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軍師は何でも知っている  作者: タンバ
第一部 内乱編
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第三章 決着4

 乱舞。

 そんな印象を受けるほどにカグヤ様は、いとも簡単に近衛兵を斬っていく。俺とカグヤ様は王城に突入し、王の間を目指していた。

 今も、カグヤ様を狙って、剣を上段から振り下ろした騎士は、振り下ろす前に首を斬られ、あえなく絶命する。

 カグヤ様は一対一なら容赦なく首を飛ばし、多対一なら相手の腕や足を斬り、動けなくさせて、瞬時に一対一の連続を作り出し、これまた瞬時に止めをさしていく。

 しかもそれは大体、走りながらの流れ作業だ。

 後ろで走っている俺には、カグヤ様の勇姿と戦う兵士しか見えないのだが、かすかに視界の端に転がるモノや、カグヤ様が刀を振るった際に飛ぶモノを確認しようものなら、間違いなくトラウマ決定だろう。

 視線をぶらさずに走る。それがカグヤ様の後ろを走る時に、平静を保つための唯一の方法だと知った俺は、先ほどからカグヤ様について行く事しか考えて居ない。

 全体を見れば、だいぶ後ろからではあるが、ユーレン伯爵が率いるディオ様の軍とカグヤ様の騎士たちが押し寄せているし、王城の制圧はもう少しだろう。

 問題は。


「別働隊で王を討ちに行ったディオ様か……」

「止まれ、ユキト!」


 カグヤ様の声を聞いて、俺は必死に足に力を込め、ブレーキをかける。

 カグヤ様も止まったため、危うくカグヤ様の背中にぶつかりそうになるが、なんとか堪える。役に立たないならまだしも、足を引っ張るのは御免だ。


「どうされましたか……?」

「よぉ、カグヤ王女。王城に来るのは良いんだが、もうちょっとお淑やかに入ってきてくれないか?」


 カグヤ様の前に四人の男が立ちふさがる。装備はまちまちで共通点が全くない。俺が見つけられた共通点はただ一つ。

 戦闘力が八十以上ばかりだと言う事だ。


「生憎、お淑やかとは無縁で育ったのでな。無理な相談だ」

「十一くらいか? この城を出るまではお淑やかだったんだけど、あんたの母親みたいにな」


 率先して喋る男はライオル・クライフト。戦闘力は九十二でこの中では一番高い。その他の数値も高く、槍と書かれている上に、短めの槍を手に持っているから、槍使いで間違いないだろう。

 年は二十代後半だろうか。刈り上げた金色の髪に頬にある大きな切り傷が特徴的で、粗野だが、親しみのある笑顔を見せている。

 もちろん敵でなければだが。


「ライオル。そなたが私を推薦し、ベイルの下へ送り出してくれた事は感謝している。だが、ここで立ちふさがるならそなたと言えど容赦はしない」

「最初からそう言うのは無用だぜ。俺たちはあの国王に拾われ、既に後には引けない所まで来ている。後は共に滅ぶだけさ」


 そう言った瞬間、ライオルは、おそらく室内で使う事を前提とした短槍をカグヤ様に突きだす。銀色の刃がカグヤ様に触れる瞬間、雷にはじかれる。カグヤ様が魔術で防御したのだ。


