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異世界占い師・ミシェルのよもやま話  作者: Moonshine
幕の内弁当

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1

このディーテ王国というのは、非常に気候がよい事で結構有名だとか。

四季に恵まれており、春が長く、天気も基本的に、晴れている。


雨が少ないらしいが、お隣の雨の多い国から流れてくる大きなアケロン川から水源をとっており、アケロン川は、信仰の対象ですらあるらしい。カロンの名前はその命の川の守り神からだという。


そういう訳で、農耕と観光が、この国の根幹産業である。


「ピクニックにいきたいのよ」


この国の春は、実に美しいとミシェルは思う。

聖女の庭までいかなくても、割とあちこちに立派な公園もあるし、今は、ライラックによく似た美しい薄紫の花を咲かせる果樹が花盛りなのだ。

そういうわけで、いい天気が続いていたし、今日はミシェルがお弁当を作って、みんなでピクニックに行くことにしたのだ。


日頃の行いの良し悪しはあまりこの国の天気には関係ないらしい。

美しい晴天の青空の下、行いの悪さには自信のあるミシェルと、ダンテ、それからこの子は大丈夫であろうカロンの3人は近くの公園の、薄紫の花の咲き誇る果樹の下の芝生で、ミシェル作のお弁当を開けて、大盛り上がり中なのだ。


いつも異世界のおいしいご飯を食べさせてもらっているが、たまには日本の文化・お弁当をこのカロンにみせてあげたいし、いつもムカつくがご飯だけは旨い、ダンテにもギャフン!といわせてやりたいミシェルは、とてもがんばったのだ。


「へえ!すごいよミシェル、ミシェルがこんなに料理が上手だなんて知らなかった!」


日本のお弁当風の卵焼きに、ウサギ型のリンゴ、ハムもバラの形にくるくる巻いてみたり、エビを揚げてみたり、ハンバーグ作ったりと、ミシェルが前の夜から色々仕込んだ大作だ。おかずの総数は相当だが、正直普通の弁当を、こうも両手離して喜ばれると、ちょっと照れるではないか。


予想以上のカロンの素直な反応に、ミシェルは超ご機嫌だ。

大人ぶっているけれど、カロンはまだ子供の域を脱していないから、可愛い弁当は絶対に喜ぶだろうと思っていた。


「ええ、私の国では、お昼のおかずをね、ぎっしりと隙間なく専用の箱に入れて、綺麗に詰めて、ピクニックにもっていくのよ。学び舎のお昼ごはんも、大体こんな感じのものの簡素なのを、朝作ってもっていくのよ」


「すごいな!もしミシェルがこんなお昼ご飯を毎日持たせてくれるなら、どれだけ学び舎にいくのが楽しみだろう」


ミシェルもこんな天使にだったら、毎日朝5時起きで唐揚げ弁当つくってあげようじゃないか。

もぐもぐと唐揚げをうれしそうにほおばるカロンは、本当にかわゆい。


この国のピクニック弁当は、バスケットに適当にサンドイッチを詰めるだけのスタイルだ。


別の入れ物にお菓子など入れて、ティーポットとティーカップも別に、大きな荷物をもっていくスタイルが一般らしいが、ミシェルは完全に弁当王国・日本風の弁当だ。ミシェルも別に料理は得意な方ではないが、人参を星の形にきったりするくらいはできる。


弁当箱みたいな専用のものはこの国には存在しないが、魔術で作動する、食品の保存箱を三つ重ねて、ぎっちりおかずを詰めて、作ったお重が、今この3人の前にある、立派な日本風弁当だというわけ。


「お前の世界の食文化は非常に興味深いな。この小さな箱の中に、まるで、一つの世界や人格があるようではないか」


いつも偉そうなダンテも、しげしげとタコ型に切ったソーセージを見て、手放しでほめてくれた。

この有能な男に、詩的な形容詞で己の弁当を褒められて、ミシェルも調子に乗る。


「そうでしょ。隙間なくぎっしり、小さい箱の中に、栄養といろんな味のバランスを考えながら、詰め込むのよ。高級幕ノ内なんかになると、美味しいだけじゃなくて。芸術品みたいに見た目も美しいのよ」


わたしみたいにね!とのたまったのだが、そこはダンテもカロンもスルーだ。


「マクノウチ?この箱の食事はそう呼ばれているのか?素晴らしい」


ダンテのお気に入りのオカズは、クマさん形に作ったハンバーグだというのがちょっと笑えた。

クマさんには、チーズで形を取った蝶ネクタイまでつけておいたのが、お気に召したらしい。


「本当に一つの世界みたいだね。でも、お弁当なら大歓迎だけど、こんなにぎっしり、いろんな美味しいもので、隙間がない人とかっていうのはちょっといやかもね。」


カロンがいたずらっぽく、そう肩をすくめた。


「そうよね、いいものがあんまりギッシリで、何も入り込む間のないタイプって、どうしてだか、本当に魅力的じゃないわよね」


「ああ、隙のある方が人間は好ましいな。なぜだろうな、マクノウチはぎっしりしていた方が魅力的なのに、人間は、隙だらけの人間の方が、魅力的に感じる。全く不思議な話だ」


そういって、今度はカニの形にきったソーセージを、ぽいっと口にいれた。

上手くソーセージが切れなくて、カニの足が半分とれてしまったヤツだ。ダンテは気にとめていない。



ミシェルは、つい先日の占いを思い出して、ちょっとため息をつく。



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