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長政記~戦国に転移し、家族のために歴史に抗う  作者: スタジオぞうさん
第二章 近江の統一

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幕間 実宰院の訓練

本篇から離れた外伝のような話です。興味の無い方は読み飛ばしてください。

1563(永禄6)年 近江国実宰院 浅井長政

 姉上の鍛えた女性部隊は二倍の兵を一蹴し、実力を見せた。

 その評判を聞き、どんな訓練をしているのか一度見せてもらうことにした。

 何となく、お市が心配になったというのは内緒だ。


 実宰院の門をくぐると、広い庭では筋肉トレーニングが行われていた。

 一、二。一、二。

 掛け声にあわせてリズミカルに動いているが、きつそうな動きだ。

 「声が小さい!」「お遊びのつもりか!」

 先任曹長のような鍛え抜いた雰囲気の女性が厳しく声をかける。

 みな、苦しそうな表情を見せながらも付いていく。

 「そうだ、お前ならできる!」「この鍛錬を続けるんだ!続ければ勝てる!」

 励ましの言葉も混ざる。

 まるでどこかのブートキャンプみたいだな。


 僧房の中に案内してもらう。

 そろそろお昼時なので、いい匂いがしている。

 「そろそろ昼餉ひるげの時間か?」

 「そのとおりでございます。」

 厨房を見せてもらうと、目を引く物が鎮座していた。

 それは、ものすごくデカい鍋だった。

 どこの相撲部屋か、ここは。

 こんなデカい鍋、どこにあったんだろう。

 「物凄い量だな。これをみな食べるのか。」

 「はっ、食べることも戦いだと実宰院様はおっしゃっております。」

 参ったな。お市が姉上のような巨体になったらどうしよう。


 最後に姉上の部屋に案内される。

 「どうでしたか?」

 「はい、これは強くなりますね。」

 薙刀や槍をいきなり振るうと筋を傷めるかもしれない。まずは筋力をつけるのは道理にかなっている。鉄砲を撃つ反動に耐えるためにも筋力が必要だ。

 そして、あんなハードなトレーニングを続けていれば、スタミナもつくだろう。

 瞬間的な筋力は男性に分があるとしても、スタミナは女性も負けていない。

 大量の食事は、少しでも体を大きくするためだ。

 やはり女性は男性に比べ、一般に体が華奢で小さい。

 食べるのも戦いと思うのは、あながち間違いではないと思う。

 貧しい家で生まれ育った者は、栄養不足のため痩せている場合も多い。

 まずは身体つくりが重要だ。

 この訓練施設で鍛え上げた女性は、その辺の足軽よりも強いはずだと納得した。


 姉上はここに集まった女性たちについて語り出した。

 「この乱世では男を戦に駆り出され、田んぼが戦場になって荒らされたり、村が略奪されたり、親や子を殺されることもあります。民の暮らしは常に危険と隣り合わせです。女はただ逃げたり耐えたりするしかないと思われていましたが、そうではない道があるのなら、自らの力で自分の大切なものを護りたい。ここにいるのは、そんな気持ちで集まった女たちです。大切なものを護るため、これ以上奪われないための力を強く望んでいますから、根性は並みの男たちよりもあります。」

 姉上は少しうつむいて話を続ける。

 「出家したのに戦い方を教えるのはおかしいと自分でも思うのです。ですが、何もかも失い、生きたまま死んでいるような女性を減らしたいのです。戦がすぐになくならない以上、女も戦う術を身につけても良いと思っています。」

 乱世では立場の弱い者ほどつらい目にあう。俺もこの時代に転移してから、酷い目にあった人たちの話を耳にしてきた。女は戦うべきではないと考える者は家中にもいるが、守りたい気持ちはよく分かる。

 「なるほど、女性たちは守るための戦いに強そうですね。他国に攻め入るときではなく、領地を守るときに活躍してもらおうと思います。」

 「ええ、そうですね。ここで鍛えた後、町や村に戻って自警団になってもらうのも良いと思っています。」

 「姉上のお考えのとおり、訓練を続けてください。近いうちにもう少し広い場所を用意するつもりです。」

 姉上との会話を終えて、寺を辞去することにした。

 姉上は寺の門まで送ってくれた。

 門の前で空を見上げる。

 「姉上、乱世は悲しいですね。」

 「そうですね、そなた、乱世を終わらせてみますか。」

 はっとして姉上を見る。穏やかな表情の中にも強い意志が感じられる。

 「今の俺では力がまったく足りません。ただ、俺の力の及ぶ限り、浅井の領地は平和にしたいと思います。」

 「そうですね。今はそれで十分と思います。」

 ふう、姉上は俺に天下を狙えと言うのか。それは尾張の義兄上の役割じゃないかな。

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