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軍師は何でも知っている  作者: タンバ
第一部 内乱編
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第三章 決着2

 扇を持った俺を前にして、カグヤ様は右手に持っていた刀を鞘にしまった。

 その意外な選択に俺は首を傾げる。


「なぜ刀をしまうのですか? 降伏はすると言いましたが、一応は敵ですよ?」

「目を見れば戦意があるかはわかる。そなたの目には覚悟はあれど戦意はない。私と戦う気はないのだろ? クレイ?」


 読まれてる。

 そう感じた俺の頬には冷や汗が流れる。まさか見ただけで俺が端から戦う気が無い事を見抜くなんて。やっぱりあの見透かされている感じは、違和感ではない。経験からか、持って生まれた洞察力か、はたまた別の何かか。どうであれ、あの目は本物だ。

 そしてその目から放たれる戦意も、また本物だ。


「……隠しているのかもしれませんよ? あなたの一瞬の隙をつくために」

「不可能だと分かっているのだろ? その扇はかなり位の高いモノだろう。だが、それらは使用者の魔力に比例するのが基本だ。あの威力を出したのは初めから魔力がこもっていたからだ。そなたからはほとんど魔力が感じられないからな。だが、いくら高名な魔術師と言えど、あれだけの魔力を込めるのは難しい。せいぜい一発分と言った所だろう」


 大した洞察力だ。完全に言い当てられた。まぁ俺にとってはそこを読まれた所で何ら問題はないのだけど。


「……ご名答です。ですが、俺の武器は戦う力ではありません。言葉です。少し質問してもよろしいですか?」

「構わぬ。一体、なんだ?」


 難なく受け入れられた事に俺が驚いてしまう。普通はもっと警戒する所なんじゃないだろうか。いや、それよりも言葉を挟まないストラトスが不気味だ。こいつなら絶対、何か言ってくると思ったのだけど。


「では……。何故、お父上の側についたのですか?」


 清廉潔白な人なのは分かる。父を斬ると言う大罪だ。躊躇う理由は分かる。ディオ様をして、生きづらい人と称されたカグヤ様なら尚更だろう。だが、弟であるディオ様と対立する理由が分からない。

 戦う意味、もっと言えば自分の納得が得られないと言う点では、ディオ様側も国王側も変わらないように思える。

 何故、わざわざ敵対の道を選んだのか。国王からの命令であっても、大義のない戦いに、この人が出てくるとはとても思えない。

 理由は操られていたからなのか。それとも違うのか。これはそれを見極めるための質問だ。


「そなたも……それを聞くのだな……」


 寂しげ。そんな表情で、そう言うカグヤ様の姿は、会ったばかりのディオ様に似ている。あの時、馬車の中で姉の為に戦っていると告げたディオ様に。


「……ディオ様は……あなたの為に戦いました。あなたは……父上の為に戦ったのですか?」

「クレイは私を理解しようとしてくれてるのだな。そのための質問か……答えねば失礼に当たるな」

「その通りかと。カグヤ様の本心を明かすべきかと存じます」


 カグヤ様は悲しげに笑う。そんなカグヤ様を見て俺は奥歯をかみしめる。目が焦点を失った。ストラトスが言葉を挟んだからだ。


「カグヤ様……」

「私は父上の為に戦った訳じゃない。私はディオの為に戦った。国の為でも、民の為でもない。私は……たった一人の弟の為に戦ったんだ……」


 そう言ってカグヤ様は少しだけ肩を落とす。

 一方、俺はびっくりしていた。その理由が全くディオ様と同じだったからだ。だが、これはストラトスが操って、無理やり言わせているのだろうか。それともカグヤ様の本当に本心なのだろうか。


「なら、何故……対立したんですか……?」

「戦を早くに終わらせる為だ。父上は持久戦の考えだったからな……」

「協力すると言う選択はなかったんですか……?」

「父上を倒すには時間が足りない……。それに父上を倒したとしても、その後に、私は一人になってしまう……。父上を倒す戦で、無用な時間を費やし、その果てに一人になるくらいなら……」


