ミーティング in the チルドレン
そして放課後……。
とは行かず、先生が入ってきたと思ったら、後ろにチョコンと大物の存在感を表した少女がいた。
透き通るような白銀の髪、白くて病弱的な白い肌。か細くて、掴めば折れてしまいそうな体付き。身長も雛よりかは少し大きいぐらいだと思う。胸は小さめだけどね。
普段から静かだけど、虫の羽音まで聞こえてきこそうなほどの静けさに、なにか研ぎ澄まされた感覚が目覚め……たりはしない。
「早速ですが転入生を紹介します」
朝の挨拶も忘れたかのように、そそくさと紹介していく。なんだろう。触れてはいけないなにかに、触れたような対応にも取れる。
白いチョークがカツッカツカツッっと乾いた音をさせながら、名前を書き綴っていく。
「自己紹介して」
言葉にしても端的に事務的な対応。普段から飾ったような言い方をするような先生ではないけれど、今日は特にそう感じる。
「有栖川・アイル・アーシェです」
ここで本来なら拍手喝采なんだろうけど、沈黙。
隣でボケェーっと眠そうにしているなぎさの横腹を肘で突く。
「あの子。有名なの?」
欠伸を1つ。机に肘を付いて、両手は顔が落ちないよう両手を頬に添えている。
「有栖川財閥のご令嬢だよ。花園・東条・有栖川。御三家が勢揃いですよってこと。だから最初は目を付けられないようにしてるわけ」
「なんで?」
「なにか仕出かして、親の会社を潰されたら親不孝者まっしぐらだから。御三家はいとも簡単に潰しちゃうからね。まぁ私には関係ないけどさ」
「じゃあさ、凛ちゃんも」
「凛は幼少部からのエスカレーターだから、そんなことはないと思うよ。そこに同じぐらいの年齢の子が居たら一緒に遊んじゃうお年頃だし」
それより眠い……。っと、もう1つ欠伸。
そうなんだ。でも、楓お姉さまも幼少部からのエスカレーターだけど、馴染めてないというか浮いてるというか。
「では、立花さん。有栖川さんに学院のことを教えてあげてください」
ここで俺ですか!
みんなが憐れむような眼差しで俺を見てくるんだけど、そんなにフラグビンビンですか。そうですか。
だけど、このままでは彼女は孤立してしまうじゃんか。
自分のことのはずなのに、彼女の紫色の瞳はどこを見ているんだろう。
宝石のように美しい彼女の瞳は、俺達が見ているこの教室ではないように思う。俺達はただの景色の一部。言葉はノイズでも聞こえたようにウザったい。そんな眼差しに感じる。
「わかりました。有栖川さんお隣へどうぞ」
「関わんないほうがいいのに……優しすぎるのも罪だよ」
「いいの。どうってことないよ。ほらなぎさは隣に詰めて」
3人掛けの椅子とテーブルに4人は、満員電車の椅子に座るように窮屈にはなるけど、座れないことはない。
有栖川さんはカバンを持って、俺の隣へとやってくる。
華麗に一礼してくるので「よろしくね」と挨拶して、椅子に座るよう即すと、素直に俺の言うことを聞いてくれた。やっぱりいい子じゃないか。
すぐに先生が朝の朝礼を始め、終われば始業式へと進んでいった。
始業式が終われば通常授業が始める。
普通だったら午前中で終わりなんだろうけど、此花女学院は普通の高校よりもテストが少ないため、授業が豊富である。
言い方はおかしいかもしれないけど豊富。第二言語とかね……。
俺のことはどうでもいい。
授業が始まる前の小休憩に色々と質問してみた。彼女。他人行儀な言い方はダメだろう。有栖川さん? アイルさん? アーシェさん? の教科書がまだ届いていないし、急な転校だったために筆記用具なども届いていないという、なのでシャーペンから消しゴム、ルーズリーフを用意してあげる。
「ありがとうございます」
「いえいえ、困った時はお互い様ですから」
なんだか自分から話しかけようとする気がまったく感じられないんだけど。
まぁ転校初日でハイテンションもおかしな話だし、容姿からイヤッホーイと言っている姿なんて想像出来るはずがない。
繊細そうだし、大人しそうだし、お淑やかがとても似合いそう。
その猫っ毛で太陽の光を吸収していそうな銀髪。アニメとかではよく見るけど、実際に見れる日が来るとは。
眼福とばかりに見ておこう。
