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「あら、そうなの、ミシェルさんはダンテの外国のお客様なのね」
タキコミゴハンのレシピは、ダンテの連れのミシェルからだと、ダンテが聖女様に説明をし、聖女様はミシェルに、実に気軽にそう声をかけた。
そしてこの心の綺麗な聖女様は、外国の珍しいタキコミゴハンをありがとう、とこの国の最高の位に君臨しているというはずの、この女性が、いとも簡単にペコリとミシェルに頭をさげるではないか。
なるほど、心が洗われるとはこのことだ。
ミシェルも嬉しくなってしまって、ついついタケノコゴハンだの、マメゴハンだの、いろんなタキコミの種類を教えてしまう。そばに仕える巫女達が、それらを手元に書きとめている。
エンの商売は、飛躍的に成功するだろう。
この聖女様の心には、悪意だとか、人を疑うとか、そういう負の概念が一切巣食っていないらしい。
そして、そういう心の持ち主のみが、この国の神の花嫁になれるとの事を、ここにくる前にダンテに教えてもらっていた。
完全に綺麗な心の持ち主の前では、やはり人間は、ほろり、と本音がでやすい。
(なるほどそういう事か)
なんだかミシェルにも、この国策としての聖女制の仕組みが理解できたような気がする。
ダンテとは古い知り合いらしく、和やかに二人は、二人にしかよくわからないような世間話で盛り上がっている様子だ。この失礼極まりない男も、さすがに聖女様の前ではとても礼儀正しく、またお互い気を許しあっている様子だ。
「それでミシェルさんは魔女の見習いで、今は占いを?外国で、ダンテの高名を聞きおよんで、是非その元で修行をと?まあ素敵!」
なんだか聞き捨てならない説明をこの聖女様とやらにダンテはしている様子だが、まあいい。
ダンテの言葉だと思うと全部が全部めちゃくちゃムカつくが、聖女様が口にした言葉は、なんだか受け入れてしまう気になるのだ。おそるべし聖女様だ。これが素直の力。
占いと聞いて、聖女様の周りの巫女達がキャッキャ盛り上がる。
どの国でも女は占いが大好きだ。聖女様もその例外ではないらしい。
キャッキャ巫女達と盛り上がっていた聖女様は、いい事おもいついたわ、とパン、と手をたたいて、目を輝かして、後ろに控える麗人に、振り返った。
「ねえミシェルさん、アランは今、婚活中なのよ。これも何かのご縁よ。アランのお相手を、占いでさがしてもらいましょう」
アランは、その美しい顔を赤くして、憤慨した。
「聖女様!私は一生騎士でおりますと、あれほど何度も申し上げました!」
そう慌てた。この男装の麗人は、独身主義者らしい。
「あら、アランが結婚しても、騎士を続けさせて下さる男性なんて、大勢いそうよ。ねえ、こんなに美しいのだものね。でもねミシェル、この子は本当に頑なで、ドレスも身にまとう事もないし、男性と二人で出かける事もないの。だからといって、女性を愛でるタイプの子でもないから、心配なのよ」
聖女様は眉をひそめた。
「このミシェルさんは、外国からのお方だというではないの。どんな秘密を話しても、大丈夫だと思うし、この国の事情は、あまりご存じないはずよ。お話を聞いていただきなさい。ダンテ様のお連れですもの、悪い事はないはずよ」
ミシェルは、あまりこの手の無邪気にお節介をやくタイプは好きではないのだが、このお方はさすが、聖女様だけある。何か、このアラン様をミシェルに託す事に、良い予感があっての事なのだろう。
後ろどころか、体中からきらきらと発光しているこの聖女様のご神託とあっては、アランも観念した様子で、それに本人も、何か懸念があったらしい。割と素直に腹をくくった。
「それではミシェルさん、お世話になります」
深く騎士の礼をしたその顔は、泣きそうなものだった。




