第890話迷宮宇宙63
マズイな…このままじゃ負ける…
それがリーゼの結論だった。
ミグはたしかに瞬間的には自分の神格エネルギーを超えることもあるが、今のところ対処はできている。
問題はいずれ必ずくるであろう、対処できない攻撃だ。
この程度の神格エネルギーなら対処するのは余裕…
未来予知ではどのタイミングで神格エネルギーが膨れ上がるのかが手にとるようにわかる。
そう。
リーゼはミグの神格エネルギーが膨れ上がるタイミングを完全に予知することで、あらかじめ起動上に概念を配置することで攻撃を逸らしていたのだ。
起動上に仕掛けた概念をもろともしないような爆発的な上昇…
もしくは細かい上昇が継続して5連…いや、10連まではなんとか間に合うが、それ以上続けば起動上の概念を仕掛けるのが間に合わずに詰む…
リーゼはそんなことを考える。
そして触れたら終わりのこの状況では吸命の概念はまず使えない…。
こんな時パパならどうする?
パパならたぶん神帝の絶対領域の中を動き回ることでジワジワとなぶり殺す…
100%勝てるわけではないが、奇跡に奇跡が重ならない限りパパの勝利は揺るがない。
ほぼ確実にミグがパパに触れるよりミグの最大神格エネルギーが空になる方が早い。
神帝憑依も合わせればさらに負ける可能性は減少するだろう。
でもこの方法はリーゼは使えない。
リーゼはパパと違って選ばれたアラウザルゴッドではない。
リーゼはそんな事を思うが、生まれてからたったの2万年足らずで領域発生を獲得したばかりか、現役のアラウザルゴッドの一角を追い詰め、全力戦闘を余儀なくさせる時点で紛れもない天才だった。
リーゼは真後ろの扉を見る…
勝つのはたぶん無理…
なら逃げる?
いや…この先にはパパが…
でもミグはあの状態は長くは持たないはず。
ミグの攻撃を捌きながらリーゼは考える。
リーゼの基本的な神格エネルギーは現在はミグよりも上だ。
当然読心も通じる。
それによると、神帝の覚醒概念を発動したとしても無限転生状態は長くはもたない。
そしてインターバルもそこそこ必要なようだ。
先程ミグがパパに会えないと言ったのはそういう意味だろう。
「!?っ」
他のことに気をとられながらもリーゼの処理は完璧だった。
にも関わらず攻撃を喰らいかけた…
さっきのミグの神格エネルギーは4000近かった…
8連で概念をぶち当ててほんの僅かに軌道を変えても間一髪といったところだった。
「このまま負けたら………ううん…そんなバカな参謀はいらない……ごめんねパパ…不甲斐ない娘で…」
ポツリ…
そう言ったリーゼの行動は早かった。
未来予知でミグの行動を完全に読み切り、フェイントを混ぜながらリーゼは扉に飛び込んだ。
「逃がすかぁぁぁっ!!」
対するミグも恐ろしい勢いで後に続く。
こうしてミグ、リーゼ共に第六階層に足を踏み入れるのだった。




