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不名誉な恩恵、授かりました~聖女になれず婚約破棄されたので隣国でのんびり暮らすことにしました~  作者: ワイエイチ
異世界召喚

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閑話 召喚の儀4

 大司祭様から発せられているのは明らかな敵意。その視線の鋭さに少し怯んでしまう。あの森を旅した時にも数え切れないほど感じた恐怖が蘇ってしまいそう……。


「わ、わたしはっ! 聖女の役目を引き継いで――」

「貴方の言い訳など聞いていません。いや、そうですね……。黄金のように輝く満月は綺麗でしたか?」


 大司祭様からの急な問いかけに困惑してしまう。でも、何も答えないわけにはいかない。


「は、はい。これまでに見たこともないような――」

「見たこともないような?」

「えっと、まるで本物の黄金のように輝く満月で――」

「そこまでで結構です」

「えっ?」


 ほんの少しだけ期待が込められたような視線が向けられたけど、その微かな輝くはあっという間に消え去ってしまった。そして顔を下げて大きなため息をつき、沈痛な面持ちでこちらに向き直る。


「……偽物の聖女である貴方にはわからないでしょう。ですが召喚の儀が行われている最中、本来の聖女様にはあの満月は赤く輝いて見えるのですよ」

「そ、それでは本当に?」

「はい、この女は間違いなく偽物です」

「な、なんということだ……」


 身体を震わせながら国王陛下がつぶやく。


 その様子を見て、さらなる恐怖心が私の思考を支配する。自分の失態に気がつきはしたものの、すでにごまかせるような状況じゃない。どうしよう、どうしたらいいの?


 少しだけうつむき、助けを求めるように視線を巡らせるとルーリオの姿が目に入った。記憶にある、いつも冷静で自信に満ち溢れていた彼の姿はそこにはなく。狼狽えた様子で、両隣に居るキャンディールとダイナスに耳打ちをしていた。


 ああ、せめて彼だけは、愛しいあの人だけは守らないと……。


 勇気を出して顔を上げて、国王陛下と大司祭様を見る。しかし二人の視線はすでにこちらには向いていなかった。


「――ルーリオ・レンティーノ! これはいったいどういうことだ!」

「ひっ!」

「も、申し訳ございません!」

「……へ?」


 ルーリオの悲鳴のような声を聞いた瞬間、震えていた身体に微かに力が戻った。弾かれるように急いで舞台に両膝をつき、うずくまるように頭を垂れて声を張り上げる。ルーリオは今、どんな顔をしているだろう……。


「この度の一件はすべて私が計画したことでございます! 聖女ティーナ様の放逐、そして偽聖女としての偽証。お慕いするルーリオ様の気を惹くために、その恩寵を得んがために、すべて私が画策いたしました!」

「……貴様、自分が何を口走ったかわかっているのか?」

「は、はい!」


 たったこれだけの言い訳でルーリオの助けになるとは思えないけど、これは今の私にできる精一杯の抵抗。それに、正義感の強いルーリオのことだからきっと、私のこの行動は意味をなさな――。


「そ、そうです! この度の一件、私は一切関与しておりません! 森の奥深くを旅した際にティーナ及びセリア両名とはぐれてしまい。必死の捜索によってセリアを発見した時にはティーナの姿はありませんでした。ティーナの遺言はそこにいるセリアから聞いたものでございます」

「えっ?」

「せ、セリアよ! そなた、私を謀ったのか!?」


 一瞬、自分の耳を疑った。……あそこに居る歪んだ表情を見せている男性は誰? ルーリオの姿を形どった別人? ううん、きっとルーリオは私の覚悟に気がついたんだ。だから苦渋の決断で私の話に――乗ったの?


 でも、ティーナ様は私達と帰還した。今もこの国の何処かで生きているはずなのに、どうしてルーリオはこんな話に……。ううん、だめ。もう賽は投げられたのだから、私は彼のためにすべての責任を負うんだ。ルーリオの話に合わせるしか……。


「も、申し訳ございません。我が身可愛さにティーナ様を……」

「茶番は結構です」

「い、いえ! 決して茶番では――」

「言ったでしょう。召喚の儀は成功した、と。つまり真の聖女であるティーナ様はどこかで生きておられる。そうでしょう? ルーリオ殿、つじつまの合わない虚言で逃げられるとでも思っていましたか?」

「わ、私は虚言など弄していない! そこのセリアが私の目を欺いてティーナを殺したに違いない!」


 ルーリオの言葉を聞いて、大司祭様が首を左右に振る。そして右手をゆっくりと上げて――。


「この反逆者共を捕らえなさい!」


 大司祭様の命令に従い、舞台の両脇に立っていた神官騎士達が駆け寄ってきた。私はすでに抵抗する気力もなくなり捕縛された。ルーリオ達は少しだけ抵抗したけど、ものの数十秒後には無力化されて私と同じように地面に組み伏せられてしまった。


 国王陛下がルーリオに歩み寄る。


「この愚か者共めが。覚悟せよ。処刑などという生易しいもので終われると思うな」


ひとまずここで閑話を区切ります。

次話からは新章となります。


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