 残りの時間を最愛の弟と過ごしたい。

 言うべき事を言ったからだろうか。少しだけすっきりした顔のカグヤ様と比べて、俺は全くすっきり出来ていない。突っ込む所がありすぎて、何から突っ込んでいいのかわかならない。

 いや、一番突っ込むべき所は。


「意味がわからないのですが……? 何故、ディオ様が死ぬと言う前提で話をしているんですか……?」


 俺の言葉を聞いて、カグヤ様は目を見開き、驚きの表情を浮かべる。

 そして納得したように頷き、俺を真っ直ぐ見つめ、一度強く目をつむり、そして。


「……ディオの命はもう長くない。長くて二月、短ければ、明日にも……死んでしまう……」


 カグヤ様の言葉を聞いて、俺の中である事が繋がる。繋がってしまった。

 病弱なディオ様。短期戦を急ぐディオ様。化粧で顔色を誤魔化すディオ様。疲労で倒れたディオ様。次を考えていないディオ様。

 そして、尋常じゃない覚悟を胸に宿していたディオ様。

 繋げて考えれば、おかしい。必ず打倒しなければならないと言いながら、ディオ様には少し慎重さが欠けていた。いや、決着を急いでいたと言うべきか。

 違和感はあった。けれど答えを求めなかった。目を向けなかったからだ。

 また、俺は大事な時に目を違う方向に向けていた。勝利と生き残る事を必死に考え過ぎて、ディオ様の様子には気を配ることはしなかった。

 思わず膝から力が抜けそうになり、何とか踏みとどまるが、俺は動揺を隠す事が出来なかった。ストラトスが言わせた可能性はしっかり頭では理解していた。だが、それは本当のような気がした。


「私の望みはディオとの僅かな平穏だ。それさえ終われば……私は何も求めない……」


 家族と過ごす時間は大切だ。それが最後の時間なら尚更だ。ディオ様とカグヤ様は一緒に育てられたと聞いた。だから、カグヤ様の家族の定義は血の繋がりだけではなく、共に過ごしたかどうかなんだろう。そうでないなら、他国に避難させられている二人の姉も家族になるだろう。

 問題は、ディオ様はその残りの命を父の打倒に使うと決め、カグヤ様はそれを否定した事だ。何かを残そうとするのは二人とも変わらない。ただ、ディオ様は父のいない国を、カグヤ様は大切な時間を望んだ。

 俺はゆっくり頭を整理する。ほとんど既に可能性はなくなったが、カグヤ様が本当に壊れている可能性は、まだ微かにある。父にその身を狙われ、弟の余命を告げられ、しかも挙兵した。恐ろしいほどの心理的負担だろう。

 さらにカグヤ様には軍を預かる将軍としての責任があり、下に居る者たちも考えなければいけない。安易な行動はできず、何か手はないかと考えている内に、すべてどうでもよくなった。と言うのも有り得るだろう。

 ディオ様を救うためには、ディオ様との僅かな平穏を得るためには、ディオ様と戦い、自分の手で捕らえるしかない。そんな一つの思考に縛られてしまう事も、まぁないとは言い切れない。

 なにせ壊れているのだから。

 だが、それは誘導されたものの可能性が極めて高い。ストラトスによって。

 それしかどうでもいい、それ以外に考えられない。そうなってしまうのなら分かる。だが、どうにもカグヤ様からはそれが感じられない。いや、僅かにしか感じられない。

 カグヤ様は中途半端なのだ。戦を起こしながら、カグヤ様は兵の犠牲を最小限に抑えていた。そう言う考えは冷静じゃなければできない。力攻めでも勝てる上に更に早い。ディオ様との平穏を望むなら、最初から力攻めをすべきだ。

 自分の軍だけで。

 だが、カグヤ様は俺とディオ様の包囲網を敷く作戦の時に、他の城に救援に行っている。そんな事をする意味が分からない。それにハルパー城を攻めた理由も追撃されるからと言うものだった。そんな事を気にするだろうか。大体、少数でハルパー城の横を通り抜ければ、ディオ様が下がった城へは行けた筈だ。まぁその時にはそこにはディオ様は居なかっただろうけれど、それでもそう言う選択をしなかった事が分からない。

