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妹のためならこれぐらい!  作者: ツンヤン
あなたと一緒に……
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裏の素顔

 なんなの! なんなの! なんなの! なんなの!

 私はあいつを陥れようとしているのに、ヘコヘコ笑って、何食わぬ顔で喋りかけてきて、挙句の果てにはバンドにまで巻き込んできた。

 いくら寮のベッドを殴っても落ち着かない。

 あの人からは近づけと言われているから一緒にやってやることにしたけど、そうでなければ無視も無視。

 殴っていたベッドに今度は身体を預ける。

 枕に顔を押し付けて言語ではない言葉を吐き出す。

 防音に関して、専門業者を呼び寄せてまで調査して、しっかりとされているのは確認済み。どれだけ叫んでも隣には聞こえない。なのに枕を押し付けるのは、日本に来てからのクセ。

 礼儀作法から歩き方まで、24時間監視され、気の休まる日はなかった。そんな時に思い付いたのがこれだった。監視カメラにマイクも仕込まれていたけど、こうすれば向こうには聞こえないみたいで、怒られなかったから。

 すっきりしないときはなにをしても無駄なのは知ってる。だけどやらずにはいられない。

 バァカ! バァカ! バァカ!

 はぁ……はぁ……はぁ……。

 テレビも無ければパソコンもない。

 カーテンも無ければ絨毯もない。

 テーブルも無ければタンスもない。

 あるのは……なんだろう。

 背中やお腹にある蒼い痣。

 痛みはとっくの昔に無くなっている。

 泣いても叫んでも殴って蹴って叩いて。

 こいつらは楽しんでいるんだ。

 そう気づいたのは日本に来て、7日経ったときだった。だから


「無くしてしまおう」


 痛みを無くし、心を無くし、幸福を無くして、家族を無くした。

 どれも簡単だった。

 泣くのをヤメ、ただ無言で苦痛を顔に出さず、ただ耐える。反応を示さなくなって、面白くなくなったのだろう、あいつらは暴力をヤメた。

 今度は性的嫌がらせに出てきた。

 まだ4歳だというのに、あいつらはお構いなしに嬲り、犯し、吐き出す。

 それでも学校には行かせる。世間体というのにはうるさかったから。それに学歴は高ければ高いほど、高い利益を生み出す。

 お金になりそうな所に嫁がせればいいのだ。

 上流階級ともなれば、学歴に容姿があれば高値で取り引きされる。

 あぁ、これで幸せも無くなった。

 ロボットになりたい。プログラミングされて、ただそれに従うロボット。最近はAIという人工知能が搭載されたモデルが多いけど、そんなのはいらない。

 ただ、ただ、言われたように動くだけ。それだけでいい。

 銀色の髪を撫でる。

 昔は大好きだった。

 お母さんと同じ色の髪が大好きで、私は誇らしげに近所のお友達に見せびらかせていた。

 お父さんと同じ紫色の瞳が大好きで、近所のおじさんやおばさんに見せびらかせていた。


「無くなってしまえばいい」


 正確には亡くなってしまえばいい。私の命ごと。

 そんな時に限って、嫌なことは続く。

 ポケットに仕舞い込んでいた折りたたみ式の携帯電話が、けたたましい音を私の耳に届かせる。

 すぐに出ないとなにを言われるかわかならい。そんな恐怖心から、いつも2コール以内に電話に出るようにしていた。それは、今日も例外ではない。


「もしもし、アーシェです」


「おぉ、いつも早いの。ワシじゃ」


 言われなくてもディスプレイに表示されているんだからわかる。と言ってやりたい。


「そっちはどうだ。巧くやっとるか?」


「はい。立花幸菜……、本名、立花刹那とは接触に成功して、文化祭ではバンドをすることになっております」


「ふむ、あまり近づき過ぎるではないぞ。花園の娘は感が鋭い。2つの件には気がついておる。さすがはあやつの子じゃと言うことだ」


「承知しております。ですが、まだ当の花園楓とは接触出来ておりません」


「それは構わん。お前がそっちに入れたのだから、やりようはいくらでもある」


 クックックッ……。

 いつ聞いてもイライラさせる笑い方。


