑んでるじゃない、笑ってる、だ。

 注意しなければいけない立場のディオ様は、面白いから放っておこうの方針だから必然、注意するのは俺になる。一応、周りの事も考えてください。と言っているが効果がないため、せめて俺かディオ様に許可を取るようにと言った結果が、この嘆願書か。

 大きく嘆願書と書いてある点が一番疑問だ。なぜ命令書ではないのか。もしかしたらアンナがついにキレたのか。いやそれこそ有り得ないか。操られるカグヤ様にもついて行ってしまうほどカグヤ様への忠誠を見せるアンナだ。不満を爆発させる訳がない。

 そうなると何故、嘆願書なのかわからん。


「ねぇミカーナ」

「はい?」

「何で嘆願書なんだと思う?」

「おそらくですが、操られていたとは言え、ご自分のせいで起きた出来事の後始末を命令するのは矜持が許さず、かと言って直接頼むのも矜持が許さなかったのかと」

「難儀な性格だなぁ」


 何でもできると言う点ではカグヤ様も前国王やディオ様と共通している。二人と共通しないのは、プライドが高いと言う所だろう。プライドが邪魔するから前国王のようにはならないのだ。

 ディオ様が俺に求めたブレーキ役をプライドが担っているのだ。ただ、それは時として、こちらを困惑させる要因にもなる。

 生きづらい人。そうディオ様は称したが、その通りだ。もっと言えば。


「面倒な人だなぁ」


 ため息混じりにそう呟いたら、ミカーナに怒られた。つい本音が。




■■■




 翌日。

 俺は前を走るカグヤ様とその愛馬に引きずられるようにして、ベイド・ファーンが引きこもる城へ向かっていた。アンナとミカーナは、俺とカグヤ様が居ない間に膨大な仕事を処理する事になったディオ様とユーレン伯爵の補佐だ。あの四人なら一日くらいなら問題ないだろう。新しい文官たちもそろそろ仕事にもなれ始めているし、だから。

 問題は王城ではない。俺の現状だ。

 こうして馬にただ乗っている事を強要されるとつくづく思う。

 カグヤ様は人にモノを教えるのは絶対苦手だ。と。

 自分ができる事は他人ができる筈。とまでは行かないが、自分が容易にできる事は、他人も頑張ればできる筈。くらいは思っているだろう。

 更にさっさと答えにたどり着くため、途中経過を説明しない事が多い。つまり、自分がどうしてその答えにたどり着くのかを説明しないのだ。答えだけを提示された方はポカンとしてしまう事が多い。そして、その表情を見て、ようやく、カグヤ様は相手が答えにたどり着くまでの過程を把握できてない事に気付く。

 天才肌の人間によくあることだ。だが、もう少し他人に気を配って欲しい。

 この速度は拙い。下手すれば振り落とされる。

 カグヤ様が操る馬に負けまいと、俺が乗っている馬も走る。当然、俺の指示など受け付けない。おかげで馬にしがみついていることしかできない。


「ふぅ、着いたぞ。ユキト」

「帰らせてください……」

「どうした!?」


 笑みを浮かべて振り向いたカグヤ様に俺はそう願う。車酔いの上位版だ。おまけにずっと体に力を入れていたせいか、体に思ったように力が入らない。

 つまり帰りたい。僅か二時間ほどだが、カグヤ様の速度に付き合うのは俺にとっては苦行以外の何物でも無い事がわかった。ミカーナめ。これを俺に味あわせる為に今回の件に賛成したな。帰ったら覚えてろ。


「そ、そんなに辛かったか……? あんまり速く走ったつもりはなかったんだが……」

「戦場ではないのに、命の危険を感じました……」

「す、すまない……以後気をつける……」

「結構です。帰りは一人で帰りますから」


 隣で一緒に走れば、テンションが上がってスピードを上げるに決まってる。一緒に走らないのが一番賢明な選択だ。


「なに!? 怒っているのか……?」

「怒ってはいません。ただ単に死にたくないだけです」

「怒っているではないか……」


 そう言って、俺はベイド・ファーンの城を見上げる。そこまで大きくはない。警備も手薄だ。

 だが。

 警備をしている者たちは腕利き揃いだ。人を見る確かな目を持っているんだろう。


「さっさと城から出てきてもらいましょう」

「城に入れてくれるだろうか?」


 城の周囲に居る者たちは俺たちに近づいてはこない。自分の持ち場をただ守っていると言った感じだ。そういう命令を受けているのだろうか。


「行く旨は伝えてありますし、入れてはくれるでしょう。歓迎はされないでしょうが」


 仮にも国王が来たのに出迎えは無しだ。まぁ今回はお忍びだから仕方ないか。それでも少し遅れて、数十人規模の騎士たちが俺とカグヤ様を追っている。ディオ様の判断で出された騎士たちだ。カグヤ様は知らないだろうが、気配で分かっている可能性はある。


