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異世界占い師・ミシェルのよもやま話  作者: Moonshine
女の幸せって

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ミシェルは冬が嫌いだ。


朝は真っ暗で起きた瞬間に寝たくなる。起きたら起きたでで、何の因果でぬくぬくのベッドから寒い外に出なくてはいけないのか、毎朝人生がちょっと、嫌になるくらいには冬が嫌いだ。

空気すら乾燥してて肌にも悪い。

雪なんか降った日にゃ、ハイヒールは履けないし、田舎の道なんて凍結防止に塩をまきまくっているものだから、折角のブーツがすぐに痛む。


一歩も外に出たくないが、そうはいかない。


(マゾなのかしらね、ああいう人たち)


陸上部の冬の朝練など、ミシェルのようなタイプにとってはただの罰ゲームだ。

あんなのに部費まで払って参加するなんて、ミシェルにはさっぱり理解できないでいたものだ。


ただ、そんなミシェルでも、一つだけ好きな、冬の名物がある。


「お前は本当によくわからん事ばかりだな。この寒い中、普通に館の中で食べたらいいだろうに」


そうダンテは、ブツブツと文句をいいながら、ミシェルの為に設計図を描いている所だ。


「バカねダンテ、寒い中で、ずるずる音立てて、熱いものを食べるのが最高なんじゃない!」


ダンテはミシェルが温度高めで説明する、冬の屋台の魅力がいまいち理解できない様子。


「そういうものかね、私にはよくわからんが」


首をかしげながら、それでもダンテは筆をすすめる。


「ええ、そういうものよ。一度経験してみなさい、私が保証してあげるわ」


ミシェルは鼻息があらい。


「ミシェルといると、いつも楽しい事ばかりだね、私もとても完成が楽しみだ」


ミシェルの計画にあまり納得していない様子のダンテ、なんだが楽しい事になりそうだとウキウキしているカロン。

ダンテもカロンも高貴な身分なので、寒い所で麺をすするような食事をしたことなど、人生で一度もおそらくないのだろう。


ミシェルは屋台が大好きだ。

寒くなって雪がふったら、家に直帰せずに屋台のラーメン屋に必ず寄って、安い熱燗を一杯やってから、ぽかぽか帰宅するのが幸せなのだ。


そういう訳で、ミシェルはダンテに、ビュリダンへの占いの報酬として、屋台のラーメンを、屋台から設計させているのだ。

「なるほど、動く台所と食事の場所だと理解すればよいのだな」


無駄に頭の回るダンテは、ミシェルのつたない説明も、屋台の仕組みは、馬車とおおよそ同じ構造である事を理解して、あれこれと設計図を描いている。


ミシェルの服装やら発言やらには、小姑のごとく、やいのやいのと口うるさいのだが、食に関しては実に、この男はオープンマインドだ。

おそらく自分も興味があるのだろう。


ミシェルが細かく注文した理想のラーメン屋台を、ブツブツ言いながらもちゃんと設計してくれている。


屋台が完成したら、どこで食べようかな。


ミシェルの行きつけだった屋台は、橋の近くにあった。

そこの親父さんは、時々橋の下に住んでいるホームレスのおっちゃんたちに、残ったラーメンをふるまってやるような優しい親父さんだったので、ミシェルもちょっと多めにお酒を頼んで、橋の下のおっちゃん達のご飯代の足しになればと、言い訳しながら多めに飲んでた事を思い出す。


(やっぱり、絶対に橋のたもとよね)


この屋台デビューの二人に、最高のロケーションでプレゼンして、褒められたいではないか。


ミシェルの頭の中で、「屋台は最高だね、さびれている場所で食べるのがおいしいよ、ミシェル大好き」と満面の笑顔のカロンと、「うん、私の完敗だ。ミシェル、お前は偉い。立派だ。最高だ、いい女だ」とほめまくってくれるダンテの二人の映像が交互にやってきて、忙しい。


ミシェルはダンテとカロンに、ちょっと散歩してくると言って、アケロン川に掛かっている大きな寂れた、ギョッルという名前の橋をめざした。


(ここのギョッル橋のたもとまで屋台引いてきたら、ちょっと雰囲気よね!絶対のれんは赤いのがいいわ!)


このギョッル橋は、かなりの古い歴史があるとか。さびれた雰囲気がとても素敵で、映画のセットのようだとミシェルは前々から気に入っていたのだ。屋台が登場するには最高のロケーションだ。


そうやってミシェルは寒い中、うろうろと橋のたもとをロケハンしていた所。


(うん?)


ギョッル橋の上は風が吹きすさんで、とても寒い。だというのに、橋の上に誰かがいるではないか。


(え?だれ?)


このギョッル橋は、文化遺産みたいなもので、だれも観光目的以外では使わないと、カロンが言っていた。

見かけは美しいのだが、アーチがかなりきついかなりの坂道の上、手すりのようなものがなくて、危ないのだ。

近年建てられた橋は安全で平坦なので、皆そちらを利用する。

このエリアの観光のシーズンは春らしいので、寒い季節にギョッル橋にわざわざ用事がある人など、いないはず。


だというのに、その古い橋の上に、一人の女が立っているのが、ミシェルの目に映ったのだ。


しかも目をこらしてよく見ると、その女は今にも死にそうな顔をしていた。

それに大変、薄着だ。

もっとよく見ると、その女、背中には赤ん坊、右手には幼児の手を引いて、ぼうっと、水面を眺めて橋から身を乗り出していたではないか!


「ちょちょちょ、ちょっと!!!はやまらないで!!」


ミシェルはもう、弾丸のように飛び出して行って、女にタックルをかました。







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