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長政記~戦国に転移し、家族のために歴史に抗う  作者: スタジオぞうさん
第二章 近江の統一

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三十九 統治体制の整備

1563(永禄6)年11月 近江国 小谷城 浅井長政

 小谷城に戻ると戦勝の宴を開き、城主や城代の任命をしたりと忙しかった。

 家中は六角を討ったことで盛り上がっている。

 だが、数は少ないが犠牲になった者の家族に所領を安堵したり、弔慰金を渡したりした。

 たとえ犠牲者は少なくても、それぞれの家族にとっては大事件だ。

 孫子が戦わずして勝つことを最善の策と言うのは、納得がいく。

 赤尾清綱、三田村左衛門や百々内蔵助など祖父の代から仕えている老将たちは、単に喜ぶというより、感慨が深いようだったな。

 皆は俺を褒めてくれるが、南近江を獲ったのは、俺一人の力では決してない。

 俺の至らない所を皆が支えてくれている。


 さて、領土が広がったことで、城主や城代を任命するほかにやることがある。

 それは統治体制の整備だ。

 浅井が小大名だった頃は意思決定が必要なときは当主が判断するので良かった。

 だが領地が広がると、すべて当主が話を聞いて判断するのでは時間がかかりすぎるし、そもそも不可能だろう。

 重要なこと以外は家臣に任せるべきだし、きちんと分担しておかないと混乱する。

 大名は前線で戦うだけが仕事ではない。むしろ外交や調略で敵を減らし、内政を充実させて兵と武器を揃えるほうが重要だろう。信長は桶狭間以降、敵より少ない兵数で戦っていない。

 そんなわけで奉行をいくつか置くことにした。

 他家との交渉を行う外務奉行は安養寺氏種に、米や養蚕を担当する農業奉行は百々内蔵助に、銭を管理する財務奉行は政元に任せる。

 政元は細かい作業が苦手な俺と違い、きっちりと仕事をするので財務は任せていた。

 八幡山城が完成して政元が城主になったらどうしようかな。家臣には長浜に集まって住んでもらい、城主や城代は任地と往復してもらおうかな。

 刑部ぎょうぶ奉行は赤尾清綱に頼む。領内の日常的な争いごとは清綱に裁いてもらう。

 そして、浅井の富の源泉と言えるのが商業だ。商業奉行は最も重要な役目とも言える。

 この時代では意外な人選になるが、俺の中では誰に頼むかは決まっていた。 


田屋松千代(海津局)

 「戦勝おめでとうございます。」

 今日は殿に呼ばれて、小谷城に来ています。

 「ありがとう。これも従妹殿が商業を振興して銭を稼いでくれたからだ。」

 あら、嬉しいことを言ってくださる。

 私は実宰院様のように腕っぷしは強くありませんので、戦でお役に立てません。

 しかし、琵琶湖の水運を盛んにし、領内の商業を振興することで、お家の役には立っているつもりです。

 「ありがとうございます。戦場に立てなくてもお家のために役に立っている。そう言って頂ければ、領内の商人や職人も喜びましょう。」

 「うむ。戦での槍働きだけが重要なのではない。もちろん命を張って戦ってくれる者には感謝している。だが、戦はたいてい始まる前に勝負はついている。より多くの兵を揃え、より良い武器を揃え、兵糧を整えた者が勝つ。だから銭を稼ぐことも浅井家のために重要だ。」

 さすが従兄殿は分かってくれています。

 しばらく商業の話をした後で、殿が切り出しました。

 「今日来てもらったのは、近江を統一した機に浅井家の内政も組織化しようと思ったからだ。これまでの浅井家は当主が内政も重要なことは全て判断してきた。しかし、領地が広くなったので、このままではうまく運営できるとは思えない。」

 まあ、殿はそんなことも考えておられたのですか。

 「そこでだ、浅井の商業については商業奉行を置いて、特に重要な判断が必要なものを除いては一任しようと思う。」

 「それは良いお考えだと思います。」

 「賛成してくれるか。それでは従妹殿を商業奉行にして清水山城代にするから、宜しく頼む。」

 「えっ私ですか?百々殿ではないのですか。それに城代?」

 てっきり経験豊富な百々内蔵助殿が商業奉行になると思ったのですが。

 「それも考えたがな。百々内蔵助には農業奉行を頼む。百姓を説得するには内蔵助のような経験豊富な老将が良い。だが商人は違う。実質的な話が重要だ。内蔵助にも相談したが、商業奉行は田屋家の姫が良いと思うと推挙してくれたぞ。浅井の商業を一番分かっているのは従妹殿だ。商業の拠点である清水山の城代とあわせて頼む。」

 そこまで言われては、引き受けないと女がすたりますね。

 実宰院様やお市の方を将として処遇している殿ですから、私が内政担当の将となるのも道理ですか。

 「謹んでお受け致します。」

 「そうか、受けてくれるか。」

 「はい。ところで殿、私の方からも報告がございます。」

 「おお、何だろう。」

 「これでございます。」

 私は持参した黒い漆塗りの小箱を殿に手渡しました。

 箱を開けた殿の顔が、ぱあっと明るくなりました。

 「そうか、ついに淡水真珠ができたか!これは見事だ。間違いなく高値で売れるぞ。」

 殿は喜びのあまり、おかしな踊りを始めました。

 淡水真珠の養殖には3年かかりました。

 なかなか結果が出なくても粘って良かったと思います。


 最近、父の養子となった政高殿との婚姻が決まりました。

 父は田屋家の次の当主は私だと言いますし、殿もそうおっしゃっています。

 浅井家を銭で支えるのが私の役目。

 今後も粘り強く頑張ります。

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