表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
長政記~戦国に転移し、家族のために歴史に抗う  作者: スタジオぞうさん
第一章 家督の継承と織田家との同盟

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

30/93

二十九 長政とお市

1561(永禄4)年10月中旬 近江国小谷城大広間 お市

 宴は続いています。

 国人領主たちの後に、土豪や地侍の家臣たちの挨拶を受けます。

 最初は遠藤直経殿です。今や一城の主ですが、家格としては低いので堀家などよりも順番が後になるようです。しかし最も信頼できる家臣だと長政殿は言っていました。私も鎌刃城で世話になりましたが、武骨で誠実な人だという印象です。

 続いて、やはり殿が信頼している朝妻城主の新庄直頼です。快活な若い武将です。

 次は浅井家の重要拠点である清水山城の城代を任されている片桐直貞殿です。実直な印象です。

 宮部継潤殿は、忠誠心に疑問はあるが能力は高いと殿は評価しておられました。

 さらに最近家臣になった武将が続きます。

 六角家に反旗を翻し、六角家の攻勢を撃退して野良田の戦いの契機となった肥田城主の高野瀬秀隆殿は、意志の強そうな印象です。

 犬上郡の八町城主の赤田興殿は、秀でた額の賢そうな印象の武将です。最近浅井家の影響が犬上郡に及ぶようになり、明確に家臣になったと聞きました。

 六角家は野良田の戦いで寡兵の浅井家に破れ、三好三人衆との争いの状況も芳しくありません。

 一方、浅井家は高島郡の大半を併合しました。将軍の避難場所ともなる朽木家は事前に調略して友好関係を築いていて、軍事面でも外交面でも勢いがあります。

 このため、犬上郡や愛知郡の土豪たちには浅井家に従う者が増えているようです。

 最近登用された内政担当の石田正継と小堀政次の二人、近習でありながら内政担当としても遇されている若い増田長盛からも挨拶を受けました。いずれも理知的な印象で、いかにも内政が得意そうな武将たちでした。

 そして、最近まで織田家にいた前田利家が挨拶に来ました。

 「市姫様、お久しぶりにございます。ご結婚、誠に祝着至極に存じます。」

 「ありがとう。美濃ではそなたにも世話になりました。」

 「いえ、某は後ろで槍を振るっていただけでございます。しかし、まさかこのような場で、このような立場でお会いすることになるとは思いませなんだ。」

 「そうですね。世の中、何があるか分かりませんね。そなたの武勇は兄上からも聞いています。今後は浅井家のために励んでください。」

 織田家の家臣も多士済々ですが、浅井家もなかなかのものだとお見受けしました。

 しかし長政殿はもっと有能な家臣を増やしたいようです。

 兄上も同じことを言っていましたから、大名家の当主というのは、そういうものかもしれません。


1561(永禄4)年10月下旬 近江国高島郡 お市

 祝言を挙げた後、私のお披露目を兼ねて、領内を殿と視察しています。

 殿の意向で、私も駕籠に乗るのではなく騎乗しています。美しい飾り物ではないことを示すためです。もちろん私も望むところです。

 湖のそばを騎馬で行くのは、尾張の平野を行くのとは違った趣があります。

 そして、私たち2人の周囲を近習たちが囲んでいます。近習の中には前田殿もいます。

 私は5尺5寸近く(約165㎝)あり、平均的な男性より3寸近くも背丈があるのですが、6尺(約182㎝)近い殿と前田又左衛門と一緒にいると小さく見えます。

 自分が小さく思えるのは、やはり嬉しいものです。

 私が嬉しそうな様子に、隣で馬を歩かせている殿が気付かれたようです。

 「市、何か良いことでもあったか。」

 「はい、私より大きな殿や又左殿と一緒におりますと、自分が小さく思えて嬉しかったのです。私はこれまで大きい、大きいと言われて育ちましたので。」

 「俺には自分が小さく見えて嬉しい気持ちはよく分からぬが、そういうものか。」

 「そういうものです。」


 浅井領のあちこちを殿と巡りました。

 今日は新たに領地となった清水山城に来ています。

 清水山城の櫓からは、琵琶湖を見渡すことができます。

 湖に点々と船が浮かんでいます。絵のような風景ですね。

 尾張の海とは違い、波が穏やかです。

 近くに見える島は、竹生島でしょうか。

 「浅井家は代々、竹生島の弁財天様に帰依しているのだ。」

 いつの間にか隣に来ておられた殿が教えてくれました。

 「弁財天様は、歌舞音曲の神様でもあるが、武芸の神様でもある。そなたが美しいだけではなく、勇敢に戦って近江に来たことが知られるようになってからは、そなたは弁財天様の使い或いは化身だという噂が広がっている。」

 「まあ、そのようなことが。畏れ多いことでございます。」

 「確かに畏れ多いことではあるが、皆がそなたを歓迎している証拠だ。この乱世では、当主の妻は勇敢な方が良い。」

 殿はにっと笑って言いました。

 「もちろん一番歓迎しているのは俺だ。」

 「まあ。」

 しばらく殿と二人で、琵琶湖の景色を眺めました。

 茨の道を歩むことを覚悟して浅井家に嫁いできました。この乱世で、ずっと穏やかな日々を過ごすことはできないでしょう。それでも、このような穏やかで幸せな時間を得られたことはとても嬉しく思います。これも弁財天様のお計らいでしょうか。感謝致します。

家督を継承し、お市を浅井家に迎えるところまで、どうにか来ました。明日は、多くなってきた登場人物をまとめたものを載せようと思います。

このペースでは三姉妹が生まれるまで何話かかるか分かりませんので、次のパートはもう少し話の進む速度を上げて書いていきたいと思っています。次のパートは来週火曜日に始める予定です。

思った以上に仕事をしながら書くことは大変で、一日おきの更新がやっとです。

それでもどうにか書き続けているのは、予想したよりも多くの方に読んで頂き、評価やブックマークを頂いたからです。改めて感謝致します。誤字脱字を教えて下さる方も、ありがとうございます。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