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異世界占い師・ミシェルのよもやま話  作者: Moonshine
LGBTは親の罪なわけねえだろ

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アランの一件から、ミシェルの占いは、そこそこ口コミで広がるようになってきた。


女にとっての、頼れる占い師というのは、男にとっての山奥のそば屋みたいなもんだなと、ミシェルは思う。

みんなもったいぶって、秘密扱いにして、だれにも教えたくない。だが、とても近しい人間にだけ、こっそりと、本当は教えたくないのよ、と本当に信用できる身内相手にだけ、紹介するのだ。


今日はそんな感じでこっそりミシェルを訪れたのは、聖女の身の回りのお世話をする侍女の、その母親の、その親友の、その妹だという紹介で、やってきた中年の女。ボルドー夫人という。今日のお客様だ。


「今日は息子の内気な性格をね、相談したくね」


そう、ボルドー夫人は口火を切った。

夫人は貴族の子弟に楽器を教えているらしい、非常に上品な貴婦人だ。

上品な装いや振る舞いを前にして、ちょっとガサツである自覚のあるミシェルは、所在げがなくなってしまう。


この女の息子は、とても気恥ずかしがりで、上手に学園でやっていけるのか、という事をつらつらと、ミシェルに文句をいっていた。世のお母さんはみな、子供の事に関しては本当に心配性だ。


「私は音楽しか知らないので、それしか教えてこなかったから、こんなに神経質で繊細になってしまったのかと思うと、本当に心配で」


「はあ、そうですか。それはご心配ですね」


聞けば、この息子とやらは、もう少年ではなく、青年の域に成長している若者だ。

特に女親というものは、それにしても、どうしてこんなに息子の事を心配する生き物なのだろうか。


カロンの産みの母親は、カロンが神殿の預かりになってからも、週に一度は必ずカロンに手紙をよこすとか、そんなことを言っていた。カロンの父親の方は三月に一度くらいの頻度で、大体用事やら、役に立つであろう事やらを書いてくるらしいので、ミシェルの所感はそう、まちがってはいないと思う。


(よし、いっちょ見てみるか)


ミシェルは、よっこらしょとばかりに、ボルドー夫人の後ろにさざめく光に目をこらして、耳をすませる。

光の粒は形をつくり、映像をミシェルにみせてくる。


そこは、どうやら学び舎らしい。

とても内気な青年が、内気なりに頑張って学園生活を送っている所が目にとびこんでくる。

どうやら人見知りらしく、下ばかり向いて歩いていて、実に気の毒だ。


子供の頃はよく病気をしたらしい腺病質らしい体質も、この性格をかたどった一つの要素であるらしいが。


さらに映像に、心をゆだねてみる。


すると、この繊細そうな青年の後ろには、やさしそうな老女が、しっかりとこの青年が自分の力で歩いている様子を見守って、そしてこの心配性な母親からのエネルギーを、少しこまったように遮っているのが見える。

この老女、青年のおばあちゃんだか、ひいおばあちゃんだか、何か、青年とゆかりがあって、青年の幸せを祈る、肉体を持たない存在なのだろう。大抵の人間にはそのような存在があるらしい事を、この異世界にきてミシェルは学んだ。元の世界では、この存在の事を守護霊だのご先祖様だのエンジェルだの、言っていたと思う。


(なるほど、親が過干渉になると、逆に子供の為にならないってわけか)


どうやらこの青年は、ゆっくりではあるが、自分でしっかり、前を向いて歩いて行こうとしている様子。


母の干渉はこの時点では、邪魔になる。

繊細であっても、内気であっても、自分の力で前に進む事ができるのであれば、邪魔建てさえしなければ、人は前に進む。母親さえ出しゃばらずに、落ち着いて見守るスタンスであれば、大丈夫そうだ。この青年は、光の方に向かって、歩く勇気を持っている。


あまり難しくない相談でよかった。

ミシェルは、にっこり笑って、口を開いた。


「ちょっと自分で立ち上がるのを、遠くで見守ってあげて、お母さまは口も、手を出さないように。大丈夫です。お母さまがおもっていらっしゃるよりも、この方は、立派な大人ですよ」


「ミシェルさんが、そうおっしゃるのでしたら・・」


女はあまり納得はしていない様子だったが、ミシェルから大丈夫、と言われて、少しは安心したらしく、軽くため息をついた。


ミシェルは、この青年の後ろにみえた優しそうな老女に目配せをおくると、老女は一つうなずいて、意外な事に、今度はどこか、この青年とは違う、別の青年の姿をゆびさして、それは心配そうに、ミシェルを見つめた。


老女に促されるようにミシェルはその青年を見て、そして愕然とした。


(・・・って。おいおいおいおいおいおい、こっちが本命じゃないか!!)


ミシェルは、胸がどきどきと、鼓動を打つのを感じた。


ボルドー夫人はミシェルの心に去来したことなど、露とも知らずに、心配そうに、


「でも、あの子は繊細だから、とても心配なんです。いいお友達に会えるかしら、いじめられやしないか、本当に繊細で体が弱くて、私はあの子を産んでから、ずっと本当に気の休まるひまがなかったですわ」


と、カロンが入れてくれた美味しい紅茶を飲みながら、ふう、とまたため息だ。


ミシェルは、女の話は聞いてない。それよりもだ。


「あのね、ボルドー夫人、私、ちょっと息子さんの事で、聞きたい事があるんです」


「ええ、なんでも聞いてください。そもそもあの子が音楽をはじめたのは、小さい頃に乱暴な男の子たちにまじって、一緒にあそべなかったからんんですよ。でもね・・」


例の内気そうな青年の話を続けようとするが、ミシェルが知りたいのはそれではない。


ミシェルは、ぐっと紅茶を一気に飲み干すと、


「いえね、私が聞きたいのは、もう一人の息子さんの方ですよ」


そして、ぐっとミシェルは、その顔をボルドー夫人の顔に近づけて、聞いた。


「あなたは、一体この息子さんの、何に対して苦しんでいるんですか?」


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