表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
長政記~戦国に転移し、家族のために歴史に抗う  作者: スタジオぞうさん
第一章 家督の継承と織田家との同盟

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

6/93

五 評定①久政との対決

近江国小谷城下 遠藤屋敷 遠藤直経

 野良田の戦いから、若様は変わられた。

 もともと大器であると信じておったが、一気に花開いたようだ。戦だけではなく緻密に政や謀もお考えになる。これなら浅井家は六角家にも他の家にも後れを取りはせぬ。お方様を人質に取られ、六角に主人面をされた屈辱の日々も終わる。

 今度の評定が楽しみだ。いくら久政様は腹芸が得意といっても、ここまで家中で根回しが済んでいては、何もできまい。


 近江国小谷城 本丸 浅井久政

 そろそろ評定か。あれから家臣たちに会って根回しをしたが、どうも芳しくない。

 新九郎は確かに戦に勝ったが、若さに任せた勢いがたまたま上手く行ったのではないか。

 儂は六角の圧迫を耐えながら、内政を充実させて力を溜めてきた。大体、野良田の戦で兵を揃えることができたのは儂のお陰だと、何故皆の者は気づかぬ。

 こうなれば家督を新九郎に譲り、戦は新九郎、政は儂ということにして実権を握ることにするしかないかもしれん。


 近江国小谷城 本丸 大広間 浅井新九郎

 いよいよ評定の日が来た。前線の佐和山城を守っている武将たちも来ている。

 「皆の者、よく集まってくれた。これから評定を行う。」

 上座に座る久政が評定の開始を宣言した。

 当主だから当然ではあるが、主導権を握らせるのはよくない。俺も発言しよう。

 「評定に入る前に、まずは皆に感謝を述べたい。野良田の戦いでは我らの倍の兵を集めた六角家に勝利することができた。これも皆が心を一つに戦ってくれたお陰だ。」

 誰が戦場で戦い、誰が後方の城にいたか忘れるなよ、という趣旨だ。

 「戦に勝ったのは若様のお陰でございます。」

 「六角に一泡吹かせ、某はうれしゅうござった。」

 家臣たちが口々に話し始め、騒がしくなった。

 「皆の者、鎮まるように。」

 清綱が皆を止めた。

 そして俺の方を見て言った。

 「若様、失礼致しました。皆、嬉しかったのです。場をわきまえず話を始めたこと、お許しください。」

 「いや、皆の熱意を感じて嬉しかった。謝る必要などない。」

 清綱に目礼してから、苦虫を噛み潰している久政のことは無視して家臣たちに言葉をかけた。

 評定では、まず領地の様々なことの報告がなされた。

 日常的な領内の報告が一段落したところで、俺から切り出した。

 「父上、今後の浅井家のことについて、そろそろ話をしてはいかがでしょう。まずは家臣たちの意見を聞いてみたいと思います。」

 「いや、儂から提案がある。長政、先の戦の指揮は見事であった。家臣たちがそちを慕ってくれていることも、今日の評定でよく分かった。そこで、家督を譲りたいと思う。」

 家臣たちの総意として宿老の赤尾から家督継承を切り出してもらう手筈だったが、久政から隠居を申し出てきたか。

 「父上、家督を継ぐこと、承りました。この浅井新九郎、浅学非才の身ながら浅井家のために微力を尽くしまする。」

 久政に一礼をして、家臣たちの方を振り向いた。

 「皆の者、これから宜しく頼む。」

 家臣たちから歓声が上がった。

 「うむ、家臣たちも意気が上がり、結構だ。ところで、家督を新九郎に任せる以上、戦のことは儂はもう何も言わぬ。戦上手のお前のやりたいようにやるが良い。ただ儂もまだ老け込む年でもない。政は経験が必要だから、まだ儂がお家のために貢献できる。」

 なるほど、そう来たか。自分から家督を譲ると言っておいて、内政は引き続き自分が仕切るつもりか。だが、それでは家督を継ぐといっても形だけになる。

 ここが勝負所と思い、俺は立ち上がった。長政は身の丈6尺(約182㎝)だったと伝わる。実際には少し話が盛られていて178㎝くらいだった。それでも当時の男性の平均身長は157cmくらいなので、まさに巨人のような印象になる。

 「いや、父上の気遣いはありがたいが、家督を継ぐ以上、政から逃げるわけにはいかぬ。この新九郎は未熟かもしれないが、ここには祖父の代から支えてくれる頼もしい家臣たちがいる。」

 家臣たちから、「お任せあれ」とか「新九郎様をお支えしますぞ」などの声が上がる。

 家臣たちに手を挙げて応えてから、久政に向き直る。

「父上、ご安心して隠居なされませ。家臣たちに支えてもらい、政も某が担います。そうだ、冬の小谷城は寒い。お体に障ってもいけませんから、暖かい竹生島に館を用意いたしましょう。」

 家臣たちから「良き思案じゃ」とか「新九郎様はお優しい」などの声が上がる。ここまで俺の発言をサポートしてもらえるとは望外だ。根回しの甲斐もあったが、久政の人望の無さでもあるだろう。

 「そうか、それではそなたの言葉に甘えて、竹生島で隠居させてもらおう。」

 久政は昏い目で俺を見ながら、絞り出すように言った。

 久政は恨んでいるだろうな。だが、長政の記憶には、六角家に人質に出されて苦労して泣いている母の姿が焼き付いていた。家族を駒としか見てこなかった報いだ。お前に恨む資格などないと思う。

 「お任せあれ、父上。浅井家の家運を切り拓いてみせましょう。」

 俺が宣言すると、再び家臣たちがおおっと盛り上がる。

 「善は急げと申します。早速、竹生島に屋敷を作ります。こんなこともあろうかと職人は確保しております。賊の侵入など許さぬよう、警護もしっかり致しましょう。私の近習から信頼できる者をお付けしますので、ご安心ください。」

 屋敷ができるまでずるずる居座られては困るし、警護というか監視は信頼できる者にしか任せられない。実は屋敷の縄張りはもう済ませてある。

 俺を戦に強いだけだと侮っていた久政は、事前に準備がなされていて、話がどんどん進むことに驚いたようだ。

 謀将の宮部や油断ならない阿閉も、少し目つきが変わったような気がする。

 外見は一五歳でも、中身はおっさんだからな。舐めてもらっては困る。




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