64:聖女の力が欲しい? あなたたちにはあげません
…………ミハエロさんに連れて来られたのは、路地の奥まった場所に建っていた教会でした。
お城と違って金や銀といった装飾は少なく、青銅色の簡素な作りの建物です。入ってみると中にはパイプオルガンに似た楽器が置かれていました。
私が抱いていた教会のイメージとは大差ないようです。もちろん、教会がこんなところにあることは意外中の意外でしたけど。
私とミハエロさんが両開きのドアを開けて教会の中に足を踏み入れた途端、中でお祈りをしていたらしい神官――この世界ではそう呼ぶのが正しいのかは知りませんが――たちが一斉に立ち上がり、私たちの方を振り返りました。
神官は総勢三人。皆、五十歳は過ぎていそうなおじさんばかりです。
「「「教祖様、お帰りなさいませ」」」
「……ただいま。皆の者、よく聞くのじゃ。先日降臨された聖女様が我が元へ現れた。皆で歓迎せい」
ミハエロさんがそう言いながら私を前に出しました。
それと同時に三人のおじさんにジロジロ見られてしまい、私は思わず震えてしまいました。……神官たちの眼差しは『男』のそれに他ならなかったからです。
――ああ、やっぱり。
こうなれば力づくでも帰らなければ。
そう思って周囲に視線を走らせましたが、神官たちはあっという間に私を取り囲んでしまっていました。しかもミハエロさんは私の腕をぎゅっと掴んだままです。
冷や汗が背中を伝うのがわかりました。
「あ、あのぅ。その、私、そんなにすごい人間じゃないので。それに今迷子中なんです。だから心配かけちゃってて……」
「本物だ。真の聖女様ではありませんか」
「なんと麗しい」
「聖女様、そんなことをおっしゃらず」
やばい。これは完全にやばいです。
私はどうしていいかわからないまま、教会の奥の方へ連れて行かれるのでした。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆
「黒死病の退治を。まさに聖女ですな。聖女様の偉業、世に知らしめませんと」
「いえ、ですから。ペスト……黒死病は、ネズミから感染するだけであって。決して特別な力を使ったとかいうわけでは。もちろん治療には聖魔法を使いましたけど、ただそれだけなんです」
「おお、なんと!」
「ありがたやありがたや」
「ならば私のハゲも治していただけますでしょうか」
「ハゲは無理です。……ちょっと拝まないでください!」
私は豪華な椅子に座らされ、ミハエロさんと神官さんたちに土下座されています。
別におじさんたちに土下座されても何も嬉しくないのですが……。むしろ目を背けたくなってしまうくらいです。が、そんなことをしたら何をされるかわからないので迂闊な行動は取れません。
まずは相手の狙いを聞き出さないとです。
「どうして私をここへ連れて来たんですか?」
私が問うと、ミハエロさんがゆっくりと頭を上げます。
他三人は土下座のままですけど、それに構わず彼は答えてくれました。
「道に迷われているという聖女様を保護するためです。それに、聖女様には正しき場所に居てもらわねばなりますまい」
「正しき場所?」
「『女神の祭壇』でございます」
『女神の祭壇』……? 聞き覚えが全くない言葉が飛び出し、私は首を傾げました。
祭壇といえば何かの儀式をする場所ですよね。そこまで考えて真っ先に思い浮かんだのは生贄です。
もしかして私、生贄にされるんじゃないでしょうか。
「祭壇はこの世界で最も女神様のお力が強いとされる場所。そこへ行けば女神ヴォラティル様と聖女様がお心を通わせることもできるかも知れないと思いましてな」
「ヴォラティルって女神の名前だったんですね。それなら私、相性悪いと思いますよ」
私、この世界の神様に色々と思うところがあるのです。勝手に呼び出して裸にして、その上危険な目にばかり遭わせて……文句の十や二十、あって当然でしょう?
だからと言って直接言いたいとは思いません。私の目的は早く元の世界に帰ることであり、女神様と対面して愚痴ることではないのですから。というより女神なんて本当は存在しないと思いますけど。
……ともかく。
「結局のところ、ミハエロさんは何に私を利用したいんです? 金ですか、名声ですか、権力ですか? 何にしても私はあなたたちの道具になるつもりはありませんよ。それとも――」
ミハエロさんが瞳に驚愕を浮かべたのがわかりました。
どうせそうだろうと思っていました。女を無理矢理こんなところに連れて来るんですもの、何か裏があって当然です。
「私を誘拐までして、聖女の力が欲しいのですか?」
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