「大事なことを思い出した。あれを届けさせる。最悪はあれを使っても構わん。そのときは……わかっておるな?」


「承知しております。お父さま」


 うむ、それではな。

 要件だけ伝えれば動く人形。

 私のことは道具にしか思っていない。

 私もそれで良いと思っているから、どっちもどっちだけど。

 それにしても『あれ』をどうやって運び入れるのだろうか。それに、『あれ』を、私は使ったことがない。

 マニュアルのようなモノも付けてくれるのだろうか。それとも別の人間を寄越すのか。

 後者は不可能に近い。だって、私が編入するにしても、相当な審査を掻い潜って、なお、日本の高校レベルを遥かに超える編入試験に合格しなくてはいけない。


「私がやるのか……」


 でも、あの人も言っていた、最悪の場合に使うだけだ。最初から使うと決まったわけではない。

 これまた、どう手元に届けさせるのだろう。正門は金属探知機も秘密裏に設置しているし、届け物にも金属探知機は使用される。茂みには無数の赤外線センサーが所狭しと張り巡らせていて、ネコ1匹、見逃さないだろうと思う。

 考えるだけ無駄か……。

 今日はもうシャワーを浴びて寝てしまおう。

 ベッドから立ち上がったときだった。

 コンコン。っと小さな音が聞こえてくる。

 居留守しよう。

 今日は出歩いたので、少し疲れている。

 真っ暗な部屋でスカートを脱いだ。のを、この人は絶対に見抜いていたに違いない。そうでないと納得できない……。

 



「アーシェさんも呼びましょう」


 そういったのは黒崎さんだった。

 談話室でお喋りしようと部屋にまで来て、声を掛けてくれた。

 部屋には雛や楓お姉さま、なぎさが居たけど


「いってらっしゃい」


 と、楓お姉さまに言われ、半ば強制的にも見えたけど、お言葉に甘えて談話室にやってきた。

 幾つものグループがすでにテーブルを囲み、ティータイム中だったり、手芸を楽しんだりと、女の子らしい一面が伺える。

 談話室に来て、アーシェいないので、どうしたのかと思ったけど、俺を先に呼んでから呼ぼうとなっていたらしい。

 まぁ、そうなる気持ちもわかるから、なにも言わずアージェの部屋に向かう。

 20時付近の現在は、お風呂に入っている人も多く、居ない可能性も否めなかったけど、携帯電話の番号を知らないので、とりあえず部屋まで呼びに行くことにした。

 アーシェの部屋は俺の部屋の真反対で、あまり来ることのない場所。なので見知らぬ顔もちらほら。

 それでも挨拶は忘れず、どちらともなく「ごきげんよう」と声を掛け合う。そして、思うのだ。夜でもごきげんようでいいのか? と。

 アーシェの部屋の前に到着。

 どことなくだけど、こうイヤーンな展開は待ち構えていそうな気配がする。


「やっぱり私ですか?」


「1番仲良しではないですか」


 確かに、1番仲良しですけど、こう邪魔者扱いされている感じもするんだけど。

 まぁいいや。

 為せば成る。据え膳はうんたらかんたら。とも言うしね。

 気合を入れて、軽くノックする。

 だけど、誰も出てこない。

 やっぱりいないのかも。

 とりあえず、中だけでも確認しておこう。中で倒れているかもしれないし。そうなったらマウストウマウス必須!

 あ、いつもの通り妄想です。そんな大それたことは出来ない自信あります。

 ゆっくりとドアを開けたら、そこにはスカート脱いだアーシェが、真っ暗な部屋で立ち尽くしている。

 色白の細い足がキュートで、青と白の縞々が幼さをさらに醸し出すアクセントに。

 廊下からの光だけでも、アーシェは存在感十分と言わんばかりに顔を真っ赤にさせた。


「失礼しましたぁああああああああ!」


 勢いよくドアを閉め、忘れていた呼吸を再会させる。

 あぁ、ビックリした。

 バクバクと鼓動が漏れだしそう。ついでにおちっこも。


「どうかしましたか?」


 後ろで3人が不思議そうな顔をしていた。だって、下着姿の女の子が立っていたんだよ!! 

 びっくりしないほうがおかしいよ。


「もしかして……立花様は女性に……」


 ぶっはっ!

 興味あるよ! 男なんだから興味ないほうがおかしいよ! なんですか、BL趣味はもってないからね? ねっ?

