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異世界占い師・ミシェルのよもやま話  作者: Moonshine
モラルは社会に、必要だけど

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ヒュパティアは、ミシェルにとても感謝してくれた様子で、あれもこれもと、可愛い雑貨やら、もう着ないという美しいドレスやらのおさがりを、馬車一杯に大量に分けてくれた。


「弟子はね、男の子が多いのよ。外国から旅をしてこの国にお越しなのでしょう?身軽でいらっしゃるでしょうし、ぜひこの国の可愛い小物をちょっともらってちょうだい」


そう言って、長生きだけあって、色々ため込んでいた可愛い小物をあれやらこれやらと持たせてくれるヒュパティアは、遊びに行く度にミカンやらノリやら、自家製の漬物やらを持たせてくれる、田舎の年寄り達のようだった。


ヒュパティアが愛情深いというのは本当なのだろう。

ただのミシェルにさえも、惜しみなくその愛を分けてくれる。


可愛い小物ものだのおもちゃのようなお菓子だのに囲まれて、ホクホクとしてあれやこれや、もらった小物をいじってご機嫌なミシェルを前に、馬車中ダンテはずっと、ブスッと不機嫌な様子で、黙っていた。


(何が気に入らないのかしらね)


そんなダンテなど放って、ミシェルは馬車の時間中、オルゴールを鳴らしてみたり、魔術で編まれたレースの髪飾りを触ってみたりで夢中だ。どちらかというとモード系のミシェルも、やはり乙女な小物は胸が高鳴る。


屋敷ももうすぐ見えてくるという頃、この不機嫌な男は、急に口を開いた。


「それで」


なんの前置きもなく、そして続けた。


「お前はどうなんだ?」


いきなりそうイライラとした口調で、急に口を聞いたものだから、ミシェルはびっくりしてしまった。


「どうって?」


「ほら、あれだ、師にあのようなアドバイスを与えるほどだ、お前は異性間のモラルに反した事は、あるのか?」


ああ、二股以上かけたことがあるのか、って事か。


(しょうがないなあ・・)


そう、このダンテは、とても恋愛に関しては一途で、堅物なのだ。

ぶすっと明後日の方向を向いて、なんだか拗ねているように、ミシェルに聞くものだから、ミシェルは苦笑いに笑ってしまった。


そもそも今日の案件は、ダンテの依頼だというのに、それも上手に解決に導けたというのに、ミシェルの口から反モラル的な恋愛の勧めを聞いてから、なんとなく機嫌が悪いのだ。


笑われたのが心外だったのか、その赤く美しい形の口元をへの字にして、ぐっと背をそらして窓の外に体を向けて、子供のようにミシェルと目を合わそうとしないダンテに、ミシェルは笑ってしまった。


「残念ながら、私はヒュパティアさんとちがって、そんなに与える愛情は多い方ではないらしいの。一人に与えるだけで精いっぱいだし、それでも足りないっていわれて、他の女性と二股かけられた事なら2回もあるわ。本当に傷ついたわ」


そう自虐的に、ミシェルのあまり調子のよくない恋愛遍歴を答えてやった。

そもそも、ミシェルがどんな惨めな恋愛をしてこようが、この男にはまるで、関係のない事だ。


ミシェルはゆらりと揺れるダンテのローブに目をやった。

ベアトリーチェから贈られたという、ダンテの大切な、ボロボロのローブ。

愛しい女を黄泉から呼び戻すために、この美貌の魔術師は、人としての禁を犯してまで、一人の女の愛を求めた。


「足らないって、言われたのか?お前はとても、愛情深い女なのに」


ダンテは意外にも、その美しい目を丸くして、ミシェルの方に、彫刻のごとく美しいその体を真っすぐにミシェルの方に向き直って、そう言ったのだ。


またお前は下品だから、とか、そういう事を言って、ダンテは一緒に笑ってくれるかと思っていただ。

ミシェルの完全に無防備だった心の息の根が、止まる。


(いけない)


どきり、とミシェルの心臓が、大きな音を立てる。


(この音は、聞かなかったことに、しなくてはいけない)


ミシェルは自分の心臓の立てた音に、戸惑いを隠せない。

高鳴る心臓の音は止まることを忘れた様に、戸惑うミシェルを見捨てる。


この心臓の音の意味を知らないほど、若くはないし、奥手でも、ミシェルはない。


(だめ。考えてはいけない)


ダンテのその美しい紫の瞳にに見つめられて、射抜かれた様にミシェルは動けなくなる。

心の中でワンワンと鳴きだした警報音にいやな汗をかきながら、それでもヘラヘラと軽薄に、にげようともがく。


「ありがとうダンテ!そんな事いってくれるのダンテくらいよ。私本当に男運が悪くって、へへへ・・でも」


「お前の価値もわからない男とは、共にいなくて正解だ。ミシェル」


ミシェルの逃げの言葉にぴしゃりと、かぶせ気味にそう言うと、ダンテは逃がしてくれなかった。


ダンテは急に腕を伸ばして、無防備に伸びているミシェルの腕をグッとつかんで、真っすぐにミシェルをその美しい紫の瞳で見下ろして、体をミシェルの前に向き直ると、続けた。


「お前は自分の価値を、もっと正しく知った方がいい。お前は十分に人から愛される価値のある人間だ。なぜお前は、自分には、愛される価値がないと、思っている?」


(やめて、ダンテこれ以上は)


震えが止まらない。

ミシェルは、もう上手く作り笑いがでてこない。

歪み出した顔が壊れないうちに、お願い。逃がして。


馬車は、屋敷の前についた様子だというのに、無情にもダンテは続ける。


「ミシェル、お前は美しい女だ。そして心の優しい女だ。なのに、お前の心には、なぜお前が入っていない?何を諦めているんだ?」


ミシェルの腕を掴むダンテの掌から伝わる、案外熱い体温。


(やめて、私を暴かないで)


その紫の瞳で射抜かれると、心が裸になってゆく。

ミシェルの心に去来した、決して報われる事のない名のない思いも、暴かれていく。


心の奥に去来したこの思いを口にしてしまった時、この命の終わりを迎えるのだろう。


ミシェルの視界に、ダンテの美しい銀髪をまとめている、紺のリボンが掠めた。

これも、ベアトリーチェからの贈り物だと、言っていた。


馬車が止まるや否や、正気に戻ったミシェルはダンテの手を振り払って、馬車から転がるように飛び降りて全速力で走り去る。


「まて、ミシェル。話は終わっていない!!」


ダンテの声が遠くに聞こえる。

迎えにでていたカロンに一瞥もせず、その横を走り去って、ミシェルは離れの小さな小屋に、逃げて行った。


「おかえりなさいダンテ様、また喧嘩ですか?」


走りゆくミシェルを横目で見送りながら、馬車に一人残されたダンテに、カロンはそう声を掛けた。


「いや、そうではないのだけれどな。妙だった」


ミシェルに振り払われて、行き場を失った手を宙に向けて、ダンテはため息と共につぶやいた。


「ダンテ様。ミシェル、泣いてました」


心配そうに、ダンテの羽織っていたローブを受け取りながら、カロンはミシェルを目で追って言った。


「泣いてた、のか」


「ええ。泣いていました」


ダンテとカロンは、二人で、ミシェルの走り去った離れの方を見つめ、途方にくれていた。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 言葉足らずなので何と言っていいのか分からないですが、いいですね…!
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