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長政記~戦国に転移し、家族のために歴史に抗う  作者: スタジオぞうさん
第三章 京の争乱

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四十九 京の不穏な動き

1565(永禄8)年4月 近江国長浜城 浅井長政

 橘内が急ぎの報告があると言って、長浜城にやって来た。

 「大将、忙しいところ時間をとってもらって済まない。」

 「よく来たな、橘内。謝る必要などない。橘内の急ぎの報告なら、他のどんな用事よりも優先するさ。それで、何があった?」

 「どうも三好の動きがきな臭い。丹波に出兵するといって、京を通過する予定だと言っているが、阿波にいる手の者によれば、将軍に言うことを聞かせるために出兵すると話した者がいるらしい。」

 阿波にも橘内の手は及んでいる。甲賀と伊賀が浅井の影響下に入ったことで、橘内が動かせる忍びの人数は大きく増えた。

 最近は近江の周辺国だけではなく、中国や四国、東国の情報も入ってくる。橘内の率いる忍び集団は他の大名家の忍びを圧倒していると思う。

 案件ごとに臨時雇いをするだけでなく、浅井家に仕えてくれる忍びも増えた。橘内にリクルートしてもらった結果、甲賀五十三家の筆頭格である望月家からも仕官してくれた。望月家は、橘内の活躍で甲賀の旗頭が山中家になったので、一族の者を浅井に仕官させて巻き返そうと思っている節がある。

 浅井の忍びのトップは橘内以外に考えられないが、健全な競争意識は歓迎だ。伊賀でも上忍の藤林家と百地家が、一族の者の浅井への仕官を考えてくれているようだ。


 橘内によれば、将軍がどうしても言うことをきかないなら、義栄よしひでを将軍に立てればいいという声も三好家の中にあるらしい。足利義栄の父は第12代将軍義晴の弟だ。阿波の平島に居を構えていて、三好家の庇護のもとにある。

 「そうか、三好家は将軍の義輝殿とは対立しているからな。三好長慶が亡くなってから、将軍は諸国の大名に三好を討つように文を出している。兵を集めて将軍に圧力をかけるのかもしれんな。」

 「ああ、そうなるかもしれない。それも御所巻ごしょまきで終われば良いが、何かのはずみで、それ以上のことになるかもしれん。」

 さすが橘内だな。永禄の変が起きることを予期している。

 御所巻というのは、室町幕府の大名たちが将軍のいる御所を取り巻いて要求を突きつけることだ。現代風にいえば武装デモになるかな。

 だが永禄の変は、三好家が一万の兵で義輝のいる二条御所を囲み、御所巻で終わらずに攻め入って義輝を討ってしまう事件だ。最初から討つ気だったのか、偶発的に戦闘が始まってしまったのかは諸説あるようだ。

 永禄の変の後で三好家は足利義栄を将軍に立てるが、実権は三好三人衆が握り、義継は松永久秀と組んで三人衆と戦うことになる。

 三好義継にとって、将軍を殺したことで得たものは悪名だけだ。

 そして将軍足利義栄が亡くなった後は、しばらく将軍位は空位になるが、義輝の弟である義昭が信長に擁立されて将軍となる。

 だが、よく知られているように義昭は信長と対立して各地の大名に信長を討つように働きかけ、信長包囲網が築かれる。

 もちろん俺は信長包囲網には加わらないが、そもそも義昭は将軍にならないほうが良いんじゃないかと思う。

 三好の新当主に将軍殺しの汚名を着せないためにも、義輝の暗殺は防ぎたい。


 最近、湖北十ケ寺と交渉して、不輸の権をなくして浅井に税を納めれば、新しい農業も導入できるし、関所もなくせるから物価は安くなって民は豊かになる。そして不入の権をなくせば浅井の警備兵が守ることもできるからと説得して、不輸・不入の権を返上してもらった。

 これでますます一向一揆の起きる可能性は減ったと、交渉役に加えた本多正信も喜んでいたな。交渉がまとまったのは、門徒の実情を良く知る正信がうまく説得してくれたことも大きい。

 不輸・不入の権を持つ寺社領が領内に多いと統治はしづらい。だが三河のように力づくで臨んで一揆を誘発するのは避けたい。今回のように、寺社を説得できれば一番良いと思っている。

 ここまで歴史を大きく変えてきたが、大体上手くいっている。

 これからも、自分の願う方向に歴史を変えていけるんじゃないかと思った。


 「橘内、義輝様に三好の軍勢は御所巻きで終わらないかもしれないと警告したいが、書状を届けることはできるか。できれば将軍の取り巻きじゃなく将軍本人の手に渡るようにしてもらえるといいんだが。」

 「二条御所の使用人には手の者を入れている。何とかやってみよう。」

 「いつも無理を言ってすまん。よろしく頼む。」

 歴史では、三好が襲ってくる前日に義輝は御所から逃げようとして、幕臣たちに将軍家の権威が下がると止められ、御所に戻ったと伝わる。

 つまり誰かが義輝に危ないぞと警告している。

 それに加えて俺が警告すれば、逃げてくれないかな。書状には、もし近江にお越し頂ければ浅井の総力を挙げてお守りするとも書いておこう。

 「そうか。今や将軍家の一番大きな後ろ盾は大将だから、効果はあるだろう。」

 六角亡き今、河内の畠山はいるものの、若狭の武田は内部分裂で弱体化しているし、足利家を支える勢力で一番大きいのは浅井になっている。

 「橘内、俺は三好重存にも手紙を出すつもりだ。三好の代替わりに乗じて将軍が親政を行おうとして、三好家には不満もあるかもしれないが、自重してほしいと書くつもりだ。」

 浅井の影響力を使って、何とか畿内を安定させたいものだ。


 このときの俺は、いろいろ上手くいっているから大丈夫だと思い込んでいた。



ネット小説大賞9に応募させて頂きます。また、この機に、閉じていた感想欄を再開します。何しろ未熟ですので、先の展開についてコメントを頂いたりすると書きにくくなるので閉じていましたが、ネット小説大賞は読者の方も感想をつけることなどで参加するイベントのようなので、感想欄を開くことにしました。よろしくお願い致します。

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