私だって一応は令嬢なのですよ②
エレノアと散歩をしながら、私は彼女に今までのあらましを語って聞かせた。夢を通してカシウスとノエルの話を聞いたこと。ノエルが今まで私の命を繋いでいてくれたので、病弱な私がエメレットで生きながらえる事ができたこと。そして、王家とエメレット伯爵家の関係、国全体のために私が今求められていること……。
「なるほど……」
馬に揺られながら、エレノアはふーっと長い息を吐いた。急に話されても、いきなり受け入れられるものではないだろう。彼女に全てを話してしまったのは、一人では抱えきれない責任から、ほんの少しでも楽になりたいからだ。
「精霊にからかわれていたと知ったときは脱力しましたが、あやつなりにエメレットの事を想っての行動だったのですね。それを聞けば、大量に抜けたレイナルトの髪の毛も報われることでしょう」
エレノアは少し考え事をしているようで、ゆったりとした揺れと、馬の蹄が立てるぱこぱことした音だけが聞こえていた。
「……まあ、王位の簒奪というのは古今東西よくあることですから、今更、あの欲がない男がくれると言われても断ると思いますが」
「やっぱりそう思う?」
「はい。けれど、今のまま利用されつくしてナメられたとなれば、アリー様も元エメレット伯爵夫人として『私の気持ちがおさまらないの。あなたたち、ただでは済まさないわよ』ということですよね。つまり『ブチ切れて』いらっしゃる」
元、と言われてちくりと胸が痛んだ。
「ええ、そうよ」
体調が回復しても、王家の秘密を知ってしまった私はそう簡単に動く事ができない。何より、カシウスの現在の気持ちを聞けていない。何かをしたいのに、その突破口が見つからないままでいる。
「私、一体、どうしたらいいか分からなくなって……『ブチ切れ』たところで発作が起きるだけだし……」
「アリー様。アリー様は……カシウス様……エメレット伯爵に、会いたいと思いますか?」
エレノアの問いかけに力強く頷く。
「それは友人知人としてですか? それとも──アリー様は一人の女性として、メイユール公爵よりも、エメレット伯爵を取るという意思表示ですか?」
「ええ!?」
急に二者択一を迫られて、馬からずり落ちそうになった。エレノアがそれをさっと支える。
「そこが重要なのです。アリー様は鷹揚なのは良いことですが、男女の心の機敏に疎すぎます。ルベル・メイユールはああ見えて激情家です。アリー様がたんに「住み慣れたエメレットに戻りたい」と願うだけなら、メイユール公爵領とエメレット伯爵領を総取っ替えするぐらいの事はやるでしょう」
「それこそエメレットの精霊との契約が……あ」
「アリー様が精霊と契約してしまえば、エメレットの者があの土地に縛られる必要もなくなるでしょう」
「ルベルとは結婚しないわ。するなら市井に下るわ。別にものすごく嫌いというわけではなくて。兄としか思えないし、中途半端な気持ちで結婚することはできないわ。結婚も、離婚も、自分だけじゃなくて相手の人生も変えてしまう決断だもの。彼に対して、その覚悟はないわ」
エレノアは頷いた。
「では、カシウス・ディ・エメレットは?」
「まだ、彼の気持ちを聞けていないし……これ以上、彼の事を振り回すのは……」
「そこは一旦、すべて明確になっているという前提でお話ください」
ぴしゃりと言われて、まだ考えがまとまっていないけれど、ゆっくりと口を開く。
「……もちろんよ。今更、もう一度結婚してほしいなんて、幸せにできる保証のない私には言えないけれど……会って、話がしたいの。私、ずっと彼を誤解していた──歩み寄って、拒絶されたのは自分なんだと、まるで自分が被害者かのように思っていたの。彼は私をずっと助けようとしてくれたのに」
私は、カシウスを助けたいとずっと思っていた。それはきっと、彼に必要とされたいと思っていたから。私は世間知らずで、傲慢で、なんの力もないちっぽけな存在だ。今までの生活を失って、そのことに気が付いた。
──けれど、命はある。信頼できる友人もいる。
「今の私をカシウスに見てもらって、私も今のカシウスを知りたい。嘘も見栄もなしで、もう一度──彼に会いたいわ」
「……お気持ちはわかりました。このエレノア、アリー様の侍女であり、剣であり、馬でもあります。行きましょう」
エレノアはどん、と自分の胸元を叩いた。……どこに?




