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不名誉な恩恵、授かりました~聖女になれず婚約破棄されたので隣国でのんびり暮らすことにしました~  作者: ワイエイチ
汚された恩恵

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閑話 巡礼の旅を終えて2

 身支度を終え、私達は謁見の間の前へと案内された。別室で着替えを終えたセリアも既に合流している。……先程は不覚にもセリアの清楚な御姿に見惚れてしまった。あれこそが聖女としての風格なのだろう。


 聖女巡礼の旅では、綺麗なドレスを着せてあげられる機会はなかった。もちろんその前もだ。だから、私にとってもこれほどまでに素敵なセリアの姿を見たのは初めてということだ。彼女と初めて会った時に感じた震えに近い感覚を覚えてしまう。


 今のセリアの姿は、正に聖女にふさわしい。


「聖女様御一行、謁見の間の中では粗相のないように」

「委細承知しております」


 私の返答を受け、扉がゆっくりと開き始める。扉の隙間から謁見の間が見えた。そしてその先には――。


 一瞬、自分の足が震えるのがわかった。伯爵家の跡取りという立場でも、これほどの舞台に立つことなど早々あるわけではない。一斉に向けられた視線をただ受け止めるだけでも一苦労だ。しかし、私が臆してしまえばセリア達も前に進むことができない。


 気持ちを引き締めて一歩ずつ歩を進めて前に出る。そして予め決められていた位置までたどり着き、玉座の御前で片足を立ててひざまずく。


「――長旅、ご苦労であった。皆のもの面をあげよ」

「はっ!」


 促されるまま顔をあげると、段の上には玉座が目に入る。今回の謁見には国王陛下はいらっしゃらない。今、声を掛けてきたのは元老院の者だ。玉座の右脇に元老院の重鎮が数人、視界に入る。普段はなかなかお目にかかれないような方々だ。


 この場で喜びの表情を見せるわけにはいかないので、努めて冷静な表情を作って居たのだが、ふと違和感を覚える。


 ……誰一人として私の姿を見ていない?


 謁見の間にいる者達の視線は全て、私ではなくセリアへと向けられていたのだ。入場の際に感じた視線も、私ではなく後ろのセリアに向けられたものだったということか……。確かにこの場における主役は聖女であるセリアで間違いない。嫉妬を覚えなくもないが、こればかりは仕方があるまい。


 失礼にならないようにではあるが、注意深く元老院の重鎮達を観察する。はじめは期待に包まれたような視線をセリアへと向けていたが、次第にその表情は困惑へと変わっていく。そして、隣の者達と視線を交わした後、その視線は初めて私へと向けられた。


「……はて、聖女ティーナ様は何処へおられる?」


 やはり来た。しかしこれは想定の範囲内の問いかけなので問題はない。


「聖女様はこちらに」


 そう言って、皆の視線をセリアへと促す。この方達もセリアのこの姿をよく見ればきっと満足してもらえることだろう。


 ……しかし、元老院の者達の視線はセリアへと向くことはなかった。


「貴様は何を言っておるのだ? ティーナ様の姿が見えないようだが、一体どういうことだ。聖女巡礼の旅を完遂し、無事にこの地まで戻ったのではないのか?」

「で、ですからこのセリアが聖女様に――」

「くどい、ティーナ様は何処だ!?」


 老人たちの様子は困惑から怒りへと変わりつつあった。このままでは不味いという焦りが頭の中をかき混ぜる。だ、大丈夫だ。この日のためにあれだけ考えたのだ。


「……落ち着いてお聞きください。ティーナは残念ながら旅の途中で命を落としました」

「な、何ということだ! 貴様、それがどういうことかわかっているのか!?」


 つい先程まで怒りの表情を浮かべていた元老院の方々が明らかに狼狽し始める。確かに聖女様が居ないとなれば大きな問題だろう。しかし大丈夫だ。


「お、落ち着いてください! 確かにティーナは命を落としました。しかし、私達はティーナの遺言に従い、セリアを聖女とすべく聖女巡礼の旅を完遂いたしました」

「ゆ、遺言……だと?」

「は、遺言ございます。彼女は死の間際においても国を思い民を思い、気丈でありました」


 遺言、この言葉は元老院の年寄りたちの心を十二分に揺さぶってくれたようだ。ここから畳み掛けて現状を受け入れてもらうことにしよう。全ては私とセリアの未来のために……。




 時間は掛かったが、なんとか元老院の方々を説得することに成功した。十全に納得してもらえたかといえばそうではないが、【聖女候補の遺言】という方便、そして役目継承の際に【空から一筋の光が】とか付け足したり、目的地である教会から持ってきたいくつかの取得物を見せることで、巡礼の旅の完遂をアピールした事が、彼らを最低限ではあるが押さえつけてくれたようだ。


 そして朗報だ。ティーナ・レリクスとの間にあった婚約も、そのまま聖女セリアへと移行することとなった。まさかこんな簡単に説得できるとは思ってもいなかったが、動揺も合って目立った反論はなかった。私としては成功した以上はなんの文句もない。


 今は元老院の上役であるワイルダース老が、これから予定されている多くの式典や祭事に関する説明を行っている。一番大きな仕事を終えた達成感で気が緩んでしまった事で話の半分も耳に入ってこないが、他の皆がしっかりと聞いておいてくれるだろう。


 ここまで来るのに多くの時間を費やした。だがそれらの苦労も近い内に全て報われる。これで私は、正式に聖女セリアと結婚することが――。


「では、今説明したとおり召喚の儀は次の満月の夜に行うこととする」


 ……召喚? 何を?


ひとまず閑話はここまでということで、次話からは次章が始まります。


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