2
「でね、ミシェルさん、なんで私に彼氏ができないのか、私さっぱりわからなくて」
アランの紹介で、今日ミシェルを訪ねてきてくれたのは、王宮の侍女のリリー。
最近華やかに男性たちと逢瀬を重ねているらしい、アランこと、アンジェリーナの友人だとかで、これまた非常に美しい女性だ。
よく仕組みはわからんが、王族を担当する侍女の中でも、第二王女の公文書を担当するとかで、いわゆる侍女界のバリキャリらしい。第二王女の名前が付く文書、挨拶文、それから公共の場でのスピーチは、すべては彼女の手で整えられていると、誇らしげに語った。
(あー、いたよね、こういうタイプの人)
ミシェルの先輩にもいたタイプだ。
ちょっと懐かしい。ともかく、隙がまったくないタイプだ。
仕事帰りなのだという女の装いは、王宮の侍女にふさわしい、紺の非常に高級そうな生地でできたドレスだ。
指先はばっちり、形が整えられている爪、ここ数年のはやりだと聞いている、緑のベルベットのリボンのついた、傷一つない靴。緑のリボンの裏地はピンク。あえて流行の真ん中をちょっと外しているのが、抜け感の演出だろう。
きっちりしている格好だが、こちらも遊び心の演出に間違いない、金のブレスレットに、彼女の名前である、非常に美しい百合のモチーフがあしらわれてある。
髪はわざとだろう、きっちり整えているが、うなじだけ乱れさせている。
だが、これはあざとい演出だ。乱れを演出して、隙を見せている演出だ、なかなかの高い腕前。
(天然モノなんて、そうはいないのよね)
ようするに、常識的な上品な恰好から、小物遣いから、外しから上手につくりこまれた隙から、全て計算ずくの完璧な装いなのだ。
上級者だ。ある意味一部の隙も、ありゃしないのだ。リリーの装いにはすべて理由と計算がある。
ミシェルも元の世界ではあざとい事を色々してきたので、この女の手の内がある程度わかるが、ここまで作りこんでいるのはなかなか立派だ。
人はみかけによらない、なんてこという人もいるが、そりゃ嘘だ。
装いは、装う人の中身の少なくとも半分は表す。
ほつれた服や、ボタンの飛んでいる服でも平気な人は、やはりガサツだし、安っぽい装いを好む人は、中身もそれなり、逆に高級品ばかりで身を固める人は、中身は非常に憶病だったりするものだ。
こういう隙にみせかけた演出までガッツリ手掛けるタイプは、どうだろう。
「私、時間を無駄にしたくないんです。どうして私に彼氏ができないのか、本当にわからなくて。美容にも装いにも気をつかっていますし、もうそこまで若くはありませんが、平均よりも美しい方だと思います。殿方を退屈させない会話もできますし、王都の流行も敏感に抑えています。という事は、結論から申し上げますと、出会いの場所を間違えているのではないか、という結論に行き着きました。今日はどこで出会えばよいのか、そこの所を具体的にご相談したく」
一気にまくしたてると、今度は完璧な作法で、紅茶をたしなんだ。
「す、すごく分析をされているのですね・・」
ものすごい、圧だ。ちょっとミシェルは引いてしまう。
「ええ、アランに出会いがあったのは、先生のおかげだと、アランは先生にとても感謝されていましたのよ。私、腕の悪い占い師にかかって、時間を無駄にしたくないんですの」
そして、本日二度目の「時間を無駄にしたくない」をのたまった。
「それで先生、どこにいけば彼氏に出会えるか、みてくださる?」




