表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
妹のためならこれぐらい!  作者: ツンヤン
お姉さまのためならこれぐらい!
86/131

騒動の中の怪盗メイド

 楓お姉さまと別れてすぐ、寮に戻った俺に奇妙な視線があちこちから突き刺さってくる。

 なんだろう。こう心配されているような、憐れむような……。


「幸菜お姉さま!」


 雛が慌てて転びそうになりながら走ってくる。

 突撃してくる雛を受け止め「どうしたの?」と、聞いてみると息も整っていない状態のまま、腕を掴まれて談話室までやってきた。

 ここでも異様な光景を目の当たりする。

 1年生のほとんどがテレビの前に集合していた。

 もうなにがなんだかわからず、ただ引っ張られるまま進んでいく。

 ここでも視線がおかしく、東雲さんもなにも言わずにただ道を開けてくれた。

 なんなんだよ。ほんとに。


『本社前に着いたようなので現地から中継です』


 俺の耳に届いてきたのは疑いたくなるようなニュースだった。


「花園本社前に来ています。夜が遅いにも関わらず、報道陣の多さが関心の高さを示していると思います。えぇ、本日、テレビ局や出版社、新聞社に匿名のタレコミがあり、花園グループが脱税、賄賂などなどの違法をおこなっているというモノでした。」


『それもただのタレコミではなかったんですよね?』


 スタジオのアナウンサーが現地のアナウンサーに問いかける。


「そうです。内部資料と思われるデータもFAXされております。クリーンな企業として知られていた花園グループですが、もし本当であれば、信用問題に発展し経営悪化は間逃れないものと専門家達は見ています」


 なんだこの展開……。

 タイミングが良すぎるだろ。


「あ、本社ビルから花園代表取締役の秘書であり、和馬氏の右腕と称されている花園桜花秘書長が現れました」


 さっきまで着ていたスーツで記者達の前に出てきた桜花さん。

 顔に疲労の色が見えるが、記者達はそんなのはお構いなしに取り囲み、あちらこちらから一斉に質問攻めにしてしまう。それでも取り乱したり桜花さんは報道陣の前で深々と頭を下げる。


「先に騒動への謝罪をさせていただきます」


 そういったが報道陣は「そんなことはどうでもいい」「脱税や賄賂は本当にあったのか」「他にもネタはあるんですよ」などと捲し立てる。

 さすがに見ていて気持ちいいモノではない。


「その質問ですが、現在、調査チームを結成しまして調査にあたっております。ですが、現段階でも不祥事がありましたことが濃厚となっており、記者会見の場を設けさせて頂きます。そこで代表取締役である花園和馬のほうからご説明させていただこうと思っております。日時に付きましては、30分ほどお時間を頂きまして、各報道関係者の皆様にFAXをさせて頂きます」


 それでは失礼致します。と、桜花さんはビルの中へと戻っていった。

 それを見終えた俺は、人だかりをかき分けてとある場所に向かう。

 階段を猛ダッシュで駆け下りて「すみません!」と、お姉さま方の隙間を縫うように進み、2階に到達。目的地は楓お姉さまの部屋だ。

 喧嘩しているとはいえ父親の会社が不祥事を出したのだから、楓お姉さまにもなにかしら心配や、嫌な思いをしているかもしれない。そう思ったけれど、楓お姉さまの部屋は固く閉ざされていた。

 鍵も掛かっているので中にも入れない。


「お姉さま! 楓お姉さま!!」


 大きな声で叫びながらドアをドンドン! っと叩いてみても返事もなければ反応もない。

 あ、そうだ! っと、今度は中村さんを探してみる。

 なにか知っているかもしれない。

 今度は食堂に走った。

 そこでも異様な視線はあったけど、俺は気にせずに中村さんを探す。けれど、見つけることができない。


「すみません。中村さんはどちらに?」


 近くのメイドさんに聞いてみた。


「中村なら、確か今日付けで……」


 退職というよりもクビになったと教えられて、わずか数時間で身近な人達が一瞬にして消えていくとか、どこのドラマだよ。

 でもこれは事実であって……。

 もう脳みそがパンクしそうだ。

 だけど、ここで頭を抱えていても仕方ない。

 お礼を言い、足が少し重いと感じるけれど、ここで憐れむような視線で見続けられるのとても辛い。

 俺のことはどうでもいいんだよ。なんかさ、楓お姉さまが落ちぶれたように思われているようで辛いんだよね。

 その後すぐに雛がやってきて、俺の手をギュっと握りながら、俺の部屋まで送ってくれた。

 俺の妹は何も言わず珈琲を入れて、自分には紅茶を用意して、なにも言わずにカップに口を付ける。とても美味しそうな笑顔を振りまく。

 俺も珈琲を1口飲んで、頭をスッキリさせた。


「ありがとう雛」


 ほんと、身近に雛が居てくれよかったと思う。

 ここでなぎさだったら……。

 あまり想像したくないから、この話題は触れないほうが良さそうだ。


「いえいえなのです。私にできるのはお茶を淹れるぐらいしかできないのです。凛ちゃんみたいになんでも出来てしまう子でなくてごめんなさい」


 俺はそっと雛の頭を撫でた。

 子猫のような触り心地を届けてくれて、尚且つ、癒やしまでくれるんだから、俺には勿体無く思ってしまう。


「そんなことないよ。雛にはとても感謝してるし、雛だから妹にしたんだよ」


 俺ダメ過ぎるだろ!

