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長政記~戦国に転移し、家族のために歴史に抗う  作者: スタジオぞうさん
第一章 家督の継承と織田家との同盟

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七 評定③外交

1560(永禄3)年10月上旬 小谷城大広間 浅井新九郎

 最後に外交について、安養寺氏種から報告をしてもらう。

 「三郎左衛門尉、周辺諸国の動きはどうなっておる。」

 「はっ。まずは六角家ですが、先の負け戦で家中は混乱している様子。殿のおっしゃるとおり、いずれは立て直してくるでしょうが、義賢の能力に疑問を持つ家臣も増えている様子です。先代の定頼が優れていた分、それに比べれば頼りないという批判が生じやすいようです。」

 「うむ、ここは調略の好機だな。こちらに応じそうな者につなぎをつけられるか。」

 「既に犬上郡や愛知郡の国人、土豪には接触を始めております。

 「さすが三郎左衛門尉。手回しが良いな。」

 「恐れ入ります。次に朝倉家ですが、野良田の戦いに援軍を依頼していましたが、間に合いませんでした。国境の近くまで兵は出していたようですが。」

 「うむ、朝倉家との関係は良いままに保ちたい。だが、朝倉に頼り過ぎてはなるまい。今回の援軍が遅かったのもそうだが、もし間に合ったとしても、率いる武将は宗滴公ではない。浅井は自らの足で立たねばならない。」

 家中には宿老の清綱をはじめ、朝倉寄りの者が少なくない。織田と朝倉のどちらかとなったら織田を選べるようにしておきたいが、今はこれくらいにしておくしかないだろう。

 「次いで美濃の齋藤家ですが、当家とは縁戚でありながら疎遠になっていましたが、どうやら最近、六角と同盟したようです。」

 「何じゃと。間違いではないのか。」

 久政が叫んだ。齋藤義龍の正室は久政の養女である。養女といっても血はつながっており、祖父の娘、久政の妹である。この齋藤家との婚姻を久政は自らの功績としていた。しかし、実際には義龍は浅井家とは距離を置いていた。おそらく久政は戦に弱く、頼りにならないと思われたのだろう。

 「間違いございませぬ。齋藤家から六角家への書状を一つ手に入れることができました。このところ、 齋藤家と六角家との間では使者が多く行き来しているようです。それに齋藤家は国境くにざかいを固めております。当家に攻め込んでくることもありましょう。」

 久政はなお「そんなはずは」などとブツブツ言っているが、家臣たちも白けた目で見ている。

 「そうか。当家も国境を固めよう。ただし、こちらからは仕掛けないようにしてくれ。美濃は南の尾張に敵を抱えている。六角がどんな条件を提示したか分からないが、近江を本気で攻めることはないだろう。」

 確か義龍は来年あたりに病気で死ぬはずだ。齋藤家と戦うならそのときだ。

 しかし齋藤家が敵に回ったことで、不安そうな表情をうかべる家臣もいる。

 俺は家臣たちを見回すと、再び立ち上がった。

 「斎藤家が敵に回ったこと、凶報と思うか。否だ。六角家は単独では浅井家に当たれないと考えて齋藤家と結んだのだ。それだけ当家の力を評価しているのだ。このことは外交や調略には役に立つ。そうではないか、左衛門尉。」

 「殿のおっしゃるとおりでございます。」

 心配そうだった家臣たちから、「六角は我らに臆したか」、「齋藤は畏れるに足らず」などの声が出てきた。どうやら士気は下がらずに済んだようだ。

 「なに、斎藤がのこのこと近江に出てくれば、某が叩きのめしてくれましょう。」

 直経も自信ありそうな発言をしてくれた。樋口直房は青い顔をしている。なぜ堀家に城を任せないか理解しただろう。

 「それでは最後に尾張の織田家です。織田家は本年五月に海道一の弓取りと言われた今川義元を討ち取り、武名は上がっています。その後は何度か美濃に攻め入り、斎藤家と戦っている様子。野良田の勝利を知らせる使いを出した際、新九郎様のご指示により、当家との関係をどうするか探らせましたところ、誼を深めたいと思っているようでございました。」