「ライオル。そなたは母に同情し、私にも優しかった。そなたを斬りたくはない」

「おいおい。そう言う所はかわらねぇな。だがなぁ、そう言う事言うなら、俺がここに来た理由を考えろ!」


 ライオルは短槍でカグヤ様を何度も突くが、そのすべてをカグヤ様は魔術で受け止める。

 刀で受け止めないのは、相手を斬りたくないからか、それとも刀では受けきれないほどの攻撃だからか。

 ライオルの後ろに居る三人は動かない。まとめて掛かった方が良いだろうに、まるでライオルとカグヤ様の戦いを観戦しているような雰囲気だ。いや、実際に観戦しているのか。

 自分たちが加わろうと言う意識が見受けられない。たぶん、奴らは監視なんだろう。ライオルが裏切らないように。

 ここに来た理由を考えろ。とはそういう事か。後ろの奴らは督戦隊のようなものだろう。

 ならば。


「カグヤ様」

「わかっている! そなた、私を馬鹿にしすぎではないか?」

「……戦いに夢中になっているのかと」

「私は戦闘狂ではない! この者たちを片づけたら、今度はそなたに雷撃を食らわすぞ!?」


 ライオルから距離を置き、俺の所まで下がってきたカグヤ様は、思っていたより冷静だった。どうしても砦の時の印象のせいで、身内や味方、ライオルのように親しかった者のような事になると、精神的に脆い感じがしてしまう。


「俺が死んじゃいますよ。なら、一瞬の隙で十分ですね?」

「ほぉ? 見事作れたなら、雷撃は勘弁してやろう」


 カグヤ様はそういってニヤリと笑う。どう見ても戦いが楽しくて仕方ないように思える。言えば、今度は刀が来そうだから言わないけれど。

 この場所は一本道。割と細めの道は遮るモノがない。こういう場所は、俺にとっては好都合だ。

 扇を強く振れば、暴風は発生する。だが、それは俺にコントロールできるモノじゃない。

 振ったら最後、威力も範囲も調整はできない。だが、ここなら範囲は調整出来る。門の前で振った時は拡散してしまったが、ここなら四人に十分すぎるほどの暴風を浴びせられる。


「その言葉……お忘れないように!」


 言ったと同時に、俺は右手に持っていた扇を開き、強く振る。

 俺がやることは、予想済みだったカグヤ様は、俺の隣まで下がっている。前に居れば暴風の影響を受けるからだ。まぁ今のカグヤ様なら微動だにしないだろうが。

 それでは一瞬の隙を逃す可能性がある。

 門の前に居た数千人が確実に違和感を覚えた暴風が、狭い通路でたった四人だけに向けられる。

 腕に覚えのある彼らは、その風で吹き飛ばされるような事も、手で顔を覆うような事もしない。扇風機の風を受けるかのように当然のごとく立っているが。

 それが命取りだ。

 まず狙われたのはライオルだ。カグヤ様は暴風が止む瞬間、ライオルを上から踏みつけた。文字通りの意味だ。刀を鞘に収め、壁を蹴って、高く飛び、ライオルの肩を思いっきり蹴りこみながら踏みつけたのだ。

