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妹のためならこれぐらい!  作者: ツンヤン
短編:最後の夏休み
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異文化コミュニケーションinなぎさ

 閑古鳥が鳴いていた車両も繁華街に向かうにつれ、乗客も多くなり、繁華街を越えると減る。増えたり減ったりした電車の終電。そこが俺達の目的地。

 電車の扉が開くと潮の香りが押し寄せてきて、電車から降りれば、視界いっぱいに透き通るようなスカイブルーをした海が広がっている。

 あまり乗り気ではなかったけど、この大海原を目にして、なにも感じないのは青春成分が不足しています。

 別の車両に乗っていた子供も、降りてすぐに柵に足をかけて「すげぇええええ」と雄叫びをあげるほどなのだから、やっぱり青春成分が足りていないと言える。

 座り疲れたなぎさは両手の指を絡め、天に向かって突き上げるように背伸びをした。


「んんぅ~」


 ポニーテールが海からの風に揺られ、胸を反り、体をほぐす姿を見入ってしまう。夏の薄着って偉大。

 視線が合うとからかわれるので、気づく前に海でも見ていようっと。

 波が行ったり来たり、俺の心臓は大きくなったり、小さくなったり、落ち着いてくれよ……。

 ふぅっと空気を吸い込んで


「それじゃあいっくよぉー」


 俺の腕を取ってきて、吸い込んだ空気が胸の中で暴れた。入り口が1つなら出口も1つなわけで、むせた。

 ゲホゲホ言っても腕を放してくれず、咳込みながら改札に連れて行かれる。さっき叫んでいた子が瞬きを忘れたように俺を見つめてきた。

 少年、こんな男になったらダメだよ。

 俺の心の声が聞こえたのか、コックリと頷いてきた。

 


 改札を抜けて、5分も歩けばシーワールドの入り口が見えてきた。

 ここでの人気はやはり、イルカのイル君とカーチャン。2人合わせて……イルカ! なんの捻りもないのかよっ!

 ただショーは超一流で、ニュースやアニマル番組で何度も紹介されているほどだ。っと、ウィキ教授が言っております。はい。

 他にもペンギンの散歩を見れたり、アシカの頭にジャンプすると「オーオー」っと鳴き、触れれば死んでしまう水を浄化してくれる。

 実際にやって、噛み殺されて人生をゲームオーバーしても責任は取れません。との注意書きが施されているんだから、何人か挑戦したのだろうな。

 浮足立っているなぎさは、入場券売場の混み具合を見て


「さすがはシーワールド。親子連れがいっぱいだね」


 と、待ちきれない様子。

 親子連れも多いけど、日曜日とあってカップルも多い。

 俺達のように高校生ぐらいのカップルは少数で、20半ばぐらいのカップルが多い。

 これは俺自身の感想なのだが、他のカップルの彼女さん達とは遥かにレベルが違いすぎる。というのはなぎさの容姿のことだ。

 俺となぎさが腕を組んでいると「女の子可愛い」「モデルかな」などと聞こえてくる。それはまだいいとしても「なんか釣り合ってないよね」「かっこ悪くはないけど、彼氏のほうが女々しいね」なんて声も聞こえてくる。

 確かに、俺のほうが身長低いし、華奢な体付きだから余計に女々しく見える。

 俺達を見てクスクス笑ってくる輩もいるぐらい、不釣り合いなのだ。


「そこのおばさん達。なにかこっちに面白いモノでもあるの?」


「ちょっとなぎさ」


 いつもと違う雰囲気を見せる。宥めようと声をかけようとしたが、先になぎさが言い放つ格好になってしまった。

 声の通りがいいのも相俟って、喧嘩でも始まるのかと、入場券売場の列の人もこっちを見てくる。あぁ……俺の嫌いな展開だ。


「なんでもねぇよ」


 どうでも良くなったのかガングロ彼氏、ガングロ彼女は大きな笑い声をあげる。まぁさっきの笑いは遠慮してくれていたみたい。

 マサイ族もびっくりしそうな笑い方を披露しているお二方にうちのなぎさは「マサイ族にでも就職するの?」と真顔でいう。

 すると野次馬たちは大爆笑。

 笑いものにされた2人は激怒。


「ごめんなさい。ちょっと言い過ぎたかも。マサイ族の方々も遠慮するよね。だって、唇だけ白いんだもん」


 それじゃあ隠れても獲物に見つかっちゃうよね! なぎさちゃん少しは知識を蓄えてくれたようで、俺は嬉しいよ。

 なぎさの大喜利で周りの笑いはピークに達する。


「ゴラァ……なめとんけ!?」


 ここは歌いたい。おもいっきり歌いたい。だから心で歌わせてもらいます。

 舐めたらアカン~ 舐めたらアカン~ 俺達舐めずに、これなぁ~めて~。 

 少しアレンジを加えてみました。

 口に出さなくてよかったよ。ダダ滑り間違いなし。

 威嚇も含めてマサイさんが前進。

 ガニ股でポッケにお手手をナイナイ。

 なぎさのほうではなく、俺に向かってくるんだから……ホ○ォ?

