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そういう訳で、ミシェルの不思議な商売は、割と今の所順調に行っている。
(異世界だろうが、元いた世界だろうが、人間って、割とどこでも同じなのね)
細かい価値観や、習慣の違いはあるが、基本的にみな、怒ったり笑ったり、悲しんだり、嫉妬したり、大体のポイントは、同じように見受ける。沢山の人々の話を聞いて、沢山の人々と知り合いになって、意外にも、ミシェルの異世界生活は、結構楽しくやっているのだ。
(ネチネチ嫌味いわない上司がいないだけでも、こっちの世界の生活の方が快適よね)
人の幸せはどこにあるのか、わからないものだ。
毎日必死で嫌味いわれながら終電まで仕事して、出来合いのお弁当で食事はおわり、週末はつかれて溜まった洗濯して寝るだけの生活よりも、朝から鳥なんか眺めて、かわいいカロンが朝食用意してくれて、夜は夜で顔だけは国宝級のダンテを眺めながら、イケメンがつくったアホほどおいしいご飯を食べて、ぬくぬく生活している今の方が、QOLは爆高い。
ただ、異世界なだけだ。
(そう、問題は、ここが異世界っていう事以外、なんにもないのよね、実は)
ふう、とため息をつく。
「なによミシェル、一人でため息なんかついちゃって」
今日ミシェルは、前の鑑定から、すっかり仲良くなったリリーと、一緒に流行りのスイーツを食べに来ているのだ。
二人がたっぷり二時間はならんで食べているのは、今この領地で大人気のスイーツ。
焼いたイチジクの上に、バルサミコ酢のようなコクのある黒酢を煮詰めたものをかけて、その上に、バニラアイスクリームがとろとろになってかかってある。
この大人美味しいデザートの名前は、その名も「未亡人の秘密」だとか。エロい。そして旨い。
「本当に、この国の食べ物はおいしいわ。ちょっと太っちゃったもの。またいい男との出会いが遠のいちゃう」
ケラケラと、ミシェルは久しぶりの女子会がとても楽しい。
この女子会を実現させる為、リリーはめちゃくちゃ残業した!とぷりぷりしていたが、そんなリリーもとても楽しそうである。
「この後どうする?下着屋さんいかない?あんたに叱られてから、高いやつも何もかも、全部黒い下着処分したもんだから、もう手持ちがあんまりなくて、お泊りの日はひやひやなのよ」
そう、リリーはミシェルとの占いのその後、いい感じの彼氏ができて、ちょいちょい彼氏の家に泊まりにいったり、遅れた青春を謳歌している様子。
ミシェルは笑って、続ける。
「あんたの下着のコレクション最初に見たときは、ひっくり返るかとおもったわよ。モテない女は、下着が黒いって本当に、本当だったんだ!って」
リリーの寮に遊びにいった時に、ミシェルはその真っ黒い引き出しを見て、口角から泡を飛ばしてお説教したのだ。そんな下着ばっかり着てるから、あんたモテないんだ!と。
「もうー、過去の事よ!今やあんたのアドバイス通り、桃色からバラ色から、色とりどりよ!おかげで結婚できそうで、本当に感謝してるのよ。あんたのいう事聞いておいてよかったわ」
二人でそうやって、けらけらと紅茶のお変わりを楽しんでいた時だ。
二人の目の前に、地味な、だが仕事ができそうな若い女の子がふらり、と表れて、そして、こう、急に切り出したのだ。
「黒い下着をやめたら、彼氏ができるって、本当ですか」




