格好良いね
それからサクヤと他愛もない話をしていると店員のお姉さんが食事を運んできた。
「お待たせしましたー」
「ありがとう」
「あ、はい。ごゆっくりどうぞ♪」
店員さんは少しだけ驚いた顔をしてから嬉しそうにはにかむと、一礼してから奥へと下がっていった。
「今の店員さんとても機嫌が良さそうだったね――ん、どうかした?」
店員さんを目で追いながらつぶやくと、いつもと違いサクヤからの反応が無かった。不思議に思いサクヤの方を振り向くとこちらをじっと見つめていた。
「な、何?」
「いや、なんでもない」
「なんでも無くないでしょ。気になるよー」
思わせぶりな笑みを浮かべながら言われても、流石にまったく説得力がない。
「はは、すまない。本当に大したことじゃない。さっきの店員が嬉しそうにしていたのはティーナに感謝されたからだよ」
「そうなの?」
「この店は冒険者の客が多いから、面と向かってありがとうと言う客は珍しいんだ」
「えっ? 見た感じは女性客ばかりだけど」
「そうだな、ほとんど冒険者だ。大体は見覚えがある」
店内を見渡しても荒々しい装いをしている客は一人もいない。どちらかと言えば町娘の女子会といったほうがふさわしいくらいに見える。このお店はカトリに教えてもらった店で、私は初めて来たからそういった事情は知らなかった。
って、ん?
「それって私も冒険者だと思われてたってこと?」
「それは仕方がないさ。私が一緒にいるんだから勘違いされないほうが難しい。だがまあ、さきほどのやり取りで勘違いは解けたんじゃないか?」
「うー、まあ良いんだけどね」
「誰が始めたのかは知らないが、この店は冒険者らしくない格好で来るみたいだ」
「カトリってば、そんなこと一言も言ってなかったよー」
「はは、驚かせたかったのかもしれないな」
確かに、少し驚いたからカトリの思いがサクヤの言う通りだったなら成功したってことなんだろうね。
「それより、そろそろ食べないか?」
「あ、そうだね。冷製のリゾットかあ、どんな味なんだろう?」
「この店には何度か来ているが、カトリがおすすめする気持ちもわかるくらいには美味しいぞ」
「楽しみー」
この暑い中で、しっかりと身体の熱を冷ましてくれそうな食べ物というだけでも楽しみなのに、味もカトリが太鼓判を押しているのだから期待しないほうが難しいと思う。
スプーンでひとすくいして口に運ぶ。いつものようにふぅふぅして冷まそうとしてしまったのはご愛嬌。
「おいしーい!」
「だろう? この店のシェフは元冒険者なんだが、ある日急に料理に目覚めて引退してしまったんだ。気がつけば毎年この季節には冷製のリゾットが大人気だ」
「これだけ美味しいなら納得だよ。あれ、でも何年も前からどうやってこんなに冷やしてたの?」
「氷属性の魔法だ。冒険者時代は【氷棺姫】の二つ名が付けられる程に有名だったよ。私も彼女に憧れて冒険者になったようなものだからな」
「【氷棺姫】って格好良いね」
「ああ、本当に格好良かった。」
しみじみと思い出を話すサクヤを見て自然と笑みが溢れる。思いがけずサクヤの一面を知ることが出来たことが嬉しかった。ただ、それを聞いたことでちょっとした罪悪感が湧いてきてしまう。
「あれ、それじゃあさっきの果実ジュースも?」
「いや、魔力節約のために冷凍庫や冷蔵庫を購入したらしい。これまでは仕込みから全て自分の魔法だけで冷やしていたから、それほど長い時間は営業できなかったからな。今のところは影響はあるが、冷凍庫や冷蔵庫の恩恵も大きいから結果的にプラスにはなっているって言っていたよ」
「よ、よかった……」
次話くらいから少し話が進むと思います。
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