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長政記~戦国に転移し、家族のために歴史に抗う  作者: スタジオぞうさん
第二章 近江の統一

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四十二 朝廷と将軍家からの使者

1564(永禄7)年5月 近江国小谷城 浅井長政 

 朝廷の使者として、山科言継卿が小谷城に来られた。

 使者が来られるとは思っていなかったので、皆が慌てた。

 山科卿の話では、どうやら朝廷から官位を頂けるらしい。

事前に頼んだわけではなかったので驚いたが、これまで見返りを求めずに朝廷に金品を献上してきたことに正親町天皇が好感を持たれ、近江を統一した機にと、朝廷の判断で官位をくださるらしい。

 官位があると外交や調略にプラスになるし、家臣によっては忠誠心が上がるので、大変ありがたい。

 叙任される官位は従六位上の左近将監だった。

 高い官位ではないが、最初の官位だから不満はない。

 近江の支配者なら近江守を欲しいところだが、国の大きさによって官位の高さが違い、近江は大国だから、近江守は難しいだろうと思う。

 ところが山科卿によれば、半年後くらいに従五位上の近江守を頂けるらしい。

 望外のことに驚くばかりだ。

 近江は京の隣で重要な土地というだけではないだろう。

 畿内は争いが続いている。まずは近江を安定させ、いずれは畿内が平穏になるよう努力するように、ということだろうか。 

 外交を担当している安養寺氏種は感激して目を潤ませている。

 これまで弱小の浅井家の外交官として苦労が多かったのだろう。これからは、少しは強い立場で交渉させてやりたい。

 最近、氏種と共に外交を担当している進藤賢盛も目を輝かせている。

 うちは田舎大名だから有職故実ゆうそくこじつが分かる者はろくにいない。活躍を期待している。


 外交といえば、将軍家からも使いが来た。

 近江守護に任じてくれるとのことで、こちらもありがたくお受けした。

 使者は明智十兵衛光秀と名乗った。

 これが本能寺の変を起こす光秀かと思うと、少し緊張した。俺は何とか本能寺の変は止めたいと思っている。

 だが実際に会ってみると、予想通り切れ者という印象はあったが、誠実そうな人だった。主君を裏切りそうな雰囲気はなかった。

 明智十兵衛は俺に、畿内を落ち着かせるために上洛して三好を追い払ってもらえないかと言ってきた。

 きっと守護職よりそっちの話が本題なんだろうな。だが、それは尾張の義兄上にする話じゃないかな。

 近江を統一したせいで、いろいろ歴史が変わってしまいそうだ。

 俺からは、畿内が平穏になることを望むし、将軍家に忠義を尽くす気持ちもあるが、南近江が落ち着かないと、とても出兵はできないと答えた。

 それに南近江を獲ったことで朝倉とは疎遠になっている。

 はっきり確認したわけではないが、同盟関係はなくなったと言っていい。

 最近、朝倉は若狭にちょっかいを出しているようだし、近江との国境にも兵を入れているようだ。

 明智十兵衛には、東に斎藤、北に朝倉と敵がいて動きにくいことも伝えた。


明智十兵衛光秀

 浅井殿は動かぬようだ。

 義輝様は、この乱世を終わらせて平和な世をもたらすという理想をお持ちの方だ。

 足利将軍を支えてきた六角は残念ながら内紛で滅んだが、その後に南近江を獲った浅井は、民を大切にして良い政を行っていると聞く。

 近江を統一した勢いで浅井が義輝様のために兵を挙げ、三好を追い払ってくれれば畿内は平和になると思ったのだが、残念だ。

 だが諦めはしない。尾張の織田の説得に向かおう。

 

6月 近江国小谷城 お市の方

 尾張の兄上から手紙が来ました。

 犬山城の織田十郎左衛門信清を攻め、城を落としたと書いてありました。

 十郎左衛門殿は、父上の甥です。しかも正室は、兄上と私の姉上である犬山殿です。

 一族の中でも血縁の近い者に、またも背かれた兄上のことを思うと心が痛みます。

 織田家はどこまで一族で争えば済むのでしょうか。

 兄上の手紙には、将軍家の使者が来て、上洛を促されたことが嬉しそうに書かれていました。

 残念ながら今は美濃攻略で手一杯だが、いずれ上洛を果たしたいとも書いてありました。

 その使者が先に浅井に来たことは、伝えない方が良いのでしょうね。

 

浅井長政

 橘内から報告があり、信長が犬山城を信清から奪い、本拠を小牧山城に移すとのことだった。これも歴史のとおりだ。

 信長が本拠を小牧山城に移すのは、さらに本腰を入れて美濃を攻略するということだろう。

 今回の情報は正蔵たちが得てきたらしい。非常に早く情報が入手できた。

 早速活躍してくれるのは嬉しい限りだ。臨時報酬ボーナスを出そう。

 犬山城のことはお市からも俺に話があった。信長からの手紙には、これで尾張国内には邪魔者はいなくなったと書いてあったそうだが、また一族の者と戦わざるを得なかった兄の心が心配だとお市は言っていた。

 確かに信長は、弟の信勝に背かれて討たざるを得なかった。

 清州の守護代家と戦う際に協力した叔父の織田信光の暗殺に関与したという説もある。

 そして今回、織田伊勢守家との戦いでは協力した織田信清の城を攻め落とした。

 ずっと一族の人間と戦い続けることは心理的に負担になるだろう。

 後世の人間は、信長は英雄なので傷つかない心を持っているように思いがちだが、信長も人の子だ。

 秀吉の妻の北政所に宛てた信長の手紙は、気遣いに満ちていて、驚くほど優しい。

 信長の心も傷つかないわけではないだろう。

 お市には、俺は義兄上を裏切るようなことはしないから安心してほしいと話した。

 このところ、お市のお腹は目立って大きくなってきている。あまり心配をかけないようにしたい。

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