閑話7 変わる
「へえ、私とやろうってんだ? いい度胸ね、その思い上がり叩き直してあげる……!!」
殺気を剣に宿らせシャロ目掛けて突っ込んでくるエレナ。
それを見たルイシャは「速い!」と驚愕する。
村にいた頃から強かったエレナだが、今の強さはその時の比ではない。
今まではその才能の上に胡座をかいていたが、ルイシャを見つけるためエレナはこの数ヶ月初めて努力をした。
更に冒険者生活での実戦の日々。その生活は燻っていた原石を宝石へと磨き上げた。
「死にな……さいッ!!」
遠慮なく放たれる横薙ぎの一閃。
常人であれば視認することもできないその剣閃だが、シャロはそれをしっかりと見極めると剣の腹で滑るように受け流す。
「ふふ、そんな独り善がりな剣じゃ私もルイも倒せないわよ?」
「……黙れッ!!」
挑発を受けて更に勢いを増すエレナの剣撃。
しかしまるで雨のように降り注ぐその斬撃をシャロは冷静に全て受け流していた。
「くそくそくそッ!! なんで当たらない!?」
歯噛みするエレナ。
自分の攻撃が当たらないことに苛立つ彼女の攻撃は段々大振りになってくる。
その隙をシャロは見逃さなかった。
「――――そこっ!!」
剣撃の間を縫い、シャロは鋭い蹴りを放つ。
エレナの右脇腹に命中したその蹴りの衝撃は肉を貫通し、肝臓にまで達する。
衝撃を受けた臓器は悲鳴を上げ、エレナの脳に痛みを告げる。
「ぐッ……!!」
思いもよらぬ反撃にエレナは苦悶の表情を浮かべ、言葉にならない嗚咽を漏らす。
それを見たシャロは一気に攻め立てる!
「桜華勇心流……勇桜邁進!!」
シャロはまるで風に舞い散る花弁の如き量と勢いの斬撃を放ちながら突進する。
最初はそれをそれを正面から受け止めていたエレナだったが、徐々に押され始める。
「ぐ、こんな奴にぃ……!!」
防ぎきれなかった斬撃がエレナの肌を薄く斬りつける。
このままではマズいと悟ったエレナは歯噛みしながら後退し、斬撃の雨から逃れる。
「あら、降参かしら?」
「ふぅ、ふぅ、そんな、わけ、ないでしょ!」
肩で息をするエレナに対しシャロは涼しい顔をしている。
どちらが優勢かは明白だ。
「絶対にお前だけは許さないっ……!! よくも私のルイシャを誑かしてくれたわね……!!」
依然見当違いの怒りを向けるエレナをシャロは哀れみの込もった目で見る。
あいつは……昔の私だ。
自分の才能に驕り、気に入らないことがあると癇癪を起こして力で解決しようとする。
あいつの今の姿は入学試験でルイシャに因縁をつけた自分にそっくりだ。
違いがあるとすればルイと出会って変わったことだけ。
あいつは変わることを拒みルイを支配しようとし、私はルイに変えられお互いを高め合う道を選んだ。
だとすればあいつはルイに出会わなかった未来の私。
同情はする……でもだからといって手心は加えられない。
シャロは今一度エレナを倒す決心をすると、剣を鞘に戻した。
それを見たエレナは戸惑う。
「……なんのつもり?」
「あんたを倒すのに剣は必要ないって言ってんのよ」
「――――――――ッッッ!! 殺すッ!!」
恐ろしい形相で突っ込んでくるエレナ。
しかしこれこそシャロの思う壺。怒りに身を任せた攻撃ほど躱しやすい攻撃はない。
恐ろしい速さでエレナは剣を振るうが、完全に動きを見極めていたシャロは軽やかにジャンプしその攻撃を避ける。
そしてそのまま空中で体を捻り、隙だらけとなったエレナ目掛け蹴りを放つ。
「気功術攻式参ノ型……不知火ッ!!」
超速度で放たれたシャロの蹴りは摩擦で火を帯びる。
火矢と化したその蹴りはピンポイントでエレナの顎に命中する。
「なっ……」
何が起きた。それを言う前にエレナの意識は切れる。
エレナの顎を襲った衝撃は彼女の脳を超速度で揺すり、脳震盪を引き起こしたのだ。
ぐるん、と白目を剥いたエレナはそのまま地面に倒れ動かなくなる。
一方空中で見事な蹴りを放ったシャロはスタッとこれまた綺麗に着地し、ルイシャに振り返った。
「いえいっ」
シャロはそう言ってルイシャにVサインを送り、ニコッと笑うのだった。