「歓迎などいらん。城から出て、王城に来てくれれば問題ない」

「自分で軟禁しておいて言う言葉ではないと思いますが」

「最近、私に辛辣な言葉を投げかけてくるのはどうしてだ? 一応言っておくが、私も傷つくのだぞ?」

「一応言っておきますが、誰しもカグヤ様のように何でもできる訳ではないので、あしからず」


 ジト目で俺を睨んできたカグヤ様にそう返すと、カグヤ様は思うところがあるのか、バツが悪そうな顔をして押し黙る。


「さて、入りましょうか。交渉はさっさと終わらせて、ゆっくり王城に帰りましょう」

「言葉に棘があるぞ……」


 肩を落として軽く落ち込むカグヤ様を尻目に、俺はベイド・ファーンの城門へ足を向けた。




■■■




 開け放たれていた城門を潜り、城に入った俺とカグヤ様は、案内を頼む人を見つけられず、城の中を歩き回っていた。


「ベイドは信用した者しか傍には置かない。だから城に居る召使が少ないのは理解できるが、これはあからさまにわざとだな」

「カグヤ様……本当に軟禁しただけですか? もっと前から嫌われるような事をしていたのでは?」

「何を言う!? 私はベイドを最も信頼し、重用してきたぞ! 大事な役目を何度も任せた!」


 大事な役目を任されて喜ぶアンナのような人もいれば、できれば仕事をしたくないという人も世の中にはいる。カグヤ様は生まれが良すぎるせいか、生来の性格のせいか、勤勉である事や功績を上げようとする事などは、当然だと考えてる節がある。

 戦場での視野の広さとは雲泥の差があるほど、普段の視野は狭い。いや、視野が狭いと言うよりは知らない事が多すぎる。カグヤ様は世間知らずなのだ。


「本人がどう思っていたかが大切なんです。カグヤ様がどう思っていたかは、失礼ですがあまり関係ありません」

「……そんなに私は駄目だろうか……?」


 俺の言葉を聞いて、少々自信が無くなったのか、カグヤ様は俯いてしまう。

 今日はカグヤ様の変わった一面をよく見る日だ。いつもは自信満々なのに、今日に限ってやけに俺の言葉に反応する。


「駄目じゃないですと言って欲しいですか?」

「……そなたがここまで意地悪な人間だとは思いもしなかった。その言葉に頷けるなら苦労はしない」

「意地悪とは心外ですね。至上の乙女が太鼓判を押すほど優しいですよ、俺は」


 そう言って、俺はカグヤ様の表情を伺う。もう落ち込んではいない。だが、とても不機嫌そうな顔をしていた。

 できるだけ不愉快さを前面に押し出した、そんな表情だ。実際の心境もそんなものだろう。


「また、至上の乙女か……そなたは飽きるという事を知らないのか?」


 ジト目を更に険しくした目で、俺は睨まれる。地雷を踏んでしまった。

 カグヤ様は俺とディオ様がソフィアの話を、自分の前でする事を嫌う。話題に上げるのも嫌がる。ディオ様曰く、仲間はずれが嫌だからだろう。と言う事らしいが、それにしたって過敏に反応しすぎな気がする。


「そう言われましても、ソフィアに飽きる男なんてこの世には居ないかと」

「そなたは私をイラつかせる天才だな! もういい! 早くベイドを探すぞ!」


 きっと俺を睨み、カグヤ様は早歩きで先を急いでいく。しまった。つい本音が出てしまった。あそこで謝っとけば怒らせる事もなかったのに。

 そんな事を思いつつ、俺はカグヤ様の後を追う。

カグヤ様はときおり部屋の扉を開け放ち、ベイド・ファーンがいるかどうか確かめるが、中々見つからない。そして、カグヤ様を追っている俺は結構足にきている。そろそろ見つかって欲しい。