 マサイさん(妻?)はスマホを取り出し、動画でも撮影しているようです。なに? やっぱりこの夏をエンジョイしたいのか、ネットで炎上したいのか。

 ここで土下座すれば俺の勝ち。胸ぐらを掴まれて殴られたら俺の勝ち。というか、この状況の時点で裁判になれば俺達の勝利確実。

 マサイさん(小物?)がツブヤイターに投稿してくれたら、ネット民までもが味方。なんか最強に思える布陣だ。やつらは部屋から出てこないのが難点だけど。


「まぁまぁまぁ」


 ドウドウドウ。

 そんな言葉で停止してくれる方だったら、どれだけ楽だったか。


「なぎさ、下がって」


 身長は低くても、武術に関しては負ける気はしない。

 雛のときだって負けなかったし、今回も負ける気がしない。

 後1歩、前に出てきたら……。

 その前になぎさ、早く腕から離れ……て……欲しいんだけ……ど?

 背後に気配を感じる。というか、物凄く大きな影で覆われた。

 もしかして、仲間がいたのか! とも思ったけど、マサイさんの顔が驚愕に満ちていて、さっきまでの大きな態度が嘘のように縮こまり始める。

 だったら大きな態度に出なかったらいいのに。情けないったらありゃしない。

 俺の足もガクブルしていたりするんだけどね。

 だって、俺を覆い尽くすほどの影だよ? 絶対に北京原人がジャワ原人だって!!

 そっと上を向くと目があった。

 運命感じちゃ……うわけないでしょうが!

 白人さんだけど怖いよ。ニコっと笑ってきてくれるのが余計に怖いよ。


「あ、ロゼっちゃんオッス」


「ナギサオッスオッス」


 2メートルは超える外国人の方とお知り合いとは、異文化コミュニケーションだね。

 てか、どういう繋がり? まぁいいや。味方のようだし。


「あれ、捨ててきて」


 マサイさんを指さして言うポニーテールの美少女。


「オウイエ」


 親指を立てて、しっかりと手入れされた歯がキラリと輝く。

 オウマイガー。これは俺の心の声。

 マサイさん(人形)をヒョイと抱え上げて、ゴミ箱に向かっていくけど「そこ生ごみダメだよ」「オウイエ」すると、海に向かって歩き出す。


「オウマイゴッド」


 俺に宿りし神よ。後は任せた!

 黒いスーツを来た外国人さん。そのまま海に投げ捨てる。


「キャーーーー光忠がぁああああ!! 誰か助けてぇえええええええピカ」


 以下略。

 訴訟問題に発展しかねないからね。

 海に落ちたマサイさん(ハリボテ)は、見なかったことにしよう。周りの野次馬さん達も「ナニカミマシタカ?」と威圧的に言われて全力で顔を横に振ってたし。


「ナギサアデュー」


「バイバ~イ」


 大きく手を振り、2人は何事もなかったかのように別れを告げる。


「ピ……」


 なにも聞こえない。聞こえないんだから! 


「ねぇなぎさ」


「どったの?」


「さっきの外国人さんは誰?」


「あぁ、凛のSPだよ。今日は休みだったみたいだね」


 さぁいこっか。

 う、うん。

 後ろを付いてきている3人を盗み見てみる。3つの顔が串だんごのように並んでいて、三女はツインテールを揺らしてガッツポーズ。次女は三女を叱りつけている。長女は……どうでもいいらしく、あまり気にした様子はない。てか暑いから中に入りたがっているし。

 お付の人はいないようだけど、隠れ見て楽しんでいそう。あの人、そういう趣味ありそうだし。

 時が過ぎれば野次馬の方々も居なくなって、俺となぎさは入場券売り場の列に並ぶ。

 入場券買うだけなので、列の進み具合は良好。

 夏の同人イベントで、動かないと嘆く勇者達は変態さんだと思うの。

 順番はすぐにやってきて、大人2枚購入して中へと入った。だが、俺はまだ知る由もない。待ちかまえている残酷な未来を……。

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