第20話 竜眼
――――ルイシャが無限牢獄内で修行を始めて約200年経った頃。
いつも通りリオと修行していたルイシャは、リオと手合わせした時に疑問に思っていたことを休憩中にリオに聞いた。
「ねえリオ。リオって相手の動きが読めるの? 手合わせしてる時明らかに僕が動くより早く行動してる時があるよね?」
「む、それに気付くとは成長したのルイ。いいじゃろう。特別に教えてやるのじゃ!」
リオは嬉しそうに大きな尻尾をブンブン振りながら説明を始める。
「我ら竜族。その中でも戦闘に特化した者は『竜眼』と呼ばれる特殊な眼を持っておる」
「『竜眼』? 『魔眼』じゃなくて?」
「うむ。魔力を可視化できる魔眼と違い、竜眼は生命力や気功を可視化することが出来るのじゃ」
えっへん。とリオは自慢気に竜眼のことについて語る。
しかしルイシャにはそれがどんな強みを持つのかわからずきょとんとしていた。
「なんじゃ、反応が薄いのう」
「え、あ、ごめん。いまいちどう言う風に役立つのかピンとこなくて」
「かか、まあ実際に竜眼を会得せんとこの凄さは分からんか」
リオはそう言って竜眼の強さをルイシャに説明する。
「竜眼を会得した者は相手の気の流れや筋肉の動きが見える。つまりそれは相手がこれからどう動くかがわかると言うことなのじゃ。拳に力を込めていれば相手が殴ってくるのが分かるし、相手が蹴ろうとしていても足に力が入ってなければそれがフェイントだと見破ることが出来る」
「じゃ、じゃあ相手の動きが読めるようになるってこと!? すごいね!!」
「かか、そうじゃろうそうじゃろう」
目をキラキラ光らせながら竜眼を褒めるルイシャを見てリオは鼻高々だ。
無い胸をこれ以上ないくらい張っている。
一方ルイシャはある事実に気づき少し落ち込んでいた。
「でも竜眼って竜族じゃ無いと手に入らないんだよね……? 僕もその力欲しかったなあ」
ルイシャがそう残念そうに言うと、リオがガバっ! と勢いよくルイシャの肩に腕を回してくる。
「かか! 安心せい。お主も使えるようになるわ!」
「え? そうなの?」
驚き戸惑うルイシャにリオは当たり前じゃ、と優しく教える。
「お主には長い時間をかけてゆっくりと竜族のみが持つ気功『竜功』を体内に流し込んでおる。あと100年もすれば体に完全に定着して竜族の力を振るえるようになるじゃろう」
「ぼ、僕に竜族の力が!? すごい!!」
竜の力が手に入ると言う少年なら誰でもテンションの上がる展開にルイシャは興奮する。
リオもそれを見て嬉しそうにうんうん頷く。
「しかし竜族の力は簡単には目覚めんぞ。お主が命の危機や、本当に戦う意志も持った時じゃないと目覚めんじゃろう。本当ならわしが目覚めさせてやりたいんじゃが、お主を命の危険に晒すなど今のわしには出来んからの」
リオは恥ずかしそうに鼻先を掻きながらそう言う。
「リオ……」
「ま、まあとにかくじゃ! お主の身体の中にはわしら竜族の力が深い所まで行き届いておる! じゃからもし外の世界に出ても安心せい。必ず竜族の力がお主を助けるじゃろう」
そう言ってニカっとリオは笑顔をルイシャに向けた――――
「ありがとうリオ。これがリオの見ていた景色なんだね」
竜眼のことを思い出したルイシャは、気の動きを見ることが出来るようになった右目で世界を見渡す。
今なら小さな虫の小さな気ですら見て感じ取ることが出来る。
大きな気を持つ目の前の相手ならなおさらだ。コジロウがどう呼吸してどこを見ていて次にどんな攻撃をするかまで手に取るようにわかる。
そしてコジロウも竜眼に見られていると、まるで頭の中まで覗かれてるような気分を味わっていた。
まるで竜に睨まれた獲物のように足が重い。
しかし彼の『剣将』としてのプライドがそれを跳ね除けた。
刀を構えルイシャに突進したコジロウは幾重にフェイントを織り交ぜながら斬りかかる。
普通であればどれが本命の斬撃なのか分からない熟練の剣捌き。
しかし。
(これはフェイント、力が全然入ってない。本命は上段からの振り下ろし……見せかけて距離を取っての突き技。これだね)
竜眼が開眼したルイシャにはどれが本命の攻撃なのかバレバレだった。
本命の突き技を少し体をよじって躱したルイシャは突き出されたコジロウの腕目掛けて竜王剣を振るう。
「……せいっ!!」
竜族の力が覚醒したことで今のルイシャは筋力も上がっている。
その人間離れした膂力で、気功で防御力を上げているコジロウの手に斬りかかる。
「――――がぁっ!!??!?」
突然の灼けるような痛みにコジロウは苦悶に顔を歪める。
傷の具合を確かめようと剣を握るはずの右手を確認する……が、なんとコジロウの手首より先は綺麗に切断され無くなっていた。
そして切り落ちた手首と、切断されてなおその手に握られている刀はルイシャがキャッチしていた。
「き、貴様ァ!!」
「僕を殺す気だったんだ。手を一つ切り落とされたくらいでそんなに怒らないでよ」
そう言ってルイシャは開眼したばかりの竜眼でコジロウを睨みつけるのだった。