変態と紳士は紙一重と言うけど、俺には疚しい気持ちはないので紳士に分類される。
「珍しいですよね」
淡々とした口調。
「珍しいね。でも綺麗だからいいじゃないですか」
「この髪嫌い。あなたにはわからないだろうけど」
自分の髪を触れながら言ってくる。
サラサラっと砂漠の砂が手のひらからこぼれ落ちていくように、背中にしなだれていく。
そりゃあわからないよ。なにか聞いたわけでもないし、自分から喋ったわけでもない。
人の過去を読み取れるとしたら、俺の周りにいる方々だけだろう。いや、過去は無理か。
「そうね。いつか教えてくれると嬉しいかな」
人の過去を掘り起こして、地雷を踏むのがこの手のセオリーなので、さらっと流しておくのが1番。
言いたかったら勝手に言ってくるだろうしね。
放課後、東雲さん。ドラム担当の山藤さん。ベース担当の黒崎。そしてアーシェの4人で文化祭に向けてのミーティングが始まった。
打ち合わせの後、アーシェのために学院案内するために残ってもらうことにした。
呼び方だけど、有栖川さんと言ったら「アーシェでいい」と、これまたぶっきらぼうに言われたのでアーシェさん。と呼べば「さんはいらない」と怒られた。たぶん怒ってた。
喜怒哀楽が見えないから、予測でしかないわけ。
話を文化祭に戻そう。
彼女達、幼少部からこの学院に居る子はロックを知らなかった。
「ロックといえばビー○ルズですわ」
という、音楽の教科書のことしか知らない。
鳥かごの中で育てば、中のことしかしらないのは当然か。いっぱい面白い曲はあるのに。
ビート○ズもいいけど、俺はGreendeyを押す。
3人組のロックバンドだけど、ドラムとベースの2人が超絶に巧くて、この2人だけでもロックとしてやっていけるほど。それにギターが加わっているのだから、これでもかの押し売りだよ。
力説してもわかってもらえないから、心の隅に留めておくけどさ。
「時間はどれだけあるんですか?」
軽音楽同好会に割り振られた時間により、曲数やメンバー紹介などの時間を決めるのが一般的。まぁ、笑いを取りにいって、滑りに滑って打ち上げで反省会をしたインディーズバンドもあったけどさ。
「例年通りでしたら30分ほどですね。今回も変わらないと思います」
以外と多い。普通だったら15分とかなのに。
多いに越したことはないので、そこから計算すると6曲前後となる。今回はコピーバンドになるので、楽譜の調達なども早急にしないと1ヶ月と少々で6曲。音合わせなどもしてって、バンドも結構ハードだよね。
「それでは曲を選定するテーマなどを決めましょう」
リーダーで進行役の東雲さんが仕切り、ミーティングは進んでいく。
文化祭ともなれば大勢の親御さんに来賓も来るだろうから、無難な落ち着いた曲をチョイスしたほうがいいようにも思う。
「あの……立花様が中等部時代によく聞いていた曲とかどうでしょう。私達はこの学院の中のことしか知りませんの。もっと、こう激しいロックとか挑戦してみたいです!」
「そうです! 先生方にお叱りを受けることになっても構いません!!」
「もうエリーゼのために。は、こりごりです……」
逆に聞いてみたい。ロックなエリーゼのために。
話を聞けば、やはり教科書に記載されている曲から演奏をしていたようだと言うこと。
だけど、最近のロックは音楽番組にあまり登場しないから、中学時代の曲ってあんまり覚えていなかったりする。
スマホを取り出して、ロックバンドを検索していく。
この学院のセキュリティはホントに凄い。街で購入したスマホには必ず、学院指定のソフトが入れられる。それは閲覧可能制限のソフト。簡単にいうとネットを使うと学院側のサーバに接続され、接続可能かどうかを判断する。
それが結構厳しくて、四十八手がダメだと言われた。
握手券が本編のCDを売っている人達の仲間だろって思ったんだけど、なにやら違うみたい。
なので、ロックバンドなどを検索しようものなら、閲覧制限で即座にNGとディスプレイに表示されるのだ。しかし、俺のスマホは中学から使っているので、閲覧制限ソフトが導入されていないのだ。
なので、heytubeから動画を探して、それを再生。みんなで音楽を聞きながら選曲することに。
