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妹のためならこれぐらい!  作者: ツンヤン
お姉さまのためならこれぐらい!
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地獄から天国へ

この物語はフィクションです。このようなことが本当にあると思わないで下さい!

 親に捨てられた。そう実感するには年齢が邪魔をする。

 3歳で孤児院に引き取られた私は、母親と父親に言われ、きちんと迎えに行くから。という約束を信じて待つことにした。

 だけど、時間が経って、知識が増えていけば捨てられたのだと悟る。周りの子達も一緒で、捨てられた。そういう認識しかない。

 性交。

 これを習うのは小学校に入ってからで、幼稚園にも行けなかった私にとっては、毎晩、行われている行為がなんなのかわからなかった。

 知らないおじさんがやってきたと思ったら、私と同じ布団に入ってきては、耳を舐めて来たり、なにか汚いモノを擦りつけてきたり。

 孤児院にいる女の子はみんな、私と同じようにおじさん達と一緒に眠るのだ。

 もちろん、歯向かえば怒られ、丸1日ご飯が食べられない。だから、私が居た孤児院は女の子が多かった。もちろん男の子も居たけど、その子達は学校から帰ってきたら内職に励むように指示されている。

 もちろん内情をバラそうとした子も居たそうだけど、揉み潰されて、どこか別の部屋に連れて行かれ、その日の夜は叫び声が部屋中に響く。それが一種の見せしめであり、なにも言うなよ。という園長からの威圧でもあった。

 汚い。気色悪い。臭い。

 でも、誰にも言えない。それは周りの子も一緒で、生きていくには言われたように、ただの人形であるしかなかった。

 母さんと父さんに出会ったのは7歳の時。

 今でも忘れらない。老いても絶対に忘れない。

 捨てられた。から、売られた。そう認識した数日後の話。

 いきなり車に乗ってやってきた男の人と女の人。

 園長が丁重におもてなししているのを見て、前にも来たことがある政府の人かと思い、あまり気にしなかった。けど、この孤児院に私よりも長く居る子が小さい子達を施設の中に強制的に戻させる。そして、隠すように部屋へと連れて行く。

 私はただ、やってきた2人を見続けた。

 政府の人と比べて、服装がやけに安っぽい。スーツを着ていない。だから余計に気になった。

 女の人が園長とお話しているのを見て、すごく笑顔が自然で、同性の私から見てもとても綺麗な人。

 でも、この人達も子供を売りに来たのかと想像すると、この笑顔も嘘なのかもしれない。自然な笑顔なんて練習すれば出来るモノだと思うし。

 2人に見惚れていた私を、さっき、小さい子を隠していた子が私の腕を掴んで、中に入りなさい。そういう目で私を見る。

 私達はお喋りをすることがほとんどない。

 必要最低限の会話をするだけで、赤ちゃんや小さな子の面倒は年上の人がすることになっている。

 中途半端な立場の私は、特に会話をすることがない。

 でも、みんな、私も含めてこの孤児院から出たいと思っている。夜になって現れるおじさん達と。ではなくて。


「あなたが狙ってるの?」


 直感で言ってみた。


「そう。だから早く入れ」


 その言葉を聞いて、あの人達はただ、子供に恵まれなかった夫婦なのだとわかった。

 自分が選ばれるにはどうすればいいか。確率を上げればいい。確率を上げるには子供の人数を減らせばいい。

 30分の1よりも5分の1のほうが選ばれる可能性がある。この人はだから小さい子達を部屋に入れたんだと7歳の私でも容易に想像できた。

 知らないのは罪。

 そう思った時だった。

 年上の人が私を隠すように立ち塞がり


「こんにちは」


 さっきはドスの効いた声だったのに、いきなり女の子っぽい口調に変えて挨拶した。

 必死なのが見て取れる。


「はい。こんにちは」


 さっきの女の人が目の前にやってきて挨拶する。間近で見てもやっぱり綺麗。お人形のようで、同じ人間なのかと疑いたくなる。


「後ろの子もこんにちは」


 私は挨拶をせずに会釈だけして、部屋に戻ろうとした。


「ちょっとお姉さんとお話しない?」


 どうしてだろう。この人の笑顔には、なにか惹きつけるモノを持っている。学校でも話しかけてくる子はいる。その子達は無視しているのに……。


「この子、少し調子悪いので」


「あら、そうなの?」


 額に手を当ててきて「熱はないかな?」と、心配してくれる。ひんやりとした手。ガラス細工のように繊細そうな指。


「どうだい? 良い子はいた?」


「えぇ! この子がいいわ」


 その手を私の背中に回してきて、ギュっと抱きしめてくれた。手は冷たかったのに、抱きしめられたら、とても暖かった。

 綺麗な人が汚れた体を抱きしめてくれたのが嬉しくて、私は涙を流していた。


「なにをしたんだ……」


「な! なにもしてないわよ? ね? そうよね?」


 コクコクっと縦に振り、流れだす涙を必死に止めようと瞼をゴシゴシ擦る。だけど止まってくれなくて、それを見かねたのか、男の人がポケットからハンカチを取り出して、私の方に近づいてくる。

