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妹のためならこれぐらい!  作者: ツンヤン
あなたと一緒に……
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Never say never

 ライブ開始まで1時間。

 緊張してきて、ソワソワしてしまう俺を見て「あなたは幼稚園児ですか」と、アーシェが俺を馬鹿にしてくる。そんなアーシェもキーボードをしきりに見たりして、とても可愛らしい。

 舞台の横で聖歌隊の子達が準備しているのを見ている。

 東雲さん。山藤さん。黒崎さんも口数が少なっていて、少なからずは緊張しているようだ。

 今回は本格的なロックをすることになっている。

 古い曲目が多いため、此花の生徒は知らない曲ばかり。

 そこで秘策を講じてみた。

 此花の生徒がもっているスマホ。それにパソコンはセキュリティにより観覧制限がかかってしまう。

 エッチなサイトはもちろんの事、動画でも不適切と認定されれば、最大手だろうと閲覧はできない。だけど、俺達はとある抜け道を見つけたんだ。

 それはブログに動画を埋め込む。

 とても単純だけど、ブログというのは個々の出来事や趣味を書き記す日記帳で、ここ最近では動画を埋め込んだりも出来る。

 ブログの機能で簡単に動画を埋め込めるのだけど、それでは閲覧できなかった。だけど、自分達のスマホで取った動画を埋め込んでみたら、見事に再生できたのだ。

 音質、画質は……まぁ、お察し程度だけど。

 そこでだ、このブログを此花の生徒達に見てもらう。

 ライブとはこういうものだ! って、お手本を見せておけば、彼女達も戸惑うことはない。だが、問題は教員に知られないように広めるにはどうすればいいだろうか。と悩んだ挙句に。


「名刺を配るのは良い作戦でしたわ」


 東雲さんが笑顔で言ってくる。

 昨日、東雲さんの義妹に俺の名刺を渡しておいたのだ。

 名刺の裏にQRコードを印刷して、みんなに見てもらうようにした。

 効果があるか不安ではあったけど、1日目が終了した後、すぐにメールが来たらしく、ブログで見た動画に対する反応がとてもよかったらしい。

 他のクラスからも反応がとても良くて、クラスのみんなは休業してまで見に来てくれると言ってくれた。

 後は根回しが必要となったが、それは山藤さんと黒崎さんに任せて欲しいと言われたので任せてある。

 2人から完璧だと聞いているし、音響を任されている生徒さんから応援の言葉ももらえて、本当に安心してよさそうだ。

 さっき、なぎさからメールが届いていたんだけど、すでに場所取り合戦が始まっているみたい。

 もう有名なバンドが来場しているかのような賑わいだ。けど、それが緊張を加速させるから困ったもんだ。

 見窄みすぼらしい格好は見せられない。そういう気負いが悪い方向に向かわないといいけど。

 聖歌隊の準備が整い、垂れ幕が上がると大きな拍手がこっちにまで聞こえてくる。

 次だ……午前中は吹奏楽団、管弦楽団がやってきて大盛り上がり。そして聖歌隊である。

 さすがはプロ。マイクを使わず体育館中に届かせる声量、低高音がしっかりと自分の役を演じていてミスもない。

 あぁ、緊張するな。

 こういうときは人と手のひらに書いて、パクっと口に放り込む。

 おまじないでしかないけど、なにもしないよりマシだろう。


「さっきのはなんですか?」


 アーシェには珍しかったようだ。


「さっきのは緊張しないおまじないよ。アーシェもやってみたらどう?」


 すすめると、ひとではなくりと書いてしまうのはボケ?

 それを小さな口に放り込む。

 ただのおまじないだし、人でも入りでもどっちでもいいか。だって、アーシェが「効きそうですね」って、納得しちゃったし。




 それからは無言で聖歌隊の歌を聞いて、俺達の出番を待っている。

 時間が刻一刻と迫っていくと山藤さんの表情が硬くなっていくのがわかった。

 彼女の担当であるドラムはバンドの中でも1番重要になってくる。

 音楽とはリズムだ。いち。にい。いち。にい。

 そのリズムを作り出すのがドラムの仕事である。もし仮に、ドラムの速度を途中で少し早めてみたとしたら、ギター、ベース、キーボード。すべての楽器がドラムのリズムに合わせるのだ。そうしたら自然とボーカルも早くなり、曲自体が早くなる。逆もしかり。

 重要なポジションなだけに、これはマズイと東雲さん、黒崎さんが緊張をほぐそうと喋りかけるのだが、逆効果なようでお手上げ状態。

 アーシェは肝が座っているのか、緊張した様子は見せていない。

 どうしましょう。

 そう言っているかのように俺を見る東雲さん。

 はっきり言えばさ、プロだってミスはするんだよね。それをどう誤魔化しているのかは、とても簡単なことなんだ。

 平静を装う。

 失敗してませんよ~って顔で演奏していれば、「あれ? さっきギター失敗しなかった?」と思われても、なかなか失敗したようには見えないのだ。

 それを伝えただけでは、なにも変わらない。

 好転させるのはどうすればいいだろ。

 俺も緊張はするけど、性格の問題なのか『為せば成る』という言葉で片付けてしまう。

 繊細な面を普段から見せている子なので、特に自分が失敗したら……。と深く考えてしまっているように見たから。

 左手でアーシェの手を握る。

 びっくりしているアーシェを他所に、右手で東雲さんの手を握る。

 これでわかったようだ。

 黒崎さんも加わり、取り残されないように山藤さんも慌てて手を握り、円陣を組む。

 あまり大きな声は出せないから、顔を近づけて


「失敗しましょう」


 全員から『えっ!』という顔をされた。


「いいじゃないですか。こんな大勢の前で失敗するなんて、同窓会のお話のネタになると思いません?」


 一生涯忘れることのない思い出になるだろうね。


「それも思い出だと思うんです。楽しい思い出もいいですけど、失敗した苦い思い出も将来ではお話のネタです。だから失敗しちゃいましょう。そして、笑って終わりましょう」


 俺の言葉がメンバーにどう伝わったかはわからないけど


「失敗したら私がフォローしますよ」


 うふふっと東雲さん。


「いっぱい練習しのですから、大丈夫です」


 山藤さんを見て笑う黒崎さん。


「た、楽しみましょう」


 珍しくアーシェもフォローする。

 そして、山藤さんは……


「はい! 楽しみましょう」


 そうそう。俺達はエゴイストなんだ。

 教師に怒られるのは間違いないだろう。なんて下品な事をしているんだ! なんて言われそう。それでも構わない。だって、思い出とは自分達がやってきたことしか思い出として残らない。写真で見た景色はすぐに忘れてしまう。でもさ、もうすぐ始まる景色は一生モノであり、俺達にしか見えない景色。

 最高だよね。誰も見たことのない景色を限られた時間ではあるけれど、一望できるんだ。


「大きな拍手をお願いします」


 司会進行役の子が綺麗な歌声を披露した聖歌隊の面々に、拍手で退場を即すと、体育館から大きな拍手が聞こえてくる。


「最後に掛け声をお願いします」


 東雲さんが俺に言ってくる。

 俺よりも自分が〆なきゃダメでしょう。でも


「それでは」


ふぅ。と深呼吸。


「Never say 」


「「「「「never!!」」」」」

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