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長政記~戦国に転移し、家族のために歴史に抗う  作者: スタジオぞうさん
第一章 家督の継承と織田家との同盟

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二十八 解語の花

1561(永禄4)年10月中旬 近江国小谷城大広間 お市

 今日は浅井家の家臣たちへのお披露目です。

 事前に清州で家臣たちの評判は聞いてきましたし、昨晩、長政殿からもいろいろ教えてもらいました。

 昨日は少女に戻ったようなところを見せてしまいましたが、今日は大丈夫です。


 家臣たちは、序列に沿って挨拶に来ます。

 最初は宿老の赤尾清綱殿です。聞いていたとおり、落ち着いた高齢の武将です。

 竹若丸殿の傅役の三田村左衛門殿は、殿の信頼の厚い歴戦の勇士ですが、不思議な愛嬌もある方です。

 佐和山城主の磯野員昌殿は浅井家最強の武将だと聞いています。風格のある武人という印象です。対六角の最前線の城を守っていますが、三好長慶が細川晴元を幽閉したことに対し、六角義賢は河内の畠山高政とともに京に出兵しているので、今日は小谷城に来られたようです。

 外交担当の安養寺氏種殿は、頭脳明晰な印象です。

 内政担当の百々内蔵助殿は、人柄の良さと知性を感じさせる老将でした。

 この後も、京極家の被官だった国人領主たちが続きます。浅井家も、もとは京極家の被官だったそうですから、かつては浅井と同格だった者たちですね。

 阿閉貞征殿は殿の母君の縁者のようですが、殿は警戒しています。浅見対馬守殿も重臣ですが、殿の評価は微妙です。

 このあたりの人物評は、昨日に殿から聞いた内容は事前に清州で聞いたものとほぼ一致しました。織田家でも同盟を組む相手については、できるだけ詳細に調べています。


樋口三郎左衛門直房

 殿に嫁いできた市姫を見ると、なるほど凄い美貌だった。

 織田との同盟を喜ぶ者もいるが、堀家にとっては喜べない。

 堀家の領地のある坂田郡は美濃に接している。浅井家が織田と結び、美濃の齋藤と敵対すると、わが領地は最前線になる。

 聞けば、斎藤からも同盟の申し出があったそうだ。

 まさか殿は、この美貌の姫のために齋藤との同盟を断ったのではないだろうな。

 何とかして織田との縁を薄れさせ、斎藤と同盟する方向にもっていきたい。婚姻しても敵対することがあるのは、先代の齋藤義龍が浅井家の姫を娶っておきながら敵対した例もある。

 市姫の美貌を喜んでいる連中に、中国の故事を引き合いに出して、武家の嫁に美貌など必要ないことを知らしめよう。

 どうせ殿も市姫も中国の故事は詳しくないだろう。


お市

 堀秀村殿と樋口直房殿が挨拶に来ました。堀殿はまだ幼い子どもですね。用意した口上を一生懸命話しているのは可愛く思いました。

 しかし、家老の樋口殿は殿に向かって問題発言をしました。

 「いやはや、市姫は聞きしに勝る美貌。まさに解語かいごの花ですな。このような美姫を嫁に迎えられしこと、羨ましい限りでございます。」

 周囲では「『かいごのはな』とはどういう意味だ?」「さすが三郎左衛門は物知りだな。」などの声が上がっています。

 「解語の花」とは言葉を解する花という意味で、玄宗皇帝が楊貴妃の美しさを褒めた言葉です。この者は私を楊貴妃のような、ただ美しいだけで国を傾けるような女だというのですか。玄宗皇帝を惑わせ、自らの一族が高位高官となり、唐が亡ぶ原因となった女のようだと。

 祝いの場で嫁いだばかりの私が面と向かって反論すれば、反発もあるでしょう。

 しかし、黙っていられません。

 私がこの場にたどり着くために、護衛たちは命をかけ、亡くなった者もいます。

 私自身も自らの手で人を殺めました。このような屈辱を受けること、織田家の姫として甘受できません。

 「私の外見を褒めてくれたこと、感謝します。しかし、私は愛でられるだけの花のつもりはありませんし、楊貴妃のように国を傾けるつもりもありません。」

 「これは失礼致しました。ただお方様の美貌を称えるつもりでございました。」

 樋口直房は釈明しましたが、顔に不満の色が見えます。

 周囲の者たちも酒を飲むのを止め、こちらを見ています。

 宴の場は静まり、気まずい空気が漂っています。私は侮辱されても我慢して黙っているべきだったというのでしょうか。

 あっ、隣に座っていた殿が立ち上がりました。

 「この機会に皆に言っておく。市の一行は敵国の美濃を命がけで通り抜け、当家との同盟への織田家の誠意を見せるために嫁いでくれたのだ。国境まで迎えに行った者に聞けば、美濃を抜ける直前で激しい戦いがあったと聞く。

 市はまだ嫁いだばかりだが、少し話せば聡明なことは分かる。三郎左衛門、唐の故事を持ち出して市の知識を試すようなことはよせ。市は決して楊貴妃のような綺麗なだけの女ではない。俺も玄宗皇帝のように国を傾ける気はないぞ。

 それにな、美濃の戦いでは市は自ら片鎌槍を振るい、兵を励まして戦ったそうだ。良いか、皆の者。俺は織田三郎殿から美しい妻を貰っただけではない。勇敢な将も貰ったのだ。」

 家臣たちが歓声をあげます。「殿は果報者ぞ」とか「浅井家はさらに栄えるぞ」などの声が聞こえてきました。

 ああ、殿は分かってくださっています。

 ここまで言ってくださったのですから、学問にも武芸にも一層励まねばなりませんね。


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