最近のはどれも落ち着きがあって、みんなの期待したモノではなかった。
「文化祭って親御さんも来るんだから、親御さんの年代のロックとかどう?」
と、提案してみた。
最近はロックよりもアコースティックギターの滑らかな音や、アイドルを集めて握手券を買わせたりするのが主流で、ミリオン突破はいいけど、1人で何枚買ったを記載する必要があるだろうと思う。あ、海外では付属の付いたCDは集計外になるので、ランキングには載らないようです。
「お父様やお母様の若かれし時代のロックですか……興味ありますね!」
2人も面白そうとノリ気である。
アーシェはただ一点を見つめて、あんまり感心がない様子。
年代を遡れば、ザ・イエローハーツ。横須賀銀蝿などが出てくる。
イエローハーツは最近のアニメのOPやEDなどにも起用されてしたりするし、ニュース番組やお笑い番組でも起用されているので、知名度も高い。
横須賀銀蝿はドラマで使われていたりするし、昔ながらのヤンチャ姿で歌っていたりと、ノリのいい曲が多い。
だが、激しいロックが多いために、偏りが出てしまう。それ防ぐには年代を少し新しくするだけでいい。年代が違えば音楽の方向性も変わるのである。
解散の理由が『音楽の方向性の違い』だった場合は内紛があったと思っていい。ほぼ間違いなく、喧嘩別れだと親戚のお兄ちゃんが言ってたよ?
少し新しい年代で検索するとスピリッツやミスターチビドレインなどが検索結果に表示される。
この辺にまで来れば、俺も知っている曲はたくさんある。
スピリッツは空を漕げるはずなどで有名だし、ミスチビはアンセントワールドや抱きしめ続けたい。なんかは超有名だ。
どちらも落ち着いた曲を多くて、選び応えがありそう。
サビメドレーを流しながら、これがいい。あれがいい。と言い合う。
「ですが、まずは楽譜を調達しないといけませんね」
と、東雲さんが言うと
「でしたら今週末。街に行きませんか?」
と、山藤さんが提案する。
俺も予定はないので、OKと答えると黒崎さん御用達のショップを案内してくれると言うので、そこで楽譜を調達することに決定した。
こういった、みんなでなにかをするっていうのは、本当に楽しくって、まだ先なのに文化祭が楽しみになる。
「それでは、今週末でと言うことで解散いたしましょう」
リーダーの東雲さんが解散を宣言すると、みんな寮に戻っていった。
俺とアーシェは学院内を案内するため、帰り支度をしてから教室を出る。
「キーボードが居たら完璧なのにね」
メンバー構成で多いのが、ドラム、ベース、キーボード、ギター、ヴォーカルで、ギターとヴォーカルを兼業することもある。
他にもアコースティックギターが居たり、エレキギターが2人居たりも。
「ピアノ。弾けますよ」
隣を無言で歩いていたアーシェがぽつりと言ってくる。
どれほどの腕前なのかはわからないけど、自分から言ってくるほどなんだから、人前で披露しても恥ずかしくないレベルなのだろう。
「キーボードやってみる?」
軽音楽部に所属すらしていない俺が、勧誘してもいいのかは不明だけど。それでもキーボードが居るか居ないかでは大きく違うしなぁ。
それにアーシェも学院の子達と馴染むにはいいチャンスだと思うし。
「他の方が嫌がると思います」
入学した当初にあったお姉さまとイチャラブイベントで、楓お姉さまと俺が周った順序で紹介していく。
「どうして?」
この時間は誰もいないから静かで、風が吹いて窓が音を立てるだけでビクっと体を震わせる。だって、怖いんだもん。
「あなただけですよ。私の名前に抵抗がないのは」
「だって、私のお姉さまが『花園』だから別に気にしないわよ?」
「守られているとでも言いたいのですか」
「そうでもないかな。楓お姉さまだからって媚びることはしないし、凛ちゃんだから下手に出たりしないよ。家系が凄いからと言って、本人達が凄いってわけじゃないから」
「…………」
ん? 急に黙ったけど変なこと言ったかな?
花園だとか、東条だとか、有栖川だとか言ってたら、俺の精神はカミー○さんみたいに崩壊してるよ。
そうでなくても、上流階級なお嬢様揃いなのにさ。