 妹に心配されるの何回目だよ!!

 とは言っても情けないことに、これからどうすればいいのか。

 ゴンゴン。

 いきなりの音に可愛い子猫ちゃんは、ビクっと体を震わせ、俺にしがみついてきた。

 とても可愛い仕草にほっこりなんだけど、体の大きさと不釣り合いな胸が、俺の腕を挟み込んでくる。

 鼻の下を伸ばしたいけれど、ベランダのガラス戸の音も気になる。

 離れようとしないので、一緒に立ち上がってベランダに向かう。

 カーテンが邪魔をしているので、そぉっと開けると……。

 メイドさんがいた。


「「ギャァアアアアアアアアアアア」」


 俺と雛の悲鳴が響き渡る。

 なんで6階のベランダにメイドがいるの!

 もしかして、なぎさがメイドの格好をして脅かしに来たとか? あり得るから困る!

 というか……。

 ブルブル震える雛を抱きしめながら、ガラス戸を開けた。


「失礼です」


 いやいや、こんな夜遅くにベランダから侵入してくるあなたのほうが失礼でしょうよ。


「中村さんこそ、どうやってここに」


「そんなことはどうでもいいのです」


 悪い人ではないとわかった雛は俺の胸の中から抜け出し、数日ぶりの中村さんに安心の笑みを見せた。

 中村さんも雛に笑顔で答える。

 いやいや、和める雰囲気じゃないから!

 聞きたいことが山ほどある。

 この騒動の原因は?

 楓お姉さまはどこにいるの?

 花園グループはどうなるのか?

 他にも聞きたいことはあったのに、なかなか出てこない。


「いいですか。絶対に有栖川には近づかないで下さい。学園内部に有栖川が送り込んでいる刺客がいるはずですので」


 なんだか恐ろしいことになってきた。

 刺客ってさ、俺があんなことやこんなことをされてしまうってことだよね?

 まさしく誰得状態じゃないか……。


「想像とは違うと思います」


 呆れたように雛に突っ込まれた。


「アーシェという子ですけど、用心しておいて下さい。なにか隠し球を用意していると思われます」


 アーシェが隠し球かぁ。

 物理的なモノなのか、精神的なモノなのか。気になるけど、知るすべがないのだから、中村さんの言うとおり、用心するしかない。


「新しい使用人なのですけど」


「私がします」


 喋っている最中であったけど、雛が割って入った。

 まだ、あのキスに対する返事はしていない。

 気絶した後、保健室に連れていって、目が覚めるまで見守っていた。

 目を覚ましてから、俺から言わないとダメなんだろうな。と思って口を開こうとしたんだけど


「まだお返事は言わないで欲しいのです」


「どうして? あれは」


「まだ!」


 いつもと違う剣幕で言われたので少しびっくり。

 雛は自分のお気持ちをお伝え出来ていない人がいるから、フェアじゃないと言う。

 だったらどうして……。


「他の方は奥手なのですよ。だから……雛が……キ……キチュしゅれば……」


 アニメだったらボンッ! って効果音がなって顔が真っ赤になっていたに違いない。

 雛って、みんなが思っているほど柔軟な考えをしない。

 いつものメンバーの中なら嫉妬深くて、責任感が強く、プライドが高かったりする部分が見える。

 負けず嫌いとは少し違い、正々堂々と勝負して負けたのなら、きちんと身を引くタイプ。


「お任せしますね」


「はいなのです」


 中村さんと雛が握手する。

 そんなタイミングを見計らってか、来客を告げるノックの音がした。


「最後に聞かせてください。楓お姉さまは……」


「大丈夫です。ただ知っておいて欲しい、今回の花園グループの一件は楓が大きく関わっています」


 そっか……。

 なんとなくそうだろうとは思っていたけど……。


「刹那さん。危ないことだけは考えないでください」


 では。

 そう言って、中村さんは怪盗のように壁を降りていった。

 うん。メイドさんが排水管をつたって降りていく姿は不審極まりない。

 忘れないうちに来客の人を……。


「結構なのです!」


 バンッ! 

 新聞の勧誘が来ても雛なら問題ないね。

 


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