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長政記~戦国に転移し、家族のために歴史に抗う  作者: スタジオぞうさん
第一章 家督の継承と織田家との同盟

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二十七 結婚の儀

1561(永禄4)年10月中旬 近江国小谷城大広間

お市

 今日は結婚の儀です。新婦は新郎と一緒に上座につき、固めの儀などに臨みます。

 小谷城の大広間に案内されて、上座に向かいます。

 大広間にいる人数は多くありません。

 今日は浅井一族のみが列席する儀式です。家臣たちに私がお披露目されるのは明日です。

 上座で私を待っているのが長政殿ですか。聞いていたとおり大柄ですね。

 そのお顔は…まさか。


浅井長政

 大広間の上座まで新婦がしずしずと進んでくる。

 さすがに商業で裕福な織田家だけあって、高価そうな華やかな着物だ。

 顔を伏せ気味にして、お市がこちらに近づいてくる。

 んっ。美濃で会ったお市よりも少し背が高いような。気のせいだろうか。

 すぐ近くまで来て、俺の方を見た顔は…なんと。


お市

 嗚呼、あの大柄な武将は長政殿だったのですか。

 当主である長政殿が国境を越えて私を救いに来てくれたというのですか。まさか、そのようなことが。

 忘れようと思っていたのに、忘れる必要などなかった。

 私たちを救ってくれた浅井家の将は長政殿だったのですね。

 涙が溢れて止まりません。

 織田家当主の妹として、毅然と振舞おうと思っていましたのに。


浅井長政

 何と、市姫と手を取り合っていた若い武将はお市だったのか。そうか、駕籠の中にいた姫は囮か。

 なぜ俺は気づかなかったのだろう。あの信長が、敵地の美濃を何の策もなく、妹を少ない護衛で送りだすだろうか。

 お市は、はらはらと涙を流している。泣いている顔も美しいな。

 忘れようと思った、強い意志を秘めた瞳は俺の側にいる。

 こんなことがあるとは。


お市

 私としたことが、我を失い、涙を流すとは。

 初対面の場で、浅井家の親族たちに侮られてはなりません。気持ちを引き締めます。

 最初に挨拶に来られたのは田屋明政殿と海津殿です。長政殿の父の久政殿は隠居し、体調が悪いとのことで、この場におられません。長政殿とは不仲とも聞きました。

 海津殿は浅井家を興隆させた亮政殿の長女であり、その夫の明政殿は一時期浅井姓を名乗り、亮政殿の跡を継ぐと思われていたようです。浅井一族の長老格ですね。

 二人とも私を歓迎してくれました。社交辞令の部分もあるかもしれませんが、暖かい笑顔を向けて頂くと安堵致します。


 次に来られたのは尼僧です。長政殿の姉の実宰院様だと思いますが、大きいです。

 私より背丈は3寸ばかり高く、体重は倍近くありそうな…この体格は、もしや。

 はっとして隣の長政殿の顔を見ると、笑顔で頷いています。

 それでは、私を助けに来てくれた僧兵は、長政殿の姉君だったのですか。

 あの大柄な武将が長政殿だったことの衝撃で注意が散漫でした。こんなに大柄の僧兵はそうそういるものではありません。もっと早く実宰院様だと気づくべきでした。

 それにしても、今は親子や兄弟が互いに争う乱世です。

 他の家から嫁いできた私を、危険を冒して当主とその姉が助けてくれるなど、信じられません。

 ああ、また涙が溢れてきます。いけません、もっと凛としていなければいけないのに。

 「新九郎の姉の実宰院と申します。此度はよくぞ敵国である美濃を越えて近江に参られました。向後、末永く宜しくお願い致します。」

 実宰院様は挨拶をされた後、すっと私に近づいてきて囁かれた。

 「今日は信頼できる家族と一族だけだから、泣いても大丈夫です。あれだけの目に遭ったのですから、気持ちが昂っても無理はありませんよ。」

 もごもごと御礼を言うことしかできない私に、微笑まれた。

 「あのときの武勇はたいしたものでした。もし宜しければ、私が鍛えましょう。貴女はもっと強くなれます。」

 「ありがとうございます。実宰院様。ぜひ宜しくご指導のほど、お願い申し上げます。」

 「実宰院ではありません。今日から私は貴女の姉です。」

 「はい、姉上。」


 次にやって来たのは少年です。

 「浅井竹若丸と申します。新九郎兄上のお役に立てるよう勉強しておりますが、まだまだ未熟者です。このように綺麗な方が義姉上になられるとは驚きましたが、とても嬉しく存じます。向後、よろしくお願い申し上げます。」

 まあ、可愛くて素直そうな少年ですね。

 その後、長政殿の母君の阿古御料人の兄である井口経親殿が来られて、田屋明政殿の二人の娘さんも挨拶に来ました。田屋殿の娘さんは二人とも、とても賢そうです。

一通りご挨拶をして、長政様のご家族と浅井一族の皆様が私を歓迎してくださっているのが分かりました。

 「市姫殿、これが俺の家族と信頼する一族だ。」

 「長政様、素晴らしいご一族ですね。織田家は一族の争いが絶えないので、羨ましく思います。」

 ああ、つい余計なことを。

 「はは、浅井家にも信用できない縁戚や家臣はいるさ。明日はそういう連中も来る。勇敢な市姫殿なら大丈夫だろうが、明日は気合を入れていこう。」

 「はい、承知しました。それから、私は貴方に嫁いだのですから、市とお呼びください。」

 泣くのは今日だけです。ですが、今日くらいは幸せな気分でいても良いでしょう。

 私は日本一の幸福な嫁だと思います。



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