20話 体制を整えてーー二度と同じことを起こさないために
俺は薬草を研究しようと思ったが、それよりもやるべきことがある。
あの魚事件から体制を整えなくては。
街中では、まだポーションを求める人々の列ができている。
幸い、大きな混乱には発展していないが、市民の不安は消えていない。
実際、目安箱に『腐った魚を売らせるなんて、領主を降りろ!』などの不満の声が少なからずあった。
俺は再び側近を集めることにした。
*
「ソルシダ。あの商人の身元わかった?」
「それが、すいません。すでに逃げられていてわからなかったです…」
ソルシダの報告を聞いて、俺は小さく息を吐いた。
「やっぱり、そう簡単には尻尾を掴ませてくれないか」
「申し訳ありません……」
「いや、ソルシダが悪いわけじゃない。相手が一枚上だっただけだ」
警備隊を総動員して探したが、あの商人はまるで煙のように消えてしまった。
名前も、顔も、行き先も、何もかもが不明。
「対策として、人の出入りできる場所に制限をかけよう。東西南北に1箇所ずつ。
そこに、警備隊を配置して欲しい」
「なるほど、2人くらいでよろしいでしょうか?」
「ああ、頼んだよ」
だけど、問題はここからだ。
「ハーおじさん。商人ギルドを通さずに商売している連中、今どれくらいいる?」
「正確な数は分からんが……少なくとも、外から来る商人の半分くらいは直接市場に出とるな」
半分、か。
思っていたより多い。
「急に義務化したら、反発も出るよね」
リーリャが不安そうに言う。
「出るだろうな。特に、小さな商人ほどな。
俺が事件の後に呼びかけたとき、『登録しても客が増えるわけじゃない』という反対意見もあったからな」
ハーレンが腕を組んで頷いた。
「だが、今回みたいなことがまた起きたら、もっと酷いことになりますぞ」
その通りだ。
今回は魚の食中毒で済んだが、次は何が起こるか分からない。
毒を混ぜられたら?
病気を広められたら?
考えただけで、背筋が寒くなる。
「それでも、やらなきゃいけない」
俺は全員の顔を見回した。
「今回みたいなことがもう一度起きたら、今度こそ、この街の信用は致命的に傷つく」
「……そうですね」
マルチェリオさんが頷いた。
「段階的にいこう」
全員の視線が俺に集まる。
「まずは外から来た商人だけを対象にする。この街で元々商売している人たちは、今まで通りでいい」
「なるほど」
「登録料は最初の一ヶ月は無料。検査も簡易的なものから始める。臭いや見た目のチェック、あとは商人本人の身元確認は絶対だ」
「それだけなら、商人たちも受け入れてくれるかもな」
ハーレンが頷く。
「その代わり、登録していない商人が問題を起こした場合は、即追放。例外なし」
空気が、少し引き締まった。
「優しく見せて、締めるところは締めるってわけか」
ハーレンがニヤッと笑う。
「でも、ルカ様」
ソルシダが真剣な顔で言った。
「検査は誰がやるんですか?商人ギルドの人数は、まだ少ないですよね」
「それは……」
確かに、そうだ。
商人ギルドはできたばかりで、メンバーは数人しかいない。
しかも、ほとんどがギルド嬢だ。
「私が手伝いますよ」
マルチェリオさんが手を挙げた。
「魚や野菜の目利きなら、ある程度できます。それに、商人同士の繋がりもありますから、怪しい人物の情報も集めやすい」
「本当ですか!?」
「ええ。この街のためですから」
マルチェリオさんは優しく笑った。
「ありがとうございます!」
「もし、怪しい人を見つけたら俺に教えてください!」
そのときは【読心】を使わないとな…
「じゃあ、さっそく明日から始めましょう」
ハーレンが立ち上がった。
「市場に看板を立てて、登録を呼びかける。俺が仕切るよ」
「お願いします」
俺は拳を握った。
魚事件は終わっていない。
むしろ、ここからが本番だ。
同じことは2度と起こさせないーー
*話し合い後*
みんなが解散した後、俺はマルチェリオさんに相談することにした。
「マルチェリオさん、出入りを制限すると言っても、いろんな方法がありますよね?壁を作るとか、証明書を持たせるとか」
「ルカ君、そこにはデメリットが存在するんだよ。
前者は街の規模を広げるのに制限がかかってしまうし、後者は時間がかなりかかってしまう」
ーー今の状況だと待ってられるような時間がない。
見た目上の措置でしかないが…
「……状況的に時間がないので、壁を作ります」
マルチェリオさんは眉をひそめた。
「まぁ、それはいいんだけど、こんなに厳しくしたら、これからの商人が来づらくなるかも…」
「そうですよね…」
厳しくしすぎるのも、市民に供給する機会を失ってしまう…
安全を取るか、自由を取るか。
その選択の重さが、胸に圧迫感となってのしかかる。
それでも、俺は決めなくてはいけない。
領主として。
重い足取りで、大工ギルドへ向かった。
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