 「それは重畳。兵法にも『遠きに交わり近きを攻む』という。美濃が敵に回った以上、その背後の尾張と組む意味はより大きくなった。」

 家臣たちを見回しながら話す。

「皆の武勇を俺は信じているが、六角と斎藤を相手にするのだ。味方が朝倉だけでは厳しいだろう。織田家とは同盟を組むことを考えたい。左衛門尉、その方向で当たってくれるか。」

 「はっ、承知仕りました。」

 家中から、信長はうつけ者という噂だとか、朝倉との同盟に響かないかという声が出るかと思ったが、出なかった。

 やはり齋藤家が敵に回ったことが大きいようだ。

 それに、俺がここまで何事でもないかのように安養寺氏種と外交の話をしていることに、唖然としている者もいるようだ。15歳のガキには外交は分からないと思っていたのだろう。しかし、外見と違って中身はおじさんだ。

 さらに、氏種は俺の指示で織田家との関係構築のために動いていたと明かした。敏い者はその意味に気付き、久政に断りなく俺が当家の外交を動かしていたことに驚いただろう。久政はまた昏い目をしている。

 ともあれ、評定で織田家と同盟する方向を確認したのは大きい。

 実際に同盟を組むとなれば、赤尾清綱あたりが朝倉家との関係を心配しそうだが、評定で決めたことに反対はしづらいだろう。


1560(永禄3)年10月中旬 尾張国清州城 お市

 桶狭間の勝利の後、なかなか美濃に進出できずに苛ついていた兄が珍しく上機嫌です。

 「何か良いことがあったのですか。」

 「おお、浅井家から使者が来てな。当家と誼を結ぶつもりがあるようだ。」

 浅井家といえば、この夏に六角家を破ったという話だった。当主の久政は戦が弱いが、嫡男の新九郎殿が指揮をとったと聞く。

 「それはようございました。義龍はなかなか手強い様子。背後を浅井が脅かしてくれれば、美濃攻略が容易になりましょう。」

 「はは、そなたは敏いな。その辺の家臣よりもよく分かっている。」

 兄は苦笑した。市が男ならば、と何度言われたか分からない。女は武将になれないのは口惜しいことです。

 「どうも浅井久政は形式的に家督を新九郎に譲り、実権を握り続けるつもりだったらしいが、評定で新九郎が久政を論破し、実権を握ったうえで竹生島に追放するらしい。戦上手なだけでなく、政もできると評判だ。当家との同盟も新九郎の発案らしい。」

 兄が私に向き直り、真剣な目をした。

 「市、ことによるとそなたには浅井に嫁いでもらうかもしれぬ。」

 「分かりました。お家のためになるのであれば。ただし、私はこんな大女ですが大丈夫でしょうか。」

 お市は戦国一の美女と言われるが、身長が約165㎝あったと伝わる。戦国時代の男性の平均身長が約157㎝と言われていることから、非常に大柄な女性だった。才色兼備といっても、自分より遥かに背の高い女性との結婚は避ける武将も多かったかもしれない。

 「はは、それは心配いらぬ。浅井新九郎は身の丈六尺(約182㎝)の大男だそうだ。そなたくらいの背がなければ釣り合わぬだろうよ。」

 「まあ、そうでしたか。」

 私よりも6寸(約18㎝)近く背が高いとは、驚きました。六角との戦では先頭を切って突撃したと聞きますし、実の父を追放するとは、猛々しい男なのでしょうか。

そのような男に嫁ぐとなれば怖い思いをするかもしれません。

 しかし、武将の家に生まれた女は結婚相手を選べません。私は家中では並みの男より武芸に優れると言われています。相手が荒々しい大男でも負けません。


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