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長政記~戦国に転移し、家族のために歴史に抗う  作者: スタジオぞうさん
第三章 京の争乱

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五十九 美濃攻略

1566(永禄9)年10月 美濃国関ヶ原周辺 お市

 殿が兄上と一緒に美濃を攻めます。

 私は浅井家の一員として生きる覚悟は決めていますが、織田の姫だった者として、両家が協力して美濃を攻めることは非常に嬉しく、感慨があります。

 美濃を攻める軍の編成に当たり、殿に頼み、出陣させてもらいました。

 兄上は木下藤吉郎や滝川一益など出自の分からない者でも能力があれば登用して力を発揮させ、織田の力としています。

 それに対して、浅井は女たちが力を発揮しています。

 義姉の実宰院様の武勇は周辺の国に知られるようになっていますし、弓削梓殿の弓の腕も知られるようになってきました。

 諸国の商人の間では、清水山の浅井の姫を知らない者などいないと言われるくらいのようです。

 因習を打ち破ってきた兄上なら、きっと女性の活躍に興味を持っていると思います。

 女性兵の多くは警備隊に所属して領内の治安を守っていますが、私の近くで護衛を務めてくれる女性兵たちは、私が出陣するときは浅井領の外でも付いてきてくれます。最近加わった若宮まつは今回が初陣です。

 浅井では女たちの活躍に加えて、増田長盛や田中吉政など出自のよく分からない者も取り立てていますから、能力があれば活躍できるという点では織田に勝っているかもしれません。


 近江を出て美濃に入り、関ヶ原に差し掛かりました。

 尾張から近江に嫁ぐためにここを通ったのは五年前です。

 殿が馬を寄せてきました。

 「お市、ここに来るのは5年ぶりになるな。」

 「ええ、久しぶりですが、あのときのことは忘れはしません。」

 斎藤家の忍びに襲撃され、侍女たちを見捨てなければならないかもしれない、あるいは自分の命も危うかったあのときのことを思えば、大軍の真ん中にいる今回の出陣は隔世の感があります。

 あのとき私たちを襲った美濃衆は今では浅井家に仕え、甲賀衆や伊賀衆と共に周辺の警戒をしています。

 この5年、思えばいろいろなことがありましたが、子どもを授かり、殿の正体を知って深い信頼関係を築きました。

 浅井家は隆盛ですし、私は幸せ者です。

 

美濃国稲葉山城周辺 浅井長政

 義兄上が小牧山城を出て南から稲葉山城に向かい、俺は西美濃三人衆の軍勢も加えて西から稲葉山城に迫った。

 稲刈りの時期でもあり、組織的な抵抗はなかった。

 抵抗するどころか、織田や浅井に降ってくる国人や地侍も少なくない。織田と浅井に挟撃されることで稲葉山を見限ったのかもしれない。

 織田軍は約1万8千、浅井軍は西美濃衆の6千人を加えて約1万6千、さらに降ってきた美濃の国人たちが5千くらい加わり、4万近い軍勢で稲葉山を包囲した。

 実を言えば、浅井はもっと兵を出せたが、義兄上の面子を立てるために控えめにした。それでも十分勝てるだろうと半兵衛も言ってくれた。

 東美濃の遠山七頭も、織田と浅井の勢いが上だとみて、織田に臣従するという使者を送ってきた。

 包囲して数日後、龍興から降伏の使者が来た。


美濃国稲葉山城 織田信長

 なかなか攻略できずにいた稲葉山城が、あっさり陥落した。

 市が嫁いでから5年になる。もっと早く浅井の手を借りた方が良かったのかもしれぬ。

 美濃攻めには苦労したが、浅井と東西から攻めることで、こんなに容易に攻略できるとはな。

 西美濃三人衆が義弟に降ったことで西美濃は浅井領になったが、中美濃、北美濃、東美濃が手に入った。

 稲葉山城で浅井長政とお市に会った。

 初めて会う義弟は噂に聞いていたとおりの大男で、武勇の達人特有の雰囲気をまとっていた。

 だが、優しい目をしていた。

 「義兄上、お初にお目にかかります。浅井新九郎長政と申します。」

 「お初にお目にかかる。織田三郎信長だ。」

 「兄上、お久しぶりです。」

 新九郎殿は甲冑姿の市を連れていた。

 「浅井では女も戦うというのは本当のようだな。」

 「ええ、兄上。義姉上あねうえの実宰院様の武勇はご存知でしょう。それに戦いは戦場だけではありません。清水山城代の従妹殿は商いを盛んにすることで浅井家を支えています。」

 ああ、浅井の女弁慶は諸国でも有名だな。

 それに女宰相と呼ばれる清水山城の浅井松千代殿か。浅井の水運を差配し、商人たちとの交渉で辣腕を発揮し、最近は街道の整備も仕切っていると聞く。

 浅井は文武に女性が活躍する家なのだな。

 「浅井の女弁慶殿や清水山の女宰相殿の活躍は儂も聞いておる。儂は木下藤吉郎や滝川彦右衛門など、才ある者は身分を問わず登用しているが、新九郎殿は女を登用するようだな。

 面白い。身分の高い男が真に優れているのなら、このように世が乱れるはずがない。身分のない者や女が活躍してこそ、新しき世が来るのかもしれぬな。」

 「俺は出自を自慢し、努力もせず威張る者どもは嫌いです。能力のある者が、身分や性別を問わず活躍した方が、良い世の中になると思っています。」

 「であるか。この古き世は才ある者が変えていくべきだ。だが、一族や譜代の老人に恨まれなかったか。」

 「恨まれましたよ。俺は父を隠居させたこともあって、譜代の家臣が他家と通じて謀反を起こそうとしたことがあります。」

 「はは、儂など一族の者との争いの連続だ。新たなことを為そうとすれば、反発する輩は現れる。それでも、この乱世はどうにかせねばなるまい。」

 儂は義弟と妹を真っ直ぐ見た。

 「日の本は長く戦乱が続き、民は苦しみ続けている。新九郎殿、市。儂はこの乱世を終わらせ、平和な世にしたい。共に手を携えて新たな世を築こう。」

 二人とも笑顔で頷いてくれた。

 織田と浅井は、人材の登用だけではなく、商業を重視することも似ておる。

 美濃を得たことで、織田と浅井の領土は日本海から伊勢湾までつながった。関所をなくし、座の既得権益を弱めている両家の領土が接することで、商いはさらに活発になるだろう。

 義弟は自分だけで義秋様を奉じて上洛するつもりはないようだ。野心の少ない男のように思える。

 此度の美濃攻めにしても、北美濃は浅井領にせねばならぬかと思っておったが、西美濃だけで十分と言ってきた。

 この乱世の大名としては変わっておる。

 だが、そのおかげで、一族と戦い続けてきた儂も義弟とは戦わずに済みそうだ。

 南近江の六角は既に義弟が滅ぼしており、東の徳川と武田とは婚姻同盟を結んだ。

 これで儂の上洛を阻む者はいなくなった。

 京に上り、織田と浅井で天下を平定してみせよう。

新作を投稿しました。「天職(Calling)~僕の天職は異世界の博多にあるようです」(https://book1.adouzi.eu.org/n0435gw/)というタイトルです。タイトルからご想像のとおり、長政記とはだいぶ雰囲気が異なり、日本文化の色濃く残る異世界の日常生活を中心に描いています。着物など伝統文化に詳しい知人に協力してもらって書いているので、ペンネームも違うものにしています。もし良かったら、ご一読して頂けると幸甚です。

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