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3 自動車サイズ

 


 ◆



「おい、あれ……」


「オークか?」


 俺が数日経っても復調しない鼻をいじっていると、レガシーが三匹のオークを発見する。



 視認したオークは、まだこちらに気が付いていないが、位置がかなり近い。


 これは先制できるチャンスだ。


 ここはトラブルを避けるためにも、排除しておいた方がいいだろう。



「二手に分かれて、挟み撃ちにするぞ」


 俺はレガシーに目で合図を送りつつ、二手に分かれる。



 オークは単にその辺りを徘徊していただけで、人が襲われているわけではないようだ。


 レガシーには回りこんで森の中から接近してもらう。俺は【気配遮断】を利用して、見晴らしのいい正面を突き抜ける。



 限界まで近づき、レガシーが位置に着いたのを確認すると、俺は片手剣とナイフを抜いて構える。弓は矢を補充していない状態なので、しばらくは気軽に使えない。そのため今回は近接戦闘を仕掛ける。


 レガシーに手で適当な合図を出して準備が整ったことを知らせると、俺はオークへ向けて駆け出した。


 それを見たレガシーも一歩遅れてオークへ向かう。


 俺は片手剣で【剣術】を発動して、オークの背後から胸を貫く。剣は引き抜かずにそのまま手放し、側に居たもう一匹へ【短刀術】に切り替えたナイフで斬りかかる。


 繰り出されたナイフは流麗な動作でオークの喉と肋骨下を数回切り裂き、オークを絶命させた。



 レガシーも特徴的な形状の片手剣を使って難なくオークを仕留めていた。


 俺がナイフでオークを絶命させたのと、レガシーが最後の一匹を倒すのが同時になる。


 全てのオークが息絶えたのを確認した俺は、オークに刺しっ放しにしていた片手剣を引き抜いた。


「おー、そういやお前が戦うところをはじめて見たけど、器用なことするんだな」


 レガシーが感心したように俺の方を見る。



 そういえば、以前もそんなことを言われたのを思い出す。


 どうやらこの世界では、スキルを切り替えて使うのは珍しいことのようだ。


「まあな、色々やってるうちに今のスタイルに落ち着いたって感じだな」


 俺からすれば器用なことができるというよりは、必要に迫られて色々覚えていったという方がしっくりくる。


 はじめに使い出した【剣術】は汎用性が高いため、はじめて戦うようなモンスターと対峙するときには安定感があり、対応し易い。だが、自分より強い相手に使おうとすると、尖った部分がないため、微妙に力不足を感じる。


【短刀術】は攻撃速度に特化していて身のこなしも軽くなる気がするが、どうにもリーチが短い。接近しないと真価を発揮できないのがネックだ。


【居合い術】は今俺が持っている武器の中で一番強力な得物を使っているのと、スキルの効果で、一撃のみなら最速最高威力を出せる。


 だが、刃を鞘に収めている状態でしかスキルが使えないので、使用姿勢などが限定され、意外と使えるチャンスが少ない。


【弓術】と【手裏剣術】はどれだけ上達しようとも、弾がなくなれば終了となってしまう。


 色々使えるようになった武器スキルだが、どれも一長一短があり、一筋縄ではいかない状態だ。


「おい! 奥にも何かいるぞ!」


 俺が物思いにふけっていると、レガシーが声を上げる。



 街道沿いということもあり、【気配察知】は使っていなかった。まさか、まだモンスターがいるとは。自分でも気が付かないうちに、近くに結界石があることで油断していた。


 レガシーが指し示す方向に目を凝らして見てみると、確かに何かが動くのが見えた。


 早速【気配察知】を使用してみる。


 ここから目視で存在を確認できたが、この距離では何のモンスターかまでは分からない。


 だが【気配察知】を使用すれば、以前戦ったことのあるモンスターならある判別がつく。


 何となく、あのモンスターだなという程度には把握できるのだ。



「多分、キラーウルフだな。一匹で行動しているみたいだ」


【気配察知】を使用した結果、森の中にいるのはキラーウルフの気配と分かった。


 何度も感じたことのある気配なので間違いないだろう。



「一匹か……、なら俺が仕留めてくるよ。オークはお前が二匹狩ったしな」


 レガシーはそう言うと、キラーウルフのいる方角へと慎重に進んで行った。


 なんというか、こういうところがいちいち律儀な奴なのだ。


 相手はキラーウルフ一匹だし、ここは任せてしまおう。


 よろしく、思いつつレガシーの背を見守る。すると、キラーウルフを確認できるポイントに到達したレガシーが、何故か必死の形相で引き返して来た。


 ただ戻って来ているわけではなく、モンスターに気づかれたのか全速力で逃げるようにこちらへ走ってきている。


(ん? トラブルか?)


