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そして、ミシェルはあの歌詞の示した事の意味が、理解できた。
「ねえリリーさん、リリーさんは一人で何もかも、全部完成させちゃって、誰かの入る隙なんて、なにもないのよ。だから男性は、自分が入る余地のある、余白のある女の子の方に、流れていくわけよ」
もう適齢期は過ぎてしまったリリー、このチャンスを逃したら、おそらくもっとひどい事になっていただろう。
このタイミングでミシェルの所まできてくれて、よかった。
ごちそうでぎっちぎちになっているお弁当は、誰かにおかずを分けてもらったり、咲いてる花をひろって入れる、そんな場所など、ない。
きっとスカスカのお弁当の女子の方が、デザートを分けてあげようかなと、おかず半分こしよう、とか男子が声をかけやすいし、きれいな花が咲いていたら、お弁当箱に入れて持って帰りなよ、とちょっと声かけやすいのだろう。
なんなら、一緒に何かつくって、このスカスカを一緒に埋めようよ、なんていい感じでさそわれるのだろう。
そう思うと、あの妙な弁当の歌に誘導された理由がわかるきがする。
リリーに、それからミシェルに、決定的に足りていなかったものの正体。
(そっか・・余白がないと、新しい何かが、入ってくる余地が、ないわけだ)
そう納得していた所、リリーは大事な事をぽつり、とつぶやいた。
「ねえミシェルさん・・余白って、自信のあらわれよね」
おおきなため息をつくと、リリーは寂しそうに、その完璧にととのえられたまつ毛をふせた。
ミシェルに、秘密を知られた事で、取り繕う事をやめたらしい。
ミシェルを訪ねたばかりのリリーとはちがい、しょんぼりと両手をくんで、下を向いた。
「私ね、自信がないの」
「そのままの自分に自信がないから、全部計画して、企画して、余すところなく、その通りの自分を演出してるのよ。余白なんて残せる人って、すごいと思うの」
完璧に整えられたまつ毛奥の瞳は、濡れていた。
「実はね、本当は、どんな男性が好きなのかもよくわからないの」
ぽたぽたと、リリーのくまれた両手の拳が濡れる。
「ああ、それが、本当の原因なのね・・」
自分に自信がないから、世間で良しとさえているいい女をマニュアル通りに作成し、世間で良しとされている男を、見つけようとしていたわけだ。
「・・・」
光のさざめきは、ミシェルに映像をみせた。
小さな女の子だ。
朝から晩まで、とても忙しく勉強やマナーに忙しい、高位貴族の優秀な娘。
多忙な両親は、この小さな女の子がよい成績を収めるたびに、いいぞ、えらいぞ、とほめてくれている。
よくある光景だ。
だがこの両親は、それ以外では、この娘にかまう暇はない。悪い親ではないし、愛情もあったのだ。
だが実際に、この小さな娘は、多忙な親に振り向いてもらい、愛の言葉を受け取るには、勉強だのマナーだのを、頑張る以外、なかったのだ。
愛が欲しいなら、頑張るしかない。
そう、この小さなリリーは、この世界を理解したのだ。
映像は、ゆるゆるとミシェルの元をはなれた。
この映像を見せているのは、そんなリリーを愛して、心配している何かである事は知っている。
ミシェルは、光のさざめきに、体をあけわたした。
そして、ミシェルは、一つの言葉をうけとった。
ゆっくりとミシェルは、リリーの濡れた拳両手でつつむ。
(もう、大丈夫よ)
何もしなくても、貴女は愛されていた事を、知るだけ。
愛されている事を、受け入れるだけ。それでリリーは、変わる。
「ねえリリーさん、頑張らないことを、がんばろうか」