 抵抗すらできずに地面に突っ伏す形になったが、それは幸運だろう。この場で唯一、攻撃を受けないで済むのだから。

 カグヤ様は流れる動作で左手を鞘に、右手を柄に持って行き、刀を引き抜く体勢を取る。ステータスを見れば魔力が減少している。

 一瞬、カグヤ様の両手が帯電し、そして。

 目にも映らぬ速さで刀が引き抜かれた。俺には刀を引き抜く前と引き抜き終わった後。それしか見えなかった。本当に過程が映らなかったのだ。


「宵の秘剣・迅雷。あの世で食らった事を誇るのだな」


 言ってる間に三人の男たちはバタバタと倒れていく。見たくはなかったが、ほとんど上下真っ二つだ。夢に出そうだ。


「おい……いつまで人を踏みつけてる気だ……!」

「ん? すまないな。忘れていた」

「王女、てめぇ、良い性格になったじゃねぇか……!」

「ふむ、そなたは変わらぬな。だが、何故、まだ父の下に居る? 私を逃がした際に逃げればよかったではないか」


 刀を鞘に収め、ライオルから片足をどかすと、カグヤ様はそう言ってライオルに質問する。ライオルはその質問に肩を竦める。


「王子の母親を守らなきゃだったからな。お前さんにとっても育ての親だろ?」

「……母上はご無事なのか?」

「上に居るだろうさ。あの性悪の国王の事だ。王子に対する盾に使う気だろうな」

「それだけ聞ければ十分だ。急ぐとしよう」

「ああ、そうしろ。俺は俺でやることがあるから、お前さんたちが国王を頼むぞ?」


 ライオルはそう言って腰を起こすと、痛ってぇ。と言いながらカグヤ様に踏まれた肩を回す。よく無事なものだ。骨くらい折れててもおかしくなさそうだが。


「向かうのは後宮か?」

「後宮? そんな呼び方はしねぇよ。あそこは牢獄だ。んでもって、看守は俺たちだ。形勢不利と見れば、アホ共が何人か来るだろうから、そいつらを始末しねぇとな。せっかく解放されるってのに、これ以上、悪夢を見さす訳にもいかねぇからな」

「……そなたは優しいな。感謝する」

「いいさ。好きでやってることだしな。しかし、気をつけろ。あの国王はやけに自信満々だったぞ。ようやく夜伽に来たか、夜の幸せを味あわせてやらねばって、待て待て! 俺が言ったわけじゃない、お前さんの父親が言ってたんだ!」

「私は父上に永眠の心地よさを味あわせに来たのだがな」


 刀を抜こうとしたカグヤ様を慌てて止めたライオルは、小さくため息を吐く。

 カグヤ様はカグヤ様で、少し不機嫌になっている。まぁ不機嫌くらいで済んでいるのがカグヤ様らしいが。


「ではライオル。全て終わったら私の所に来い。拾ってやるぞ」

「考えとく。おい、そこのひょろいの。この王女を頼んだぞ。一応は恩人の娘だからな」

「心得ました」


 俺に声を掛けてきたライオルは頭を片手でかきながらそう言う。恩人とは国王の事ではないだろう。おそらくカグヤ様の母上。どんな繋がりがあるかは知らないが、このライオルと言う男は、その恩のために国王の下に居たんだろう。


「よし、行くぞ、ユキト。急がねばだ」

「御意!」


 そう言って、俺とカグヤ様はライオルと別れて、王城の最上階にある王の間に向かった。




■■■




 王の間の手前までは順調だった。そう手前までは。


「まさか乱戦になってるとはな」


 ディオ様の軍と王を守る百人の猛者たちが乱戦で戦っていた。まぁ百人の猛者の半分くらいはカグヤ様に斬られているから、せいぜい居ても五十人ほどだろうが、その五十人が強い。ただの兵士ではまったく歯が立たないのだ。