 無意識だった。

 とっさに逃げ出そうしてしまい、女の人の肩を強く押してしまった。バランスを崩して、女の人が尻もちをつく。


「大丈夫かい?」


 男の人はすぐに女の人に駆け寄り、手を差し伸べる。

 やってしまった。

 もうこれで、私はお叱りを受けて、ここから出れなくなる。

 私は無我夢中で走りだした。

 孤児院の敷地から出れないから行ける場所は限られるけど、あの人達の前には居られなかった。

 もう嫌だ!

 もう汚れたくない! 

 ……穢されたくない。

 建物の裏側。そこに来て私は足を止めた。

 男の人が怖いとか言ったら、どう思うだろう。園長にお叱りを受けて、この話も無くなってしまうかもしれない。

 膝を抱えて、涙を流す。

 ここにはいっぱい人はいるけど家族はいない。みんな自分のことで精一杯。

 あぁ……もう……ヤダ……。


「綺麗な髪ね」


 私の頭を優しく撫でてくれる。


「ごめんね。驚いちゃったね」


 優しく喋りかけてくれるのがまた辛くて……。


「大丈夫。怒ったりしてないから。ね?」


 そう言って、ずっと頭を撫でてくれる。

 どうしてここまで優しくしてくれるのだろう。別に私じゃなくても、ここにはいっぱい親のいない子はいるのに。

 それからなにも言わずに、頭を撫で続けてくれるけど、それでも私は顔を向けることができなかった。


「ここに居たんだね」


 男の人の声がして、ビクっと体がまた拒絶反応を見せる。


「手続きはおわったの?」


「あぁ、後はこの子の気持ち次第だよ。それじゃあ僕は車に戻っているよ」


 足音が聞こえなくなるまで、体を震わせる私に


「もういなくなったわ。さぁゆっくりでいいから顔を上げて」


 そう言われて、ゆっくりと顔を上げると、綺麗で美しい笑顔が目の前にあって


「可愛い顔をしているわ。私はあなたに恋をしてしまったの。だから、私の娘になってくれないかしら? もちろん無理にとは言わない」


「私……なんかでいいの?」


「あなたじゃないとダメなの。あなたとなら幸せになれる」


 優しく涙を汲み取って、それをペロっと舐めとる。


「あなたの涙はからい。そんな小さな体でつらい思いを沢山したのね……」


 そう言って立ち上がり、手を差し出してくる。


「さぁ行きましょう」


 差し出された手を握ろうか迷っていると、手が伸びてきて、手を掴むと私を立たせてくれた。


「楽しい家族を作っていきましょう」


 その言葉は信じても大丈夫。

 なんの根拠もないけど、そう納得させてくれるなにかを持っていた。

 建物の中から小さい子達が私をジッと見ている。

 罪悪感がないわけではなかった。この子達はまたお金のために、大人の快楽のために体を張らないといけない。

 生きるためには耐えるしかないのもわかる。

 運命には逆らえない。

 ごめんなさい。

 心でそう言ってみたけど、なにも変わらなかった。

 さっきの年上の子とすれ違う際に


「ちくしょう……」


 悔しがる声が聞こえてきた。

 女の人には聞こえていないのか、何食わぬ顔で横を抜けていく。

 手を引かれたまま振り返る。涙を流した顔で私を睨んでいた。あんただけ幸せになるのは許さない! とでも言っていそうで怖い。

 無意識に私は腰に抱きついていた。

 女の人が少し驚いたように私を見たけど、あの綺麗な笑顔をして、肩に手を回して抱き寄せてくれた。

 あぁ、これが幸せなのかな。

 私の体温とは違う暖かさが流れこんでくる。


「振り向いたらダメよ」


 小さな声だった。

 さらにギュっと抱きしめる。

 とてもいい匂いがして、私は地獄から救われたんだと実感した。

 車は入り口のすぐ横にあって、園長も居なければ誰も見送りにはこない。でも、それでよかった。


「荷物はすでに積んでいるから」


 私達の姿を見つけて、運転席から男の人が降りてくる。でも、今日からお父さん……お母さん……になるんだよね。


「さぁ、乗って」


 女の人がドアを開けてくれて助手席の後ろに誘導してくれる。たぶん、さっきの反応を見て助手席側を選んでくれたのだと思う。そして、私の隣に座ると「いきましょう」というと、男の人はゆっくりと車を発進させ、花園桜花は新しい世界へと踏み込むことになった。

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