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「でもね、仕事の依頼はどんどん増えてきて、仕事に集中しようとすると、仕事の邪魔をしてくる子供達が憎い、と思い出してくるんです」
ファブリジェ女史は苦しそうだ。
「一度仕事に集中しすぎて、子供に食事をあげるのをすっかり忘れて、夫が帰宅した時にはお腹のすいた子供がお風呂にもいれてもらえずに、泣いていた事があったのです。私は仕事に集中すると寝食を忘れてしまうのです」
「その日はいつも優しい夫に、お前は母親失格だと、なじられました。仕事をもっと減らして、子供や家の事に集中したらいいのでしょうが、夫の収入だけでは足らないので、まだ私は働くしかないのですが、私は仕事を受けると何も見えなくなって子供の事も面倒が見切れなくなるほどなんです。ミシェルさん、私はどうしたらよいのでしょう。ミシェルさん、仕事を諦めて頑張って節約して、頑張って子供と家の事だけみてているようにしたらいいと、そう思われますか」
本当につらそうにファブリジェ女史は顔をゆがませた。
この世紀のキャリアウーマンも、キャリアウーマンである事をやめてしまったら、ただのポンコツ主婦なのだ。
(これはつらいわね・・)
これほどのキャリアのある女性、仕事に対する誇りも相当のものだろう。
自分のポンコツ主婦具合で、愛する家族に不協和音が立っていたたまれないだろう。そして啖呵切って親の元から出てきたから、誰にも助けてもらえない。
ミシェルは後ろの光のさざめきに、もっと集中してみる。
何か、ヒントはないだろうか。
ミシェルの思いに呼応するかのように、ゆっくりと後ろのさざめきは、この不器用な女性と、夫と、そして小さな二人の子供の状態を光ゆらぎという形で、みせた。
(あれ?案外相性いいじゃない?)
ミシェルが見たのは、非常に意外な光のゆらぎだった。
正直ミシェルは、この結婚が間違いだったから、二人が離れる事がこの家族の幸せにつながるのでは、ちょっとそう思っていたのだ。
どうせ仕事に理解のない頭の固い男と結婚しちゃったのだろう、と。
長年の軽い男性不信のなせる考え方だ。
だが案外にも、光のさざめきがみせてくれた家族は、この夫婦の相性が悪くない事、そして心から愛し合っている事、そしてこの二人が子供達を心から慈しんでいる様子がみてとれたのだ。
夫婦のエネルギーはお互いを見ていたし、エネルギーも同じ大きさにあろうと、努力がみられる。
二人の間には子供のエネルギー。二人とも、子供を大切に守っている様子。
ただ、この二人とも、どうも我慢してるのだ。夫の方の光はエネルギーが不足して青ざめていて元気がなく、妻の方の光はおさえこまれてオレンジ色で、苦しくて息が苦しい。
子供達は遠慮がちに、心配そうにそんな二人の様子をうかがっている。
皆が皆、愛し合っているのに、どうしてこの家に、幸せはやってこないのだろう。
(この不器用な女性が幸せになるには、どうしたらいいんだろう)
暖炉の前で、平和そうに眠る子供の髪を解いてやる女は、まるで絵画のように美しい。
(よし・・)
ミシェルは、サイコロをつかむと、一気に空に投げた。




