表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【書籍化】夫の隠し子を見つけたので、溺愛してみた。  作者: 辺野 夏子


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

22/37

王女殿下のささやかな反撃

 夢から醒めた。


 けれど、今見ていたものは私の願望ではなく事実なのだとはっきりと理解している。体から魔力がこもった時の熱が消えているのは、ノエルが私の魔力を使ったからだろうから。


 ──ノエルが、エメレットの森に棲む新しい大精霊なのだろうか?


 あれほど強い自我を持ち、エメレットを守護していると言っていた小さいノエル。大精霊か──少なくとも、それに近しい存在であることには間違いがないだろう。


 エメレットの当主であるカシウスとノエルの間には、遺恨はないように思えた。だとすれば、私のあの土地での使命はもう終わっているのかもしれない。ノエルは最後に、私に心残りがないようにあの会話を見せてくれたのかもしれない。


 カシウスは孤独を抱えながら、ずっと私のために戦っていてくれた。そのことを分かっていたつもりで、その実自分の方が頑張っていると思いこんでいた愚かな私は、すでに必要ないのかもしれない。


 離縁届は提出されてしまって、今の私とカシウスにはなんの関係もない。


 せめて、彼らが健やかに暮らせるようにこの場所でできることをしなければいけない……。私が泣いて暮らしていたら、せっかくカシウスが努力してくれた事が無駄になってしまうから。



「アリー、調子はどうかしら?」


 目尻の涙をぬぐっていると、静かなノックの音がして母がおそるおそる顔を出した。


「落ち着いています」

「お薬を持ってきたの。飲んでちょうだいね」


 なんと王妃手ずから薬を持ってきたと言うのだ。親心をありがた迷惑と思うのは親不孝なことだろう。


「ええ、カシウスが苦心して手に入れたお薬ですもの。いただきます」

「エメレット伯爵、よ。もう離縁したのだから、彼に再会しても親しげに声をかけるのはダメよ」


「……この薬で命が繋げるとなれば、彼は命の恩人でしょう」

「それはそうだけれど。私はずっと反対だったのよ。いつまで生きられるか分からないのに、小さなアリーを田舎にやるだなんて。それに結婚と言っても形だけでよかったのに、陛下はアリーをエメレットに置いておけと……」


 ──その小さなアリーが生きながらえたのは、それこそ一から十までエメレットのおかげだと聞いたら、この人はどんな顔をするだろうか。


「エメレットに手紙を出してもよいですか?」


 夢を通して会話を盗み聞きしていたと言われてあまりいい気分にはならないだろうけれど、それでもカシウスに誤解をしていたこと、感謝の気持ちがあることを伝えたい。……未練があるのは、今更伝えても困らせるだけだろう。


 私の要望に母は顔をしかめた。王妃としても、母としても認められない、という意味だろう。


「駄目よ。もうあちらの家とは縁が切れたのだから、煩わせてはいけないわ。侍女の事なら、レンズビー伯爵家に連絡して連れ戻すから」

「いいえ、それはエレノアの好きなようにさせてください。……縁が切れたとは言え、長い事過ごしたのですから近況報告のお手紙くらいいいでしょう?」


「伯爵とは一緒に過ごしてないでしょう?」


 ぴしゃりとした冷たい言葉に思わず顔をしかめると、母は慌てて、幼子をあやすように猫撫で声を上げた。


「アリー、あなたの結婚は『仕事』だったの。今更過ぎた事で感傷的になることはないのよ」


 ──ただの仕事で、あんなにも自分の幸福を投げ出してくれる人がいるものか。彼は文句のひとつも言わずに、責任とともに押しつけられた妻を支えてくれていたのだ。他の誰がいいと言っても、私が納得できない。


 ──本当にいいの? アリエノール。与えられて、指示されて、言う事を聞くお人形のままでいいの?


 心の中に問いかけても、もちろん答えはない。私が行動したところでむやみに場を引っかき回すだけかもしれない。でも、機会を与えられたならば、やるだけはやってみよう。


「母上。巫女の件ですが、謹んでお受けさせていただきます」

「まあ……!そう。嬉しいわ」


 母は嬉しそうにぱちぱちと手を叩いた。


「三百年ぶりの巫女とは言ってもね、もう精霊信仰は形骸化されているでしょう? 長い時の中で神秘の力は失われ、この国は精霊ではなく人間のものになった。……でも、セファイアの人はやっぱり信心深いわね。陛下は「何としても、エメレットに縁を作ったあの子に巫女となって次世代の橋渡しをして貰わなくては」とかたくななのよ。本当に頑固よね」


 母は隣国から嫁いできた人で、この国に生まれ育った人よりは大分精霊に対する畏れと言うものが小さい。だから、体の弱い娘をわざわざ責任のある祭事に駆り出さなくてもいいだろう、と考えるのは自然だ。反対に、この国の王である父が「由緒正しい儀式には王族を」と考える事も。……いささか、父は自分の考えにこだわりすぎな面があるようにも思うけれど。


 今はその気持ちを利用させてもらう。巫女になれば、もしかして大精霊が──ノエルが、私の前に姿を現してくれるかもしれないと、淡い期待がある。


 どうしてもノエルと直説話をしたい。正攻法で叶わないなら、他の力を借りるまでだ。


「ねえ、巫女になるなら、結婚の話は……」

「それとこれとは別の話ですよ。私はまだ、全てに納得したわけではありませんから」


 薬を飲んでしばらくすると、本当に体が楽になった。……私がエメレットで過ごしている間に、世界は随分とめまぐるしく変わったものだ。だから、私が変わったとしても、おかしな事なんて何もない。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
連載中作品
「不幸を呼ぶ女」は、継母になって悪役当て馬を救済したい
新作短編(ざまぁ)もよろしくお願いいたします
僕の貞淑な婚約者
こちらも合わせてよろしくお願いいたします! 4月1日にTOブックス様より書籍が発売しました!よろしくお願いいたします。
挿絵(By みてみん)
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