 行動と言動が一致していない。まるで多重人格だ。多重と言うよりは定まっていない言うべきか。まるで首がすわっていない子供のように。あっちへふらふら、こっちへふらふらと行く。誰かが上手くコントロールしてあげなければ定まらないのだ。コントロールしているのが誰かなど、既に考えるまでもない。

 思わず唇を噛み締める。カグヤ様の気持ちにはおそらく偽りはない。ストラトスの魔術はやはり思考を誘導するものなのだろう。自分が本当にそう思っているかのように。

 小さな願いを、まるで絶対に実行しなければいけないかのように思わせたのだ。そして、ディオ様を救うためには戦うしかないと、カグヤ様は思ってしまった。

 純粋な弟への思いを利用されたのだ。


「父上は伝者越しだが、私がディオを捕らえた後、干渉しないことを約束した。そなたの身柄も私が保証する。だから、ディオの居場所を教えてはくれないか?」

「国王がそんな約束を守ると思っているんですか?」

「半々だろうな。だが、私の家臣は優秀だ。会戦なら私が居なくても勝つ事はできる。長引くだろうが」


 その間にディオ様と最後の時間を過ごす。そう言ってしまうカグヤ様がとても危うく見えた。本当にそれしか考えて居ないのだ。それに関わる事以外に興味が既に湧かないのかもしれない。そういう風に仕向けられているのだろう。


「……それなら暗殺の方が早いのでは?」

「暗殺は私は勿論、大陸一の暗殺者でも不可能だ。父上の周りには常に百人の猛者が居り、会うときには武器を取られる。加えて父は個人としても尋常ではない使い手だ。一撃ではまず倒せまい。やれるならやっている。他に打つ手がないから、私は自分で出てきたのだ。この手でディオを捕らえるために」


 なるほど。そうそう簡単にはいかないと言う事か。それに今の話は聞き捨てならない。

 ディオ様の策は俺がカグヤ様を引き付け、時間を稼いでいる間に、国王を討つと言うものだ。これは国王を討てる前提の作戦だが、今の話を聞く限り、それは簡単な事ではないだろう。

 考えなければならない事は沢山ある。今、知った情報で色々と修正が必要になってきた。

 カグヤ様が国王を討った後に、本当にディオ様に協力してくれるか怪しいと俺は思っていた。だが、今のままでは、その、思っていた。は実際になりかねない。

 全てを解決するには素早くカグヤ様を解放せねば。

 しかし、ディオ様の病気がまさか余命がどうこうのモノとは思わなかった。恐らく知っているのはユーレン伯爵くらいか。まんまとやられた。知っていれば止めたし、知識を使って協力する事もなかったのに。いや、だから言わなかったのか。とりあえず今度、ディオ様のステータスをよく見てみよう。何かわかるかもしれない。

 まぁ今はそれは置いておこう。今、助けねばならないのは目の前の人だ。それに必要なのは俺の言葉。そしてこの扇だ。


「カグヤ様の本心、よくわかりました。では、この名に掛けてカグヤ様の害になることは致さぬと誓います。ですが、何も差し出さぬのは信用には足りぬでしょう。ですので」


 俺は扇を両手で掲げ、カグヤ様の前に跪く。


「友人より譲り受けたこの扇をお預けします。これを持って信用をしていただきたい」

「これはあの時、暴風を巻き起こしたモノ。そなたにとっては最後の頼みでは?」

「それ故です。受け取っていただきたい」


 言いつつ、俺は顔を下に向け、表情を読ませないようにする。

 汗が尋常ではない。だが、口は乾いている。一瞬あとには斬られていてもおかしくはないし、扇が効かなければ打つ手がなくなる。

 俺は目を瞑る。俺の命はまぁいい。どう転んでも助かるだろう。降伏をしたのだから。だが、この扇が通用しないのは困る。これが通用しないのならば、カグヤ様はこれからずっと歪なままだ。 


「そうですね……。受け取られては如何です? ここまでされては断るのは失礼かと」

「そうだな。そうするか」


 そう言ってカグヤ様は俺が両手で差し出した扇を掴んだ。


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