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長政記~戦国に転移し、家族のために歴史に抗う  作者: スタジオぞうさん
第三章 京の争乱

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四十七 三好の蠢動と軍師の来訪

1565(永禄8)年3月 摂津国芥川山城 三好長逸

 「二人とも、よう来てくれたな。」

 今日は三好政康、岩成友通の二人に芥川山城に来てもらった。

 長慶様が亡くなり、若い重存が後継ぎとなったが、何分にも経験不足は否めない。三好家を動かしているのは、我らと松永久秀だ。

 久秀は優秀ではあるが、三好家の舵取りをするのは三好一族である我らであるべきだ。

 「わざわざ来てもらったのは、足利将軍家のことよ。二人とも知ってのとおり、将軍義輝はこのところ、各地の大名家に活発に文を出しておる。長慶様亡き後、我ら三好の力が落ちたとみて、地方の大名を上洛させ、畿内から三好を追い出そうとしているのじゃろう。」

 「長慶様は三好を目の敵にしてきた義輝を京から追放なされたが、それでも和睦して京に戻された。なお我らと敵対するとは、将軍はそこまで三好家が憎いか。」

 「まこと、各地の大名に将軍が三好を討てと働きかけても、長慶様はいちいち取り合わずにいたものを。義輝は、京で将軍としていられるのは長慶様の寛容さのお陰だとわかっておらぬ。」

 三好政康も岩成友通も将軍義輝に憤っている。

 「そのとおりじゃ。このあたりで一度、三好家の力が衰えていないことを義輝にわからせる必要があるのではなかろうか。」

 二人も頷いた。

 三好が今も大軍を集められることを将軍義輝に見せつけてやろう。


近江国長浜城 浅井長政

 「お初にお目にかかります。」

 長浜城に来客があった。女性のような容貌と伝わる武将だが、確かに歌舞伎の女形のような儚げな雰囲気がある。

 一方、切れ長の目の奥は底知れず、何を考えているのか分からない。

 三好義継が来たと思ったら、また別の有名人の来訪だ。

 「某は竹中半兵衛重治と申します。」

 来客は、戦国時代を代表する天才軍師で、黒田官兵衛と共に両兵衛とも称される竹中半兵衛だった。

 「お初にお目にかかる。浅井新九郎長政と申す。今孔明とも称される竹中半兵衛殿にお会いできるのは嬉しい限りだ。」

 「皆は大袈裟に言いすぎなのです。稲葉山を乗っ取れたのは龍興殿に油断があったからです。」

 「竹中殿の業績はそれだけではありますまい。新加納の戦いで兵数に勝る織田家を撃退したのも素晴らしかった。ああ、織田家は同盟国なので、この発言は内密に願いたい。」

 「浅井殿は美濃の情勢にお詳しいようですね。もちろんご発言は他言致しませんよ。」

 半兵衛はくすっと笑った。鬼謀百出きぼうひゃくしゅつの恐ろしい人物だと思っていたが、こんな優しい笑顔をするんだなと意外に思った。 

 「稲葉山城を龍興殿にお返しした後は隠棲しているつもりでしたが、舅殿に勧められ、しばらく近江に置いて頂けないかと思い、お伺いした次第です。勝手なお願いで大変恐縮でございます。私は浅井殿の同盟相手の織田家に恨まれているでしょうから、なるべく目立たないように過ごすつもりです。」

 斎藤家とは対立しているものの、お市を迎えるときに連絡を取ってから、安藤守就とは連絡をとりあっている。今回、安藤殿から娘婿の半兵衛を客将として置いてほしいという依頼があった。

 実は歴史でも、斎藤家が滅んだ後に竹中半兵衛は浅井家の客将となったようだ。だが一年で美濃に戻り、姉川の戦いでは織田方の武将として浅井と戦っている。

 「しばらくと言わず、いつまでもいて頂ければありがたい。いや、正直に申せば、ぜひ浅井の軍師になって頂きたい。この通りだ。」

 俺は頭を下げた。


竹中半兵衛

 困ったことになった。大名家の当主が頭を下げるとは。

 城を乗っ取ったので目立ち過ぎたから近江にしばらくいた方が良いと舅殿に勧められたのだが、ほとぼりが冷めたら美濃に戻るつもりだ。

 「どうぞ頭をお上げください。私のような一介の武将に大国近江の大名が頭を下げられては困ります。」

 「いや、一介の武将などではない。天下に冠たる名軍師だ。浅井には軍師がいないことは弱点だと俺は思っている。もし力を貸して頂けるなら、この頭など、いくらでも下げよう。」

 「買いかぶりです。私には浅井殿のような武勇はありません。それに浅井家には遠藤殿や磯野殿など勇猛な武将がおられるではありませんか。」   

 私は病気がちで女のような容貌なので、齋藤家では蔑まれていた。特に齋藤飛騨守には会うたびにしつこく絡まれた。体格に恵まれ、武勇に優れる浅井殿が私を本当に必要とするとは、にわかには信じがたい。

 「いや、確かに当家には勇猛な忠義の家臣はいる。彼らは浅井家の宝だ。しかし、知謀は武勇に勝ると思う。孫子も戦わずして勝つことが最善だと言っている。」

 これは驚いた。武勇に優れた浅井殿が戦いよりも知謀を評価するとは。

 野良田の戦いでは倍の敵を破り、その武勇は周辺国にも鳴り響いているのに。

 「俺は戦で家臣を死なせたくない。野良田の戦いは止むを得ず小数の味方で敵に挑んだが、本当は兵の数で上回る戦いしかしたくない。卑怯と言われようと鉄砲の数も増やしている。鉄砲を買い、兵の装備をよくするためにも商業に力を入れているつもりだ」

 「武勇で名高い浅井殿がそのように考えておられるとは驚きました。」

 浅井殿が兵を思う優しさを持っているなら、踏み込んで聞いてみたい。

 「一つお教え頂いて良いでしょうか。浅井殿は何のために戦っておられるのでしょう。お家のためでしょうか?名誉のためでしょうか?」

 「俺が戦うのは、家族や民を守るためだ。だが、本当に国を守ろうと思えば、他国を呑み込んで大きくなる必要もある。自国の民を守るために他国の民を不幸にするのはどうかと思うが。だから、せめてものこととして、俺の軍では略奪を禁じている。

 長く続く乱世で多くの者が命をなくし、大切なものを奪われてきた。できうるなら、少しでも早く乱世を終わらせ、平和な世にしたい。俺は自分が天下人になれなくても良い。早く天下が統一されることこそ重要だ。誰かが天下を統一できるなら、それを助けたい。」

 これは本当に驚いた。権力のためでも名誉のためでもなく、平和な世のために戦うとは。

 この荒んだ乱世にも、私と同じく平和を願う武将がいたとは。

 「浅井殿のお考えは分かりました。私のような者を高く評価して頂けるのもありがたく思います。ですが、しばらく考えさせて頂いて良いでしょうか。」

 「もちろんだ。あなたほどの人物に簡単に仕えてもらえるとは思っていない。浅井の領内を見ながら考えてくれれば良い。」

 浅井殿はにっと笑った。

 何と、即答しないと言って怒るどころか笑ってくださるとは。

 これは参ったな。

近江を統一する部分を書き終わり、次の章に入りました。

なかなか思うように書き進められないのですが、どうにか書き続けているのは、読者の皆様のおかげです。

ブックマークや評価ポイントを下さる方には、改めて御礼を申し上げます。

また誤字脱字をチェックして下さる方にも、感謝を申し上げます。

引き続き、宜しくお願い致します。


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