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軍師は何でも知っている  作者: タンバ
第四部 アルビオン編
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閑話 カグヤとの一時

 ある日の昼。

 カグヤ様の部屋に赴いた俺は、共に昼食を済ませたあと、カグヤ様と軍揮をしていた。


「むむっ……」


 戦況は互角だ。

 王都に戻ってからというもの、軍揮に何度もつき合わされているが、苦戦らしい苦戦はしていなかったのに。


 苦戦の理由はカグヤ様がいつもより防御を重視しているせいだ。

 カグヤ様の手が読めても、カグヤ様が築く防陣に隙がないのだ。

 ゆえに互いに決め手を欠いて、均衡状態になってしまっている。


 ここらで動くべきなんだろうけど、カグヤ様の様子を見るに、俺が動くのを待っているような気がする。

 簡単にいえば罠の匂いがする。


 軍揮に地形を表す駒も存在する。

 山や川、砦なんかもあり、それらを突破するには条件が必要になる。


 今、カグヤ様の防陣は山を盾にしつつ、左右を歩兵で固めている。

 山を超える条件を満たすには時間がかかるため、攻め込むなら左右どちらかからの力攻めか、唯一隙のある後方からの奇襲となる。


 しかし、力攻めで押し切れるほど俺は優勢じゃない。

 俺の駒が着々とカグヤ様の陣に迫っているように、カグヤ様の駒も着々と俺の陣に迫ってきている。


 俺が形勢した陣は川を利用した陣で、歩兵と騎兵の駒の混成隊で指揮官の駒を守っている。

 カグヤ様の駒はこの陣を攻略しようと、川を迂回してきている。

 これには時間が掛かるが、迂回してしまえば単純な力比べになる。

 迂回してきているカグヤ様の駒は多い。迂回が終われば防ぎきれないかもしれない。


 そうなるとそろそろ動かないと拙いわけだが、どうにも誘われている気しかしない。

 さて、どうしたものか。


「ユキト。早く次の手を打たぬか」

「待ってください。今、考え中です」

「珍しいではないか。いつもならあらかじめ決めていたように打つのに」

「考え中です。集中力を乱すのは褒められた行為ではありませんよ?」


 俺がそう注意すると、カグヤ様は上機嫌で口を閉じた。


 俺を追い詰めているのが楽しくて仕方ないのだろう。

 今まで散々、俺が煮え湯を飲ませてきたから、積もりに積もった鬱憤があるのだ。

 これで負けた日には、なにを言われるかわかったもんじゃない。


 なんとしても負けるわけにはいかない。


「では、騎馬の駒をこちらに」


 手詰まりになった俺は、主戦場からは離れた場所に騎馬の駒を移動させた。

 この手の意味は、まずはカグヤ様を混乱させること。

 そして、カグヤ様の手を潰すことになる。


 怪訝な表情を浮かべつつも、カグヤ様は迂回している攻撃隊を動かした。

 そろそろ全ての駒が迂回し終える。

 全ての駒が揃ったら、攻撃開始といったところだろう。


 カグヤ様をチラリと見れば、鼻歌でも歌いだしそうなルンルン状態だ。

 勝利がもう見えているのだろう。

 ただ、勝利が見えているのはこっちも同じこと。


 俺は攻勢に出ていた駒をカグヤ様の防陣の右側に突入させた。

 当然、カグヤ様はそれらを迎撃に掛かる。

 俺は全ての駒を右側に集中させる。


 左右に均等に配置されたカグヤ様の防陣は全体的に堅いが、一点突破を図れば破れなくもない。

 当然、こちらにも被害が出るが。


「くっ……小癪な」

「さぁ、指揮官の駒は頂きますよ」

「ふん、逃走経路は確保済みだ! そなたの攻勢をかわせば、私の勝利だ!」


 そう言ってカグヤ様は、他の駒が俺の駒を防いでいる間に、指揮官の駒を移動させた。

 主戦場とは離れた場所へ。


 しかし、そこにはさきほど動かした騎馬の駒がある。

 そちらに逃げれば、騎馬の突撃で終了だ。


「み、見落とした!?」

「意味のない手なんてないんですよ」

「くっ! 調子に乗って……! まだ負けたわけではない!」

「さぁ? どうでしょうね」


 俺はそう言ってカグヤ様の防陣を形勢していた駒を潰していく。

 これでカグヤ様はもう一度、防陣を築くという手は使えない。

 そして、カグヤ様の指揮官の駒は、俺の騎馬の駒と攻勢をかけていた駒とで挟み撃ちにされつつあった。


 これではもう逃げられない。


「立て直しは無理だと思いますけど?」

「……負けました……」

「はい。お疲れ様でした。正直、久々にひやひやしましたよ」


 駒を片付けながら俺はそう言う。

 そんな俺の手をカグヤ様が掴んだ。

 掴んだといっても、服の端っこをちょこんと可愛らしくだが。


「うぅ……もう1回……」


 駄目で元々といったお願いの仕方だ。

 諦めきれないのだろう。惜しかった分、特に。

 上目遣いで見てくるその表情は、なんだか子犬を連想させる。


 なんだか悪いことをしているみたいな罪悪感を掻き立てられて、俺は小さくため息を吐いた。


「仕方ないですね。あと1回だけですよ?」

「ほ、本当か!? 今日は珍しく優しいではないか!」

「いつも優しくないみたいな言い方やめてもらえます?」


 心外だと主張しつつ、俺は駒を再度並べ始めた。



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