第14話 激闘を終えて
「終わっ……た……」
激闘を制したルイシャはその場に膝をつく。
全身がボロボロで体力はもう底をついている。戦闘が終わりアドレナリンが切れたことで体も痛み始めている。
これ以上長引いていたら倒れていただろう。
ルイシャが気を緩めると、役目を終えた無限牢獄が徐々に崩壊していく。
異空結界の維持は心身にかかる負荷が大きい。これを維持しながら戦うことができたのは厳しい修行の成果と言っていいだろう。
「見事です。称賛しますよ」
「えっ」
突然の声に驚きそっちを見てみると、そこには倒れているレギオンがいた。
顔を動かす力も残っていないのか、仰向けで真上を向いているが、目はうっすら開いている。警戒するルイシャだが、その体がもう消えかかっていることに気がつき、警戒を解く。
「そう、私はもう動くことすらできません。放っておけば消えますよ」
ふふっ、と自嘲するように笑うレギオン。
その体からは魔力がどんどん抜け落ちていく。どうやら消えるのは嘘ではないみたいだ。
「自らの力に驕った者の哀れな末路……といったところでしょうか。主のお役に立てなくなってしまうのは口惜しいですが……不思議と嫌な気分ではありません。まさかこんなに穏やかに死を迎えることができるとは思いませんでしたよ」
レギオンは満足そうに言う。
負けたこと自体は悔しいが、彼らは死力を尽くし戦い切った。余計な考えは全て抜け落ち晴れやかな気持ちになった。
ルイシャはレギオンの横に立つと、彼を見ながら呟く。
「……貴方のしたことは許せません。ですが、貴方のおかげで僕はまた強くなることができました。そのことについては感謝します」
ルイシャの言葉に目を丸くし、驚いたような表情を浮かべるレギオン。
そしてその後「ふふっ」と楽しげに笑い、彼は消えていく。
「あのお方の言う通り……本当に面白い少年でしたね」
レギオンの体が完全に消滅し、無限牢獄も崩れなくなる。
こうしてルイシャのリベンジマッチは、無事彼の勝利で幕を閉じるのだった。
◇ ◇ ◇
「ルイ!」
「わっ!?」
無限牢獄が崩壊し、もとの世界に戻ったルイシャを待ち受けていたのは、シャロの熱い抱擁だった。彼女はわんわん泣きながらルイシャに激しく抱きつく。
「ばか! ばかばかばかばか!」
「しゃ、シャロ?」
シャロは口ではそう言いながらもルイシャに体をくっつけ甘える。
すでに体力が限界の彼は倒れそうになるが気合いで踏ん張り、彼女のことを抱き返す。
するとそんな彼のもとにアイリスも近づいてくる。
「ルイシャ様……っ」
彼女は目に涙をためながら、シャロと同じように抱きついてくる。
ルイシャはそんな彼女に「ありがとう、大変だったよね」と労いながら頭をなでる。すると周りの目が自分に集中していることに気が付き、恥ずかしそうにする。
そんな中、一人の人物がルイシャに近づいてくる。
「終わったようだな、ルイシャ殿」
「コジロウさん! お久しぶりです!」
久しぶりに再開するコジロウを見て、ルイシャは嬉しそうにする。
「コジロウさんが手伝ってくれて助かりました。本当にありがとうございました」
「拙者はルイシャ殿に救ってもらった。この程度当然のこと。また手が必要ならいつでも呼んでくれ、例え地の果てでも馳せ参じよう」
「コジロウさん……はい。頼りにさせていただきます」
ルイシャと会話をしたコジロウは、王都の方に去っていく。
そして再び手枷をはめられると、牢に戻っていく。その姿は非常に堂々としたものだった。
それを見送ると、今度は王国騎士団長のエッケルが近づいてくる。
「また君に助けられてしまったな。例を言わせてほしい、王都を守ってくれてありがとう」
「いえいえ、そんな、やめてください。レギオンは僕たちが呼んでしまったようなものですから、僕が対処して当然です」
自分たちがいなければ王都が襲われることもなかった。
そう思っていたルイシャは負い目を感じていた。
しかしエッケルは首を横に振ってそれを否定する。
「そんなことはない。創世教はなにかを企んでいる。今回の一件でそれを確信した。きっと君たちがいなくてもいずれ王都は襲われていただろう」
「そう……ですかね。分かりませんが、お役に立てたなら良かったです」
戦いには勝ったが、ルイシャはまだ完全に気を緩めることはできなかった。
創世教がなにかを企んでいるのは間違いない。レギオンを倒すことはできたが、彼が崇拝する『神』のことはまだなにもつかめていない。
このままその神を放置すれば大変なことになる。ルイシャはそう直感していた。
「とにかく、後で陛下の部屋まで来てくれ。今後のことを話したい。よいか?」
「分かりました。……あ、それと少し聞いていただきたいことがあるのですが」
「ん?」
ルイシャは他の人に聞こえないよう、エッケルに耳打ちする。
するとエッケルは驚いたように目を見開く。
「それは本当か? 確かにそうだとすれば辻褄が合うが」
「はい。それを確かめるためにお力を貸していただきたいんです」
「……分かった。私もそれは気になるところ。力を貸そう」
ルイシャの話を聞いたエッケルは、ルイシャの提案に乗ることを約束する。
「その話も大事だが、今日のところは一旦休むといい。王城の客室を用意するからそこで休んでくれ。食事と薬も手配しよう」
「ありがとうございます。実はもう、立っているのもやっとで……」
シャロとアイリスに抱きつかれているルイシャの足が、子鹿のようにぷるぷる震える。今にもその場に倒れてしまいそうだ。
「大将、それじゃあ俺が手を貸しますんで一緒に」
「うん、助かるよ。よろしくねヴォルフ」
こうして激闘を終えたルイシャは、王都へ戻ったのだった。