 俺がいぶかしみつつも武器を構えていると、茂みからキラーウルフがレガシーを追って飛び出してきた。


 そのキラーウルフは……。


「デケェ……」


 普段戦っているサイズより一回り大きかった。


 いつも相手にしているのがママチャリサイズなら、あれは自動車サイズだ。


「ヤベェ! 逃げろ!」


 レガシーが慌てた様子で叫ぶ。


 だがキラーウルフは四本足を巧みに操り、重そうな巨体からは想像できないほどの速度でこちらへ向かって来ている。


 俺一人ならスキルを全開にして走れば、振り切れる可能性はある。だが、それではレガシーが取り残されてしまう。


(仕留めないとまずいな……)


 この状況で二人とも逃げ切るのは難しいだろう。――ならやるしかない。


「レガシー! 俺が引きつけて仕留めるから、そのまま駆け抜けろ!」


 俺はレガシーに叫びながら【手裏剣術】を発動し、キラーウルフの眼球目掛けて鉄杭を投げつけた。


「グォオオオオオオオオオン!」


 鉄杭はキラーウルフの片目を貫き、悲鳴と共に一瞬怯ませることに成功する。


「後ろから援護するぜ!」


 その瞬間をチャンスと判断したレガシーは、俺を抜いて後方へ移動する。



 俺はレガシーの一連の動きを確認すると、【火遁の術】を発動し煙幕を張った。


 次に【疾駆】を発動してキラーウルフへ向けて駆ける。


 少し蛇行するようにして走り、煙幕が満遍なくキラーウルフの周りを囲んだところで一気に接近する。



 片目の視力を失い、煙幕に包まれたキラーウルフは完全に足を止めた。


「グルルルルルルルルルルッ!」


 低い唸り声を上げて威嚇するも、その視線の先に俺はいない。


 攻撃のチャンス到来だ。


 まずは鉄杭が刺さった片目の方から接近。片手剣で前足の腱を斬りつけ、移動力を奪いに行く。もし倒しきれなくても、こうしておけば逃げ切れるだろうという算段だ。


【剣術】スキルに身を任せ、全身の重さを乗せるようにして、両前足を順に斬りつける。


 攻撃はうまく当たり、深手を負わすことに成功した。



 次に【跳躍】と【張り付く】を使って背に飛び乗る。そして、【短刀術】を使ってナイフで腹を滅多刺しにしていく。今までの経験からいって、大型の敵にはこれが一番有効だ。


 キラーウルフは必死に俺を引き剥がそうと抵抗するが、【張り付く】を使っている俺はどんなに暴れても放れることはない。


「くっ……」


 だがキラーウルフの激しい抵抗がロデオのようになり、ちょっと酔う。



 これがロデオマシンなら最大強度を振り切ってリミッター解除状態だ。


 凶悪なエクササイズを体験して気持ち悪くなりながらも、ひたすらナイフを振るい続ける。


 しばらく格闘の末、キラーウルフは体力が尽き、大きな音を立てて地面へ倒れる。


 だが、大型の個体だけあって、生命力が強い。まだ息があるのが分かる。



 相手が大き過ぎたため、ナイフでは急所まで刃が届きにくいのだろう。


 だが片手剣だと密着状態ではうまく剣を振るいにくい。


 ナイフと片手剣、どちらを使うべきか判断が難しいところだ。


 俺がスキルを解除してキラーウルフから離脱すると、レガシーがとどめを刺してくれる。


「……気持ち悪」


 レガシーがキラーフルフの頭に剣を突きたてている頃、俺はロデオから解放されても気持ち悪さがとれず、その場にしゃがみこんでいた。


「おい! 今の煙がヴァーって出るやつすごいな! 次もモンスターが来たら使ってくれよ!」


 はじめて見たスキルに驚いたのか、レガシーが嬉々とした表情で近寄ってくる。


「いや、あれは逃走用なんだよ。戦闘で使ったら、いざというときに逃げられないだろ?」


 確かに【火遁の術】は戦闘で使うと便利だ。


 だが、俺の感覚からすると逃走用にとっておきたい。クールタイムがあるので、いざというときのためになるべく戦闘では使わず、逃走用として運用していくつもりだ。



 そう思っているそばから戦闘に使用しているので説得力は皆無だが……。


 使いこなせてはいるが、使うタイミングが難しいスキルだ。


 そして【変装】のスキルに至ってはうまく使いこなせる自信がない。


 クールタイムが丸一日あるため、使用に躊躇してしまい後からみれば使うのに絶好のタイミングを逃してしまう可能性大だ。


 RPGをプレイしていてもHPMP全回復アイテムは最後までとっておき、使用タイミングを逃して結局使わずにクリアしちゃう俺なら間違いなくやらかしそう。


「しかしデカいキラーウルフだったな」


「ああ、本当にキラーウルフなのか怪しいもんだぜ」


 今まで見たこともないほどの大きさのキラーウルフの死体を前にしたレガシーの感想に俺も同意する。


「これどうするよ?」


 レガシーが横たわるキラーウルフの死体を指す。


「これだけデカいと色々面倒だから、このまま放置していこう」


 捌くにしても巨大すぎて手間だ。色々やってキラーウルフと同じ報酬なら目も当てられない。ここは放置でいいだろう。


「それもそうだな」


「行くか」


「ああ」


 俺たちは街道の側に戻ると、再び歩きはじめた。


 街道が確認できる距離を保ち、中には入らない。この方が人と接する機会を減らせるので安全だろうと考えての行動だ。



 大きい個体を倒したので、もしやと思いステータスをチェックしてみるも、レベルは上がっていなかった。


 その際、職業がニンジャのままになっていたことに気づく。


 ここ最近あまりモンスターを倒していないのもあって職業がずっとニンジャのままになっていたが、スキルレベルがマックスになっているのでこの状態は勿体ない。



 俺が今習得できるスキルは剣闘士のレベル5のスキルのみとなっている。


 となると、次になる職業は決まったようなものだ。


 今までの感覚からいってレベルはまだ上がらないだろうし、ここはスキルレベルを意識した職業に変えておくべきだろう。


 俺は職業を剣闘士に変え、スキルレベルがいつ上がってもいいように備えることにした。



 ◆



「……ここは」


 意識を回復したエルザは周囲を見渡す。




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