 漢と知らない彼女達だから、余計な妄想を働かせしまうのだろうけど……なんか複雑だ。

 今度は勢いよくドアが開いて、殺意に目覚めた方々にも勝るとも劣らない形相で、俺を睨みつける。

 そんな目で見ないでよ。不可抗力じゃんか。

 キチンとスカートが元通りに履き戻されていて「なんですか」と少し怯え気味の俺を、3人はクスクスと笑いながら見ている。


「お茶でもどうかと思いまして」


 東雲さんが言うと、いつものように拒否反応を示す。

 メンドクサイなぁ。と俺は思った。だからアーシェの手を取り、引っ張っていく。


「こうでもしないと来ないでしょ」


 聞かれる前に言ってやる。

 人は1人じゃ生きていけない。だって、電気や水道など、人間の手でしか動かせないじゃん。それと一緒で人の心は人を欲する。拒否するということは構って欲しいということ。

 と、言っていることが支離滅裂しりめつれつだとは思っている。それか、ただのお節介なのかもしれない。

 でもさ、1人寂しいよ。幸菜だってアーシェだって楓お姉さまだって。


「立花様、無理矢理はさすがに」


「いいんです。この子はちょっと強引なほうがいいんです」


 ムスっとしていた顔もホラね……モットコワイカオニナッテマスヨ……。

 般若様のような眼光がとても怖い。だけど、連れ出しちゃった以上は引くに引けない。

 後ろは見ないようにして、談話室に到着。

 空いているテーブルを見つけて、アーシェを座らせる。


「ふぅ。いい仕事しました」


「だったら、大人しくして欲しいです」


 不満タラタラに言わないで欲しいです。

 東雲さん、山藤さん、黒崎さんも向かい合う形で座る。

 全員が集合したら雛にメールを入れると……


「初めまして長嶺雛子なのです。いつもお姉さまがお世話になっております」


 トレーの上にティーカップとポットを置いて、我が妹、雛のご登場だ。

 華麗にお辞儀をして、丁寧にお紅茶を注いでいく。


「ごめんなさいね。気を使わせてしまって」


 東雲さんが代表して雛に言うと


「とんでもないのです。お姉さま方のお口にあえばよろしいのですが」


 と、さすがこういったやり取りは慣れているようで、受け答えもしっかりしている。

 俺の妹とは思えないね。

 雛、お手製というか独自ブレンドの紅茶を振る舞う。

 俺はいつも飲んでいるから、とても美味しいのは知っている。なにも躊躇いなく口を付けて「うん。おいしい」と、雛を安心させてあげる。

 3人も1口飲むと、絶賛の声を上げた。


「オリジナルブレンドですね。茶葉、独特の苦味は抑えられていて、それでいて甘すぎず、香りも殺すことなく身体に染みこんでいく感じがします」


「ありがとうございますなのです」


 さすがお嬢様。

 紅茶の味をしっかりと伝えられるとは……。

 飲み慣れた者だけが至る境地か!

「アーシェ? もしかして紅茶が苦手だった?」

 手を付けずにただジッと紅茶を眺めている。

「いえ……そうではないです。ただ懐かしい匂いなので……」

 そう言って香りを堪能してから、やっと紅茶を飲む。

 クイズ番組の正解か不正解かでよくある、沈静が俺たちの中を取り囲む。

 ゴクリと唾を飲み、アーシェの言葉を待つ。


「とても美味しいです。明日も飲みたいと思える味ですね」


 アーシェ以外の全員が息を吐きだした。

 安心したのか、雛は「おかわりなどありましたら、お呼びくださいなのです」って、俺に言い、みんなには一礼してから、俺の部屋へと戻っていった。


「ねぇアーシェ。よかったら茶葉、分けてもらおうか?」


「いいのですか?」


「うん。お部屋に戻ったら聞いておくね」


 東雲さん達も「できたら私も頂きたいです」と言うので、全員分、聞いてみることにする。

 それから話題は文化祭の曲の順番や、立ち位置などをみんなで話し合う。これも文化祭の楽しみの1つであり、この時間がとても大切なんだと思う。

 アーシェも雛の紅茶が気に入ったのか。さっきとは正反対に、自分から率先して「私は目立たない場所でお願いします」などと言うから、一番目立つヴォーカルの横に決定した。

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