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乗合馬車には、大勢の老若男女がひしめいていた。
皆薄着の白い服を着ており、寒い寒いといいながらも実に楽しげだ。
「おやお嬢さんは初めてなのか?」
乗合馬車は、20人くらい乗りの幌馬車に各自勝手に乗り込むだけの簡素な作りだ。
適当にミシェルもたくさん並ぶ馬車の一つに乗り込んで、隣に乗り合わせたおばあさんとちょっと世間話を楽しんでいた。
おばあさんによるとこのイベントはなんと参加は人気につき抽選で、今回おばあさんは4年ぶりに当選して、いい年の始まりだわ、ありがたいと喜んでいた。
冬の海なんかに飛び込むなんぞ絶対いやだとダンテにミシェルはごねていたと言うのに、人によっちゃ価値観は様々だ。
もひとつ横にいたおじさんによると、この儀式を終えた後は金運だのなんだのがグッと上がるらしい。
「今年は次代の大神官様の成人の祝福があるだろう、聖女様から大きな祝福があるはずだから今年は倍率がいつもの倍だったというぜ、お姉ちゃんついてたな」
「ああ、カロン様のご成人だろう?あの方、今はダンテ様の元で魔法の鍛錬を積まれているというぜ。ダンテ様との鍛錬が終わったらどれほどの素晴らしい大神官になられるのか、見ものだな」
「ダンテ様のお手図からの鍛錬であれば間違いがない。次代の神殿の未来の先行きは明るいな」
そんな事まで言うではないか。
確かにカロンの成人だと聞いていたが、こんなにカロンの成人が下々にまで知れ渡っているのは驚きだ。
昨日もミシェルの洗濯物を洗ってくれたのはこのカロン様だし、ミシェルに作った朝ご飯のパンケーキがあまり甘くないとダメ出しされたのは他でもない、目下話題のカロン様なのだと思うと、ちょっとカロンといい、ダンテといい、ミシェルは距離感を間違えているのかもしれないと今更ちょっと怖くなる。
ここからおおよそ1時間ほど馬車に揺れるらしい。
そんな折、馬車の奥から小さな喝采と美しい歌声が響いてきた。
「お、吟遊詩人と乗り合わせるなんて今年は乗り合わせからついてるな」
おじさんはいそいそと酒の瓶を持って、奥の方に移動して行った。
ミシェルもなんとなく奥から聞こえる美しい歌声のする方向に目をやると・・
(カロン。ダンテ。ありがとう。心のそこから本当に)
ミシェルは心からの感謝を、今頃ぬくぬく聖女様のそばで火に当たってるだろうダンテと、今頃一人で冷たい神殿で祈りを捧げているはずのカロンに捧げた。
馬車の奥にいたのは、ミシェルの好みど真ん中の、非常に線の細い美しい若い男。
ミシェルと同じ儀式の為の白い薄着のその男が、ギターのような楽器を弾きながら、若い男と女の悲恋の歌を歌い奏でていたのだ。