「しかたあるまい。私が」

「いえ、ここは俺がどうにかしましょう。ディオ様の姿がありません。おそらく既に中かと」

「そなた一人でどうするつもりだ?」

「指揮を取ります。例え猛者と言えど、統制の取れた軍には勝てないものですよ」


 そう言うと、カグヤ様は少し、ほんの少し瞳を揺らした。


「ご安心を。すぐに参ります」

「別に不安だった訳ではない。ただ、共に行きたいと言ったのはそなただ。その言葉でここまで来れた。だから、最後も共に戦いたいと思っただけだ」

「光栄です。ですが、共に戦っています。今、この城に居る者たちも、停戦のために動いているアンナたちも、皆、戦っています。ですから一人ではありません」


 俺がそう言うと、カグヤ様は意外そうに目を瞬かせる。

 結構良いことを言ったつもりだったから、なんかそんな反応をされると恥ずかしい。もうちょっと無難な言葉を返すべきだったか。


「そなた……意外に格好つけたがり屋だな」

「お一人で戦いたいですか?」

「怒るな。許せ。もう、一人は御免だ。自分が何をしているのかわからず、誰が何をしているのかもわからない。目を回しているような気分で、ずっと一人だった」

「……もう大丈夫です。ディオ様が待っています。お急ぎを」


 俺の言葉にカグヤ様は陰りの見えた表情から、鋭い表情へと切り替える。カグヤ様ならこの乱戦状態でもすり抜けるのは容易だろう。


「ユキト……私も待っているぞ?」

「すぐに参ります。ご武運を」

「そなたもな!」


 そう言うと、カグヤ様は瞬時に乱戦の中に斬りこんでいく。それを見て、俺は狭い通路で戦っている関係上、乱戦に加わっていない者たちに指示を出し始める。


「立て直すぞ! 部隊長たちは集まれ!」

「ぐ、軍師殿!? なぜここに!?」

「説明は後だ。すぐにディオ様の援護に向かいたい。ここで足止めを食らうわけにはいかない!」


 ディオ様の軍は総勢で二百人ほど。数で言えば相手の四倍だ。効率よく数の差を生かせれば、幾ら向こうが猛者でも負けはしない。


「少し下がりながら戦うぞ! 相手が追ってこなければ数の差を利用して突撃で押しつぶす! 追ってきたならば後ろの十字の場所で三方から攻撃する! いいか! 相手は強者だ! 一人で戦うな! 三人以上で戦え! 形勢不利なら下がっても構わない! とにかく一人、二人では戦うな!」


 そう言って俺は部隊長たちに念を押すと、敵を見る。

 明らかに数が減っている。かなりの速度で。カグヤ様の仕業だろう。駆け抜ければいいのに、こちらのために斬れる者は斬っているんだろう。

 だが、ありがたい。


「前列、数歩下がれ! 後列は落ちている武器を敵に投げろ! あれだけ密集してれば必ず当たる!」


 とにかく乱戦状態では一対一の連続のため、相手に有利すぎる。どうにか集団戦に持ち込まなければならないため、俺はカグヤ様が通ったため、乱れの見えた敵の隙をついて、少しだけ軍を下げる。

 後列が投げる武器は剣であったり槍であったりするが、そのほとんどが弾かれる。だが、弾いている間にこちらは距離を稼ぐ事が出来た。

 心理的な問題で、どうにか先に進みたいディオ様の軍はわれ先にと王の間を目指し、そして乱戦で打ち取られていた。だから、距離を開けて落ち着かせたのだ。


「防御陣形を作る! 盾を持っている者は前に出ろ! その後ろを皆で支えろ! 国王の犬どもの突撃など効かぬと証明するぞ!」


 腕に覚えがあればあるほど、弱者の挑発は癇に障る。調子に乗るな。と、本物を見せてやる。と、そう思う奴らが向こうには少なからずいた。それで十分だ。

 向こうは部隊ですらない。猛者の寄せ集めだ。もっと言えば獣と変わりはしない。そして、人の獣の狩り方は古来より変わりはしない。

 集団で追い詰め、止めを刺す。それだけだ。

 前列の盾を持った者たちに襲いかかる猛者の動きに連携は無い。だから俺は単純な命令を出した。


「近い者を狙え!」


 一番最初に突撃してきた奴は、盾の後方から飛んできた十を超える武器に体を貫かれ、盾を構えた者の間から突きだされた槍によって止めを刺された。

 それを見て足をゆるめた者たちも似たような末路をたどった。接近できなければ猛者だろうが腕利きだろうがどうと言う事はない。


「少し下がるぞ!」


 相手がひるんだのを見て、俺は更に下がる事を命じた。

 防御陣形のまま微かに下がるこちらに、相手は戸惑いを隠せない。まぁそうだろうな。俺たちは攻めなければいけない立場だ。

 だが。


「皆、聞け! 先ほどカグヤ様がディオ様を救いに王の間に向かった! 更に後方からはユーレン伯爵とカグヤ様の臣下に居る精鋭たちが猛然とこちらを目指している。耐え抜けばわれらの勝ちだ! 耐えろ!」


 この言葉は別に士気を上げるために行った訳じゃない。ただ錯覚を与えるためのものだ。

 自分たちが攻めているのだと、ここで攻め崩さなければいけないと、敵に与えるための些細な言葉。効かないなら構わないし、効けば楽に戦える。

 そして、猛者たちは半分に分かれた。攻める者と動かぬ者に。

 五十の半分。二十五。それで二百に突撃してくるのだ。こちらとしてはありがたい。


「さぁ、手早く終わらせるぞ!」


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