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長政記~戦国に転移し、家族のために歴史に抗う  作者: スタジオぞうさん
第一章 家督の継承と織田家との同盟

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十五 六角義賢の誤算

1561(永禄4)年二月上旬 近江国観音寺城 六角義賢

 新年早々、嫌な知らせがあった。

 大津港の津料が急に減っているらしい。

 「どういうことだ、何故先月の津料はこんなに少ないのだ。正月は商人たちも書き入れどきで、津料も多く入るはずではないか。」

 大津の代官が平伏している。

 「それが、どうも大津ではなく朝妻に多くの荷が流れているようでして。」

 「何、朝妻だと。どうして多くの荷が浅井の港に流れていくのだ。」

 「はい、商人たちに聞きますと、朝妻港の津料が半値になったらしく。」

 「何だと、半値だと。浅井の連中は狂ったのか。連中も銭は必要だろうに。」

 浅井には昨年、野良田で敗れた。

 そのせいで、犬上郡や愛知郡の土豪の中には浅井に調略されるものも出ているようだ。

 体制を立て直して再戦を挑もうとしても、重臣どもはまず家中をまとめることが優先だという。

 そうこうしているうちに当家の影響下にあった高島郡を浅井に奪われてしまったではないか。

 そのうえ商人も浅井領の港に荷を持っていくなど、どいつもこいつも儂を馬鹿にしおって。

 「津料が半値になるなど信じられぬ。商人どもがうちの津料を下げさせようと嘘をついておるのではないか。その手には乗らぬぞ。」

 軍備を整えるにも銭は必要だ。

 「そうだ、津料を5割値上げするのだ。そうすれば荷が減っても税を確保できるだろう。」 

 「しかし、そうしますとますます荷が朝妻に流れてしまうかと。」

 「うるさい、お前たちはつべこべ言わず、言われた通りにしろ。」


近江国朝妻城 新庄新三郎直頼

 「どうだ、先月の収入は。」

 「はっ、津料は半値にしましたが、荷揚げの量が8割増しましたので、減収は1割ほどにとどまります。」

 「そうか、少し減ったか。だが港は大賑わいだな。」

 「その通りでございます。荷揚げの量が増えたことで人足も増え、宿に泊まる商人も増え、港はかつてなく賑わっております。朝妻港の宿や荷揚げ人足のまとめ役たちが御礼として200貫(約200万円)納めて参りました。」

 「はは、そうかそうか。殿の策は上手くいったな。200貫とは奴らも奮発したな。これからもよろしくということだろう。これなら殿のおっしゃる商人から定期的に税を取るのも何とかなりそうだな。」

 殿の策は上手くいったな。

 「さて、殿は四公六民とおおせだが、これは殿の知恵による臨時収入だ。その200貫は小谷城に納めてくれ。新庄家はケチではないところをお見せしよう。」

 「畏まりました。ところで、大津港に動きがございます。」

 「ほう、どんな動きだ。」

 「義賢は大津の津料を五割引き上げたようでございます。何でも減収したことに腹を立てたとか。」

 「あっはっは。これは良い。大津の荷はますます朝妻に流れてくるな。」

義賢め。目先のことだけ考えたな。

 「いや、殿の器量は義賢を遥かに上回るようだ。戦上手なだけではない。銭の戦いでもうちが勝つ。これはこれからが楽しみだ。どうやら浅井家は忍従のときを過ぎて飛躍のときを迎えるらしい。」

 浅井家に仕えた当家の選択は正しかったな。浅井、六角、京極の間を揺れ動いていたわけだが、浅井を選んだのは正解のようだ。

 「大津の津料の話、小谷城に銭を納めるときに殿にお伝えしてくれ。きっとお喜びになる。」


近江国小谷城 浅井新九郎

 「朝妻城から使者が来ております。」

 小姓が使者の来訪を告げに来た。

 「そうか、通してくれ。」

 新庄家の家臣が一礼をして入ってきて、下座に控える。

 「使者の任、ご苦労である。それで、用向きは何かな。」

 「はは、津料を半値にした結果のご報告でございます。」

 使者は直頼が朝妻港の代官から聞いた話を俺に伝えてくれた。

 「はは。義賢は津料を上げたか。これから朝妻港はますます忙しくなるぞ。」

 「はっ。主もそう申しておりました。荷揚げ量が増えることに対応せねばならぬと。」

 「うむ、さすが新三郎だな。よくわかっている。ところで、せっかく納めてくれた200貫だが、半分の100貫は新庄家で使ってくれるか。これから港の拡充などで銭がいるだろう。新三郎殿には、誠意は確かに受け取ったと伝えてくれ。」

 使者は礼を言い、退出していった。

 さすがに新庄直頼は頼りになるな。

 津料の値下げは、もし義賢が対抗して津料を下げてきたら効果が落ちるところだったんだが、そこまで経済センスはないだろうと予想して仕掛けたが、上手くいったようだ。

 これで大津港の地位は下がるだろう。琵琶湖の水運をこちらが握ることができれば、六角家の経済力は落ちる。商人が減れば、領内の活気も落ちてくるものだ。じわじわと効いてくるだろう。

 あとは安定収入の確保だ。これまで浅井家は戦があるたびに寺社や商人に矢銭という臨時税を課してきたが、それは不安定な収入だ。矢銭を課さない代わりに定期的に税を納めてもらう仕組みをつくりたい。

 このあたりは経験豊富な百々内蔵助に相談している。

 商人の売上高に課税するのは難しいようなので、毎月いくらといった定額の税になりそうだ。

 湖上の水運を握れば、商人たちとの交渉もやりやすくなるだろう。

 詳細は石田正継や小堀政次に詰めてもらおう。


 六角家の力が落ちれば、やりたいことがある。

 それは忍びを家臣に迎えることだ。

 忍者で有名な甲賀は六角の影響下にあり、甲賀出身の三雲家は六角六人衆の一角を占める。

 ただし、六角家の領地ではない。

 甲賀軍中惣と呼ばれる地侍たちの自治組織が治めている。

 情報を制することは戦国時代でも極めて重要だ。先日、高島郡を攻めたときも事前に噂を撒いたことが有効だったようだ。

 歴史では1568年に浅井家は山中家と同盟を組んでいる。甲賀二十一家と呼ばれる甲賀の豪族の筆頭格が山中家である。しかし、もっと早く甲賀と結び、できれば家臣に迎えたい。

 何かきっかけがあると良いんだが。



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