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「さあ?」
ミシェルはまた、ひっくり返りそうに、なった。
(な、なにいってんのこの子???)
どんな彼氏が欲しい、なんて聞かれたら、普通の若い女の子であれば、乗馬が上手だの、巻き毛が美しいだの、収入がいいなど、100個くらいは、いろんなリクエストがででてくるはずだ。
尚、ミシェルなら秒で300個くらいのリクエストがでる。
ミシェルは裏返る声を抑えて、なんとか続けた。
「さあ、って、どういう事?だれでもいいっていう訳じゃないんでしょ?」
「ええ、と、彼氏がほしいな、っていう漠然とした思いはあるんですが、具体的にどんな彼氏といわれたら、何も思いつかなくて。いい人がきてくれたらな、っておもうんですけど」
「だから、いいひとって、具体的にどんな感じ?」
「そうですね・・優しい、とかですかね」
ミシェルは頭をかかえた。
このビュリダンという娘、別に頭が悪いわけでも、天然ちゃんな訳でもない。
ただ、具体性にとぼしいのだ。
「あ、嫌な人、ならわかります。乱暴な人とか、体毛の濃い人とか」
ミシェルは、頭が痛くなってきた。
そして、ついに気になっていた事の確信をつついてみる。
「ねえ、ひょっとしてさ。あなたの着ているドレスも、そういう基準で選んでるわけ?好きなものはわからないけれど、嫌いなものはわかる、嫌いでないから着ている、そんな感じ?」
ミシェルはほぼ、嫌味で行ったつもりなのだが、この娘、
「ええ、そうですね、あとは仕事場でどういう服を着ることが求められているのか、という事を鑑みて、長持ちするかとか、質はいいものを選んでいるつもりです」
そう、しれっと悪気もなくいうではないか。
パッキパキの赤いヒールが履きたくて、前の世界の上司とも、こちらの世界のダンテとも揉め事を起こしてるミシェルには、信じられない。
「じゃあ、どうやって、その人と出会いたい?例えばさ、公園で散歩中、とか、仕事で一緒になった取引先、とか、色々あるじゃない、素敵な出会い方」
ミシェルは、イライラしながらも、ミシェルにしたら根気強くこの娘から、話を聞こうとする。
リリーに同じ事をきいたら、海賊にさらわれて、そこの頭領に無理やり自分の女になれ、と迫られたいと、ちょっと現実離れした答えが返ってきたが。
だが、このビュリダンはまたミシェルに肩透かしを食らわせる。
「えっと、具体的な所は思いつかないです。できたら、自然な形でであいたいな、とは思いますけど」
ミシェルは空を仰いだ。
この娘、何もビジョンがないのだ。
そんななのに、お肌はきめ細かくて、毛穴なんか見当たらないし、ちょっと化粧でもして、流行りのカットの明るい服でも着せたら、認めたくはないが、ミシェルよりは美しい娘に、簡単に変わりそうだ。
ミシェルはイライラして、ちょっと乱暴に、ダン!とテーブルをたたくと、大きな声を上げた。
驚いて、ビュリダンはぽかんとしているが、ミシェルはお構いなし。
「いい?私だったら、瞳は薄い色の男が好みだわ。青いのがいいけど、金色でもいいわ。鼻筋はとおっていて、眉がきりっとしてて、指先は少し反ってるのが最高ね!唇は薄い方が好みだわ!」
ミシェルは続ける。
「背は、私の顔が胸にあたるくらいの背の高さがいいし、できたら細身の筋肉質な男ね。その上私の知らない事なんでも知ってるような博識で、なんだかんだ優しくて、いつも私の事を考えていてくれて、それからものすごい金持ちの、身分のいい男!!」
とまらない。
「服装はね、最先端のファッションに飽きて、ちょっとこなれ感のある感じで、清潔感があるほうがいいわね、あと食事は沢山食べる人がいい。食に対する好奇心が旺盛で、食べ方がきれいで、それから料理も自分で美味しいもの沢山作れて、それから、一途な人がいいわ!」
そう大声で喚いているその理想の男を思っていると、ぼんやりと、非常に鬱陶しいミシェルの同居人の顔が思い浮かんできた事に、ミシェルは内心ぎくりとする。
「と、ともかく、あなたね、自分の中で、どんな人が好きか、どんな服が好きな、どんな事で喜ぶのか、何もわかってもいないのに、出会いたいって、まずどんな人と出会いたいか、しっかり考えた事、ある?」




