鍋の祭典 1
皆様お久しぶりです、ミシェルのお話の続きが読みたい!とのリクエストをちらほらいただいておりましたので、ようやく書籍が落ち着いた事もあってチラチラ不定期で更新をはじめますね。こんなの読みたいな、というのがあれば教えてくださいましー!
「絶対!行きたくないわ・・」
ミシェルは台所で駄々をこねる。
「お前イカロス様と約束した上に、今日はニーケの晴れ舞台だろう。お前は絶対!に!参加だ」
ピシャリと言い放つダンテはいつも以上に厳しい。
「大丈夫だよミシェル、この国の未婚女性は皆んな大体参加するから、君の鍋の数の事をそんなに注目してる人はいないと思うからさ」
カロンがそう慰めてくれるが、ミシェルの心は全く動かない。
そんなこんなで、本日は鍋の祭典である。
未婚女性が今まで関係した男の数だけ鍋を被って参加する例の祭りだ。
本当に冗談じゃない。
(正直な数をかぶってこの家でたら、バチが当たる前にナベの重みで首がおかしくなっちゃうわよ)
そんな事をこのかわゆいカロンの前で言えるわけもないが、ともかくきちんとした数の鍋をかぶっていかんかったら結構な神罰がおりるというではないか。
(きちんとした、ってどこのあたりからどこまでを数として集計したらいいのか、神罰あたえるとかいうくらいならその辺りきっちり教えてほしい所よね)
「おいミシェル、さっさとしろ!お前は市場でイカロス様のご家族と待ち合わせているんだろう、さっさと行かないとお待たせする事になるだろう」
「へーいへい」
そう、今日はダンテ達とミシェルは別行動だ。
カロンは新年に成人したので、いわゆる政務とやらがはじまったのだ。今日の鍋の祭典は、運営側っていう事だ。
お目付け役として、今日はカロンと一緒にダンテも聖女様のサポートに回るらしい。
次の世代の大神官ともなると、色々な仕事がこの若さから始まるらしく、最近は時々ピリっとした雰囲気でカロンが家に帰ってくるのが、元社畜・ミシェルにはなんとも心地良い。
そろそろカロンはミシェルの朝のパンのバターまで塗って面倒みている場合ではないような気がするが、本人がそれで良いというのでいいのだろう。
最近はめきめき背も伸びて、なんだか声まで低くなってきて、甥っ子あたりの成長を見ているようで、ミシェルはなんとなく感慨深い。
「おい、お前まさか何にも鍋を被って行かない気か?」
ローブをひっかぶってそろっと玄関を出るミシェルに、ダンテが声をかけた。
「この世界ではまだ誰ともそう言った意味では関係してないんだから、ゼロカウントでいいわよ。じゃあ行ってきます!」
「おい、ちょっと、こら。まて!」
ダンテの口うるさい声が後ろに聞こえてくる気がするが、とりあえず何も被らずに、可愛くないフードだけを頭からすっぽりかぶって館を出る事にした。
ここから市場は歩いてすぐだ。
どうせ市場でナベくらい売ってるだろうし、祭りの最中にあれやこれやがあった場合は新しいナベが必要になっちゃった女子もいるだろう。必要ならそこで買えばいい。
(でも、まったくかぶってないのもモテないみたいでいやだし、一つだけっていうのも、なんだか悲壮感があるし・・これは一体何個がこの世界の正解だ?ああ面倒くさい。)
考えながら歩いていると、頭にナベをいくつも乗っけた女子達がワラワラと市場に向かって歩いているのが見える。
それをニヤニヤしながら眺めている、スケベそうなボーイズ達もだ。
(へえ、どこでも男と女ってのは一緒よねえ)
なんとなく、王様ゲームで経験人数を質問してくるIT系の合コンの事を思い出しながらミシェルは市場までの道を歩いていた。
あいつらはどうしようもないが、どんな夜でも必ず誰かがコンパしているので、寂しくなるとついつい心当たりの連中に電話して時間をつぶしていた事を思い出す。
こんなしょうもない事で、久しぶりにちょっと元いた世界が懐かしくなってくるあたりの己のクオリティの低さにがっかりしていたそんな頃だ。
「やあ、ミシェルさんですね、おまたせしました。探しましたか?」
「まあ。ちっとも!まってなんかいませんわ、アポロン様!!」
6頭立ての見事な馬車がミシェルの前に停車して、ミシェルはITコンパの中でも、一番本気を出すシリコンバレー本社勤務の連中のコンパの際の、下45度上目遣いからの、見事な口角の上げっぷりを見せてふわさ!と髪をエレガントに後ろに流す技を披露して、挨拶を返した。
馬車の中からは、イカロスの若い頃そっくりの筋肉系のイケメンがあらわれたのだ。
間違いない。このイケメンはイカロスの四男・アポロンだ。
「さあ、狭い馬車ですが、どうぞ入ってください、母が待ちかねています」
アポロンはそう言ってニコリとほほ笑むと、ミシェルを見事な馬車の中にエスコートしてくれた。




