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長政記~戦国に転移し、家族のために歴史に抗う  作者: スタジオぞうさん
第三章 京の争乱

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幕間 長政の背中を守る者

1566(永禄9)年10月 近江国長浜城 赤尾美作守清綱

 殿が美濃に出陣されることとなった。

 そのことが家中に触れられると、怪しい動きをする者も出てきたと橘内殿から知らせがあったので、監視を続けるように伝えておいた。

 そして殿が出陣された数日後、決定的な動きがあったと報告があり、その者を捕らえることにした。

 「美作守、儂を捕らえるとはどういうことじゃ。浅井一族の儂に家臣のそなたが手を出すとは、謀反でもする気か。」

 儂の目の前におるのは、浅井一族の一人である浅井七郎井規殿じゃ。

 浅井一族であることを誇りに思う気持ちが強く、そこまでの能力はないが先代の久政殿は重用されておった。

 だが殿は能力主義じゃ。このところ大きな役目は与えられていない。

 そのことが不満であったのだろうが。

 「謀反を考えておられるのは七郎殿でござろう。朝倉家と結び、先代の久政殿を当主に復帰させようという企みは、露見しているのでござる。

 儂は殿から刑部奉行を仰せつかっており、領内の罪を裁くことを任されておる。たとえ浅井一族であろうとも、謀反の動きは見逃せぬ。」

 儂は浅井七郎殿から朝倉義景に宛てた手紙を見せた。

 「ぐっ、なぜそれをそなたが。ええい、これも浅井家を思えばこそじゃ。今の殿は本当の新九郎殿ではない。殿は野良田の戦いの後で別人のようになられた。儂のような一族の者を蔑ろにし、女子おなごを武将にし、卑しい忍びや、出自のわからぬ者を取り立てるとは、狐にでも憑かれたのじゃ。」

 いつかはこういう者が現れると思っておったが、浅井一族の中から出たか。

 「殿が家督を継いでから、六角を討って近江を統一され、伊賀と若狭を支配下に置かれた。浅井家が興隆しておるのは明らか。殿は確かに別人のようにおなりになったが、野良田の戦で深手を負われ、死に瀕したときに弁財天様にお会いになり、その御使いとして蘇られたのじゃ。」

 「そのような話を信じられるものか。そなたらは訳の分からない化け物の家臣をしていて平気なのか。」

 「敵を討ち、領土を広げ、民を豊かにする善政を行っておられる殿が化け物などであろうはずがない。殿をそしるのは、おそらく祖父の浅井井演殿が横山城主になれなかったことの不満が理由であろう。朝倉と組んで謀反を起こそうとするなど、たとえ浅井一族であっても許すことはできぬ。連れて行け。」

 まだ何か喚いている井規殿を警備兵が連れて行く。


 以前に左衛門が儂を試したのは、あるいは浅井一族の中に不満を募らせる者がいることに気付いていたからかもしれぬ。

 殿は一族であっても、あるいは譜代の家臣であっても、能力がなければ重用しない。

 逆に能力があると認めれば女性でも新参者でも重用する。

 そのことに不満を持ち、久政殿の代を懐かしむ者もおる。これだけ浅井のお家が栄えておるのに、自らの利得ばかり考える輩がおるのは、真に残念なことじゃ。

 このような者が現れるのを危惧したこともあって、儂と左衛門は、殿とお方様が弁財天様の御使いだという噂を流した。

 殿が別人のようになったと言う者がおっても、それは神様の御使いになられたからだと思わせるためじゃ。

 幸い、噂を信じる者は増えておる。

 殿は良い政をされ、国を富ませておられるからの。

 お方様の人並み外れた美貌も噂の信憑性を高めておる。

 浅井七郎殿のような、ただ血筋を自慢する者が殿を非難しても、同調する者はそうそうおらぬ。

 殿は浅井を繁栄に導いてくださる。

 その邪魔をしようとする者は儂や左衛門が排除し、殿の背中を守っていきたいと考えておる。

新作を投稿しました。「天職(Calling)~僕の天職は異世界の博多にあるようです」(https://book1.adouzi.eu.org/n0435gw/)というタイトルです。タイトルからご想像のとおり、長政記とはだいぶ雰囲気が異なり、日本文化の色濃く残る異世界の日常生活を中心に描いています。着物など伝統文化に詳しい知人に協力してもらって書いているので、ペンネームも違うものにしています。もし良かったら、ご一読して頂けると幸甚です。

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