第275話白と青5
神の速度で1秒間に数え切れない程の攻防が繰り返される。
攻撃に転じているのはシーラ・ベルネイア…
対する守備に徹しているのはエリス…
最初の一撃以降、エリスにダメージは通っていない。
当然だ。
神級スキルの性能で最初にエリスに僅かなりともダメージを与えられたのは、エリスが正面からシーラに攻撃をしかけたからだ。
完全に守備に徹したエリスを抜ける程、2人の実力はかけ離れていなかった。
「かわいくないなー。ちょっと前までウチに殺されかけてたのに。守ってばっかじゃウチの事殺せないよ?いいの?ラグアの犬なのにラグアの命令守らなくて?所詮ラグアはお前にとってそれだけの存在って事でしょ?」
その言葉にエリスは口角を吊り上げる。
明らかな挑発…
普段の自分なら逆上してもおかしくはない。
だが…
「無論貴様は殺す。そしてその挑発は少し遅い。ちょうど時間切れの様だ」
「新手?えーっと、反応は…」
シーラはそこで一度言葉を切って索敵に集中する。
「…は?」
そこでシーラは固まった。
「6?多くないっ!?嘘でしょ?いやいやないって!?神級クラス同士で6対1で袋叩きとかさすがにないって!!」
シーラはここにきてはじめて動揺を見せて言った。
その瞬間次々とシーラの前に現れる六つの影…
カティア、シュドレ、バルト、フィローラ、シオンそしてフィリア…
このメンバーの中でフィリアの場違い感は半端ではないが、シーラにはそんな事を気にしている余裕すらなかった。
「カティア様、フィローラ様、バルト様、わざわざお呼びたてして申し訳ございません。フィリア、シオン、シュドレもわざわざ悪かったな」
エリスは集まったメンバーに言った。
当然その間、シーラも黙って待っていたりはしない。
そしてこの状況でとる当然の選択…
逃亡。
それがシーラの結論だった。
「形状変化、水」
シーラの体が一瞬にして液状化する。
シーラは転移を使わなかった。
いや、使えなかったのだ。
シーラの神級スキル、水天の神は戦闘にこそ特化しているがそれ以外の能力は万能型の神級スキルには勝てない。
転移などもっての他だ。
使用できないならまだいい。
最悪書き換えられて敵の中心に飛ばされて袋叩きである。
シーラはそんな危険な賭けである転移を使用するわけにいかなかった。
かといって戦うなどという選択肢はそもそもありえない。
戦闘特化こそしている水天の神だが、それでも6対1で無双などできるわけがない。
おそらく2対1程度なら同格相手のため、やや不利だが善戦はできるだろう。
だが、6対1など論外だ。
同時発動したそれぞれの神級スキルの対処さえもまともにできやしない。
シーラの液状化した体が戦闘の余波で露わになった土の部分に染み込みはじめる。
このまま地中に逃げてしまえばなんとかなる。
シーラは思った。
「あら?あたしがいる事を忘れてるみたいね?」
その言葉が放たれると同時にシーラの液状化は強制的に止まり、シーラは下半身を地面に突っ込んだ情けない状態のまま驚愕する。
「いい機会みたいね。中級神と上級神の格の違いを見せてあげる」
現、魔王ラグアの特別幹部…シオン・ヴェルゾアスは言ったのだった。