 そう願っていると、カグヤ様が立ち止まる。カグヤ様に追いついた俺は、立ち止まった理由を知る。

 扉に木の板が掛かっていたからだ。木の板には、ここに居るよー。と書かれている。

 なんだろう。字から伝わってくる印象が軽い。ベイド・ファーンと言う人間は年は二十後半で、カグヤ様の信頼厚く、知識の豊富な賢人と聞いていたから、勝手に物静かで、眼鏡でも掛けてそうな人を想像していたのだが。


「ベイドらしいフザけた思いつきだ」

「俺の中にあったベイド・ファーン像がどんどん崩れていく……」


 俺の呟きなど全く気にしてないのか、カグヤ様は扉を容赦なく開ける。プライバシー的な事は一切、関係ないらしい。まぁここに居るよーって書くくらいだから、開けられても問題はないだろうが。


「ベイド! 王城へ来てもらうぞ!」

「えー、嫌かなぁ」


 押して開けるタイプの扉を開けたカグヤ様は、部屋の中に勢いよく入って、足を止めた。いや、止められた。くすんだ金色の髪を肩口まで伸ばした男によって。おそらく、この人物がベイド・ファーンだろう。見た目からして軽い。現代日本ならチャラ男と呼ばれているだろう。

 カグヤ様を止める。それがどれほど大変な事か、俺は身をもって知っている。ソフィアの魔力が込められた扇の力が無ければ、止める事すらできなかっただろう。だから、カグヤ様を止めたベイド・ファーンには敬意を表したいと思う。

 その方法も男として敬意に値する。決して真似しようとは思わないが。


「な、な、な……!?」

「うーん、一度揉んでやろうって思ってたんだよねぇ。カグヤの胸」


 死んだな。そう思った俺は間違ってない筈だ。顔を真っ赤にしていたカグヤ様の表情が見る見る険しくなっていき、やがて無表情に変わる。その間も、カグヤ様の胸に這わせた両手の指をくねくねと動かして、手の平から溢れる感触を堪能している辺り、本当に尊敬に値する。死んでも真似はしないだろうが。


「死ね」


 ストラトスを斬った時並の冷たい声だ。カグヤ様は右手に魔力を纏わせて、ベイド卿の顔に思いっきり当てに行く。だが。


「無駄無駄。誰が魔術を教えたと思ってるんだ?」


 片手でカグヤ様の拳を受け止める。魔術を無効化か相殺したんだろう。それでもカグヤ様の拳を受け止めるなんて尋常じゃない。

 ステータスを見れば戦闘力は八十前半。知力は百を超えてるし、魔力も八十後半だから、戦っても弱い人ではないんだろう。何故、こんな人が裏方に徹してたのか。いや、今はそんな事より、何故、胸から手を放さないのか。

 形を変えているのが分かるカグヤ様の胸を思わずガン見してしまう。見るなと言うのは、健全な男には無理な注文だと思う。それにカグヤ様は見るなとは一言も言っていない。


「放せ! 嫌だ!」

「はいはい。冗談だ、冗談。だから怒るな睨むな」

「冗談で女の胸を揉むな! 私を一体、何だと思ってる!?」


 涙目でカグヤ様はそう言いつつ、片手で自分の体を抱いて、もう片方の手で俺をベイド卿と自分の間に入れる。盾代わりらしい。


「ストラトスやら前王やらに手を出されていないか確かめただけだ。まぁその様子じゃ無事だったみたいだな」

「当たり前だ! 無礼すぎるぞ!?」

「簡単に精神干渉系の魔術に掛かる奴に払う礼なんてねぇよ。少しは反省しろ。さて、お前が噂の軍師か? カグヤが無事なのもお前のおかげだって聞いてるぜ」


 ベイド卿の言葉に俺は肩を竦める。俺のおかげと言うよりは、ソフィアから受け取った扇のおかげと言った方がいい。あれが無ければ俺の命もなかっただろう。


「ユキト・クレイと申します。ベイド・ファーン卿で間違いありませんか?」

「おう。オレがベイド・ファーンだ。要件はわかってるぜ。カグヤの胸も揉んだし、さっさと王城に行くか!」


 ニカっと歯を見せながら笑ったベイド卿はそう言って、俺とカグヤ様の要求をあっさり飲んだ。こちらが何か言う前に。

 大した人だ。色々と。